「50歳からでも別人に」GE流最強人材の育て方日本GE社長兼CEO 安渕聖司氏

50歳で米ゼネラル・エレクトリック(GE)グループ入りし、わずか約1年で金融部門の日本法人トップに就いた日本GE(2016年4月から三井住友ファイナンス&リース傘下)の安渕聖司社長兼最高経営責任者(CEO)。総合商社やビジネススクールでリーダーシップを学び、実務経験も豊富だったにもかかわらず、「入社してからは驚きの連続」という。「マネジメントとしては50歳からの経験で別人になった」と語る安渕氏が、GEグループで働くことを通じ、自分をどのように変えてきたのか。その経験を語る。

入社1年でCEO

私がGEの金融部門であるGEキャピタル傘下のGEコマーシャル・ファイナンス・アジアに入社したのは50歳のときです。驚きの連続でしたが、一番驚いたことは、入社して1年1カ月で日本の法人金融事業を担うGEコマーシャル・ファイナンス・ジャパンのCEOを任されたことです。

私は1979年に三菱商事に新卒で入社し、20年を過ごすうちに、金融のプロフェッショナルを目指すようになっていました。その一環で投資ファンドを経験し、さらに45歳で投資銀行に移り、株式投資家と企業をつなぐ資金調達に関わりました。

2006年6月に入社したとき、私のポジションはアジアのM&A(合併・買収)の責任者でした。買収や提携でビジネスを大きくしていく役割で、翌07年5月には三洋電機クレジットの買収という大きなディールを成功させることができたのです。次はベトナムや中国など、さらなる買収を考えていたところでした。ところが、その翌月に直属の上司でアジアのCEOだったジョン・フラナリーに呼ばれ、「GEコマーシャル・ファイナンス・ジャパンのCEOをやってくれ」と言われたのです。

「CEOって何をするのか」

CEOがどういう仕事なのか、よく分かりませんでした。入社して1年しかたっておらず、事前には何の打診もありませんでした。金曜日の夕方に呼ばれ、「週末じっくり考えて月曜日までに返事をしてほしい」と言われました。「はい、やります」とはとても言えませんでした。

日本GE社長兼CEO 安渕聖司氏

「上司は私のことをそんなによく知らないはずだ」とも思いました。ところが、彼は「君が思っている以上に、僕は君のことを知っている。1年間じっくり見ていたし、周りの人間にも君のことを聞いていた」と言うのです。家族が背中を押してくれたこともあり、私は申し出を受けることにしました。

その2カ月後にCEOに就任、大変な日々が始まりました。何をすればいいのか分からないのです。当時のGEのグループ各社のCEOに時間をもらい、「私は何をすればいいのか、CEOは何をする役割なのか」と正直に尋ねまわりました。

CEO 専門分野は任せる

まず、ひとつ学んだのは「自分のチームを強くする」、つまり「信頼できるチームに専門分野は任せる」ということです。CEOになれば、話の9割が自分の専門外になるのですから、その能力がマネジメントに求められます。GEは専門性を重視しています。人事の責任者は私よりはるかに人事に詳しい。そういうチームをつくることが、私の仕事です。専門分野はある程度まかせて、しっかり権限委譲しなければならない。

強いチームであれば、CEOには大事なこと、難しい課題しか上がらなくなります。会社組織において、トップの報酬がなぜ高いのかといえば、難しいことを処理できるからです。専門性の高いチームをつくっておけばCEOもより難しいことに時間をさけるし、外とのつながりを持つことができるのです。

マネジメントはスキルだ

日本企業には「マネジメントはスキル」だと認識されていないと思います。もし本当にスキルであれば、違う部門のトップになってもマネジメントができるはずです。しかし、実際はそうでないことが多い。

金融であれば金融の分野を長く担当した人がそのまま上に行くのが一般的で、分野を超えてCEOが異動することは非常に少ない。GEの例を挙げると、現在のGEのヘルスケアビジネスのCEOは、GEキャピタル出身、そう私の元上司だったジョン・フラナリーです。マネジメントとしてのスキルを評価されて異動したのです。

もちろんその業界の理解は必要です。早く学ばなくてはいけない。しかし、マネジメントに求められるのは、リーダーシップを持って引っ張ることです。「成長のために何が必要なのか」「人材は育っているのか」「お客様は我々との取引・サービスをどう評価しているのか」「社員の満足度はどうなのか」――という幾つかのことを理解すれば、今後打つ手が分かってくる。それがマネジメントスキルです。違う経験を持った人が、違う目で見た方がいいこともたくさんあります。私は「GEに来てから、マネジメントを学んだ」とはっきりそう言えます。

一方で、CEOの仕事で一番辛いと感じたのは「一番大変なことを自分ひとりで決めなければいけない」ということでした。しかし、それが自分を成長させてくれることでもある。それまで小さなチームしかマネージしたことがなかったこともあり、GEに来る前と今では、私のマネジメントスキルは別人のレベルになっていると思います。

「年功序列」がないことの意味

もうひとつ、日本の企業とGEに大きな違いがあります。それは、GEは日本法人にも「年功序列」は全くないということです。

実際、私は社員の年齢を知りません。ある人の昇進を考えるときに、いつ大学を出て入社したか、会社での実績もわかるのですが、それは年齢と直接関係ありません。天才少年で、15歳で大学入学資格検定(大検、現在の高校卒業程度認定試験)を取っているかもしれない。もともと年齢は考慮に入れないことになっているので、知る必要もないのです。いろいろな実績を見て、「この人間は優秀だな」と仕事を頼み伸びていくと、気がつけば30歳代で私の直属の部下になるケースもあります。

日本の場合、「何歳くらいがこのポジション」と決まっている企業が多い。GEでは、現CEOのジェフ・イメルトがトップになったのは45歳です。26歳でGEに入社して、約20年でCEOになりました。

CEOの候補生になった人たちには、成長分野でも、トラブルがあるところでも、開拓分野でもさまざまな経験をしてもらいます。そのなかで活躍できる人をどんどん成長させていくのです。年齢にかかわらず能力を発揮し、実績を作っていけるところは大きな違いです。

得意・不得意分野を見極める

成長するスピードが速い人と、遅い人が出てくれば、人によっては挫折感を味わうのではないかと思う人もいるでしょう。しかし、これも横並びの「同期」「年齢」という考え方があるから生まれるのではないでしょうか。

我々は人の能力は違うと考えています。得意、不得意がある、という言い方でもいいかもしれません。全ての人が同じレベルの仕事をするとは思っていない。ですから、人によって依頼する仕事内容も違っています。よりできる人は仕事も増え、報酬も役職もあがります。

その人にあった仕事をしてもらうということで全員が自分の能力以上のものを発揮できると信じています。どういう形であれば会社に貢献できるか、それが大切です。人と違うことで競合はしません。

ここで大切なことは、上司が部下を本当にコーチングできるかです。数字に強い人、対人折衝に強い人、新しいことをやりたい人、決められたことは完璧にできる人、いろいろなタイプの部下がいます。これをみんな同じにしようとはしない。得意なところを伸ばして働いてもらいたい。不得意なことを無理してやってもらい、嫌々会社に来ても楽しくないでしょう。全員を同じ型にはめると、平均点は取れるが、誰も突出した力を持っていないチームとなってしまいます。

「仕事の3割は人材育成」イメルト氏

人が育つのは「仕事8割、研修2割」と考えています。年齢にかかわらずどんな仕事に貢献できるのか、ということに重点を置き、その人にあった仕事をデザインすること、能力を伸ばすために適切にストレッチすること、これができてこそ、マネジメントです。やらされ研修や、座学を与えても、それは成長にはつながりません。

マネジメントの仕事は人を育て、評価することにかなり割かれます。イメルトは「自分の仕事の3割は、人を育てることだ」と宣言しています。私自身、仕事のなかで「見てくれていた」上司が、リーダーシップを評価してくれCEOに就任しました。今、私の下には1100人の社員がいますが、社内の階層が分かれていても、伸びている若手が誰か、いつも見ています。誰が今、この分野で伸びているか。それを把握し育てることが、マネジメントの仕事なのです。

安渕聖司氏(やすぶち・せいじ)
1979年、早大政経卒、三菱商事入社。90年、ハーバード大学ビジネススクールMBA(経営学修士)修了。99年、米投資ファンド、リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。2001年、UBS証券会社入社。06年、GEコマーシャル・ファイナンス入社、アジア地域事業開発担当副社長。07年、GEコマーシャル・ファイナンス・ジャパン社長兼CEO。09年、GEキャピタル社長兼CEO。16年より現職。

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