祝日大国増えぬ休息 有休取得率低迷続く

6月は各地で山開きが行われる(写真は昨年、鳥取県大山町の大山)
6月は各地で山開きが行われる(写真は昨年、鳥取県大山町の大山)
2016年8月11日に新祝日「山の日」が誕生する。実は構想段階では6月5日が「山の日」に推されていた。日付決定の経緯から祝日過多の日本の特殊事情がうかがえる。

「6月第1日曜を『山の日』にしよう」。12年10月3日、「山の日」制定に向けた一大集会が国会議員らも参加し、東京都で開かれた。その冒頭で主催者はこう力強く宣言した。

6月案に逆風吹く

6月は夏山シーズン到来で各地で山開きが行われる。第一日曜なら梅雨入りにはまだ早く天候も安定している。日本山岳会や日本山岳ガイド協会など山岳5団体は6月第一日曜こそ、山に親しむ日にふさわしいと考えたのだ。

ところが13年4月以降、風向きが変わる。祝日法改正に向けて超党派の議員連盟が発足。関係団体に意見を聞くと6月案に反対が相次いだ。一般社団法人全国山の日協議会(東京・新宿)代表理事の磯野剛太さんは「教育関係者は授業日数が減ることを懸念し、経済団体は営業日の減少に難色を示した」と証言する。

意見を調整する中で、8月11日が有力候補に急浮上した。学校は夏休み中で授業に差し障りはない。企業はお盆休みとつなげやすいので経営への影響も軽微だ。かくして「山の日」は8月11日に落ち着いた。

ニッセイ基礎研究所の土堤内昭雄主任研究員は「日本は祝日過多社会。教育や企業活動への影響を考えれば減らしてもいいくらい」と指摘する。米国の年間10日や英国の8日などと比べ、日本は「山の日」を含め、16日と先進国の中でも祝日が多い。

祝日が少ない先進諸国だが、年間休日数では日本を上回る。有給休暇の付与日数が多いからだ。しかも日本は有給休暇取得率が低く、実際の休日は各国より少ない。14年の年次有給休暇の取得率は47.6%で前年より1.2ポイント減少した。政府は「20年までに取得率70%」の目標を掲げるが、1999年を最後に50%台を割り込んでいる。

土堤内主任研究員は「日本は年間労働時間が長い。祝日を作って余暇時間を増やそうとする政策意図がうかがえるが、有給休暇を取りやすくするのが本筋ではないか」と説明する。

経団連は今春、会員企業に有給休暇を1人当たり年3日多く取らせるようにと呼びかけた。「祝日が増えるよりも休みが分散化した方が働く人もリフレッシュできるし、観光業界にとっても需要が平準化し、売り上げ増を期待できる」(経団連)からだ。

上司や同僚に配慮

ただ、厚生労働省の意識調査(14年)では、年次有給休暇の取得に7割弱が「ためらいを感じる」「ややためらいを感じる」と回答した。その理由(複数回答)は「みんなに迷惑がかかると感じる」「職場の雰囲気で取得しづらい」「上司がいい顔をしない」などが上位に並び、職場環境の問題が浮き上がる。

周囲に気兼ねして休めないなら、職場で一斉に休める理由を作ればいい――。厚労省は13年度から地域単位のユニークな取り組みを始めた。各地の祭やイベントの開催日などに合わせて地域内の企業に有給休暇の取得促進を呼びかける。16年度は全国5地域で実施する。

例えば静岡市では、1992年から毎年開催する大道芸ワールドカップが11月3~6日に開かれるのに合わせて、平日の4日に社員が有休取得するよう市内企業に促す。静岡労働局の担当者は「4日は平日なので子どもは学校がある。親だけ休んでくれるのか心配」と気をもむ。

仕事に根を詰めていても独創的な発想やイノベーションは生まれづらい。きちんと休むことは働く側と雇用主の双方にメリットがある。

6月は唯一祝日のない月だ。もし「山の日」が当初の構想通りだったら……。

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問われる効率への意識 週休2日定着でも労働時間減らず

厚生労働省の「就労条件総合調査」によれば過去四半世紀で、日本の年間休日数は約20日増えた。みどりの日や海の日といった新たな祝日に加え週休2日制が定着した結果だ。ただフルタイム勤務者の週当たり労働時間はこの間も51~53時間で推移しており、減っていない。早稲田大学の黒田祥子教授は「休日が増えた分、平日の労働時間は1970年代から現在まで1日当たり1時間12分長くなっている」と説明する。

業務量が減っていないのがその一因だ。ただ、黒田教授は「同僚が残業していると先に帰りにくいなど、周りを気にする傾向がある。就業時間内に仕事を終わらせるよう意識して働かないと、休日増加の恩恵は受けられない」と指摘する。

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関連インタビュー■ニッセイ基礎研究所の土堤内昭雄主任研究員

ニッセイ基礎研究所・土堤内昭雄主任研究員

日本は先進国の中でも年間祝日数が際立って多い。そんな状況を「祝日過多社会」と名付けたニッセイ基礎研究所の土堤内昭雄主任研究員に話を聞いた。

――なぜこんなに祝日が増えたのですか?

「すべての祝日には意味があり、価値もある。16日ある祝日はどれも大切だが、ここまで増えてきたのは日本人の働き方、休み方に問題があるからでもある。経済協力開発機構(OECD)諸国の中で日本は長時間労働者比率が高い。本来なら有給休暇を取得して休めばいいのに、周囲に気兼ねして自分だけ休めないムードが企業社会にある。そこで国民の祝日を追加し、労働者の余暇時間を一律に増やそうとする政策意図が見て取れる」

「みんなが一斉に休むのが、成熟した社会のあり方として望ましいとは思わない。祝日は年間10日くらいにして、有給休暇取得率を上げた方がいい。一斉に休むから観光地や交通機関は混雑し、宿泊費なども特別料金で割高になる。個人が主体的に休めるようになった方がプラスも多いが、一般的に日本人は仕事のマネジメントスキルが未熟なので、自分で進行管理して休日をコントロールできるようになれない」

――長時間労働がなかなか減らない日本の状況を考えると、祝日増にも相応の効果があると思うのですが

「労働時間の削減はもっと正攻法でいくべきだと思う。仕事の無駄を省いて生産性を上げる。今までのように社員を一律管理する手法自体が今後は通用しなくなる。生産年齢人口が減少し、子育てや介護など様々な個人的事情を抱える社員にどう働いてもらうかが重要だ。一律に休まなければ職場が回らないようなマネジメントでは、こうした状況に対応できるはずもない。有休取得に限らず、個々の事情に応じて働ける環境を整えていかなくてはいけない」

――有給休暇の取得を阻む要因は職場以外にもあるのですか

「学校のあり方も見過ごせない。もし平日に有休を取れたとしても子どもは授業があって学校を休めない。そのため家族持ちだと有休を取る意義が薄れてしまう」

「私は1980年代に企業派遣で家族を伴って米国に留学した。就学前の我が子を連れて平日の動物園に行ったとき、小学生くらいの子どもを連れた家族が多くいたのに驚いた。地域の特別な休校日だと思ったが、後日同僚に確認したら違っていた。『親の仕事が休みだったから、学校を休ませただけだろう』。同僚が平然と説明するのを聞いて、もう一度驚いた。日本では学校の授業が最優先。家庭の事情で学校を休むなんて考えられない」

「当時は米国の考え方が理解できなかった。でも今なら分かる。学校だけが教育の場ではなく、家庭でも教育はなされる。米国は家庭教育も大切に考えているから、保護者の申し出があれば授業日でも子どもが休むのを認めている。例え旅行やレジャーであっても親と過ごす時間は貴重な教育機会だ。日本の学校も、親の有休に合わせて抵抗なく休めるようになってもいいのではないか」

(編集委員 石塚由紀夫)

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