沖縄の漁アギヤーとの出会い

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/6/26
ナショナルジオグラフィック日本版

沖縄の伝統的な漁「アギヤー」を取材して30年、写真家・中村征夫さんの情熱が結実した写真集『遙かなるグルクン』を刊行した。写真集では厳しい漁にいどむ海の男たちをあえてモノクロで撮影。そのこだわり、ウミンチュとの思い出、撮影時のエピソードなど、とっておきの秘話を語っていただこう。
漁を終えて港に急ぐ、サバニの舟団。(撮影:中村征夫)

仕掛けた網の中に魚群を追い込んでいく

明治中期から受け継がれている伝統漁法「アギヤー」を長年取材した。

沖縄本島南部、糸満が発祥の地とされるアギヤーは、深い海から魚をアギンする(追い込む)という意味で、大勢のウミンチュ(海人)たちが次々と海に潜り、仕掛けた網の中に魚群を追い込んでいく勇壮な漁である。

今から30年ほど前になるが、アギヤーを引退した古老が現役時代を振り返り、突然泣き出したことがあった。幼少の頃に家が貧しく、糸満の網元に売られたが、泳げないため錘(おもり)を体に縛られ海に放られたり、様々なしごきに耐える日々だったという。そして、同じ境遇の子供や兄弟たちが大勢いたと聞き、私は強い衝撃を受けたのだった。

沖縄の水産業は、古老のようなヤトゥイングヮ(雇い子)たちが大半を支えてきた。そのことを知った私は、ウミンチュたちの、内に秘められた人間性に迫りたいという思いが、ふつふつと湧き上がってきたのだった。

あわただしい昼食を終えて一服。憂いを含んだ眼元は、厳しい過去を物語っているように感じた(撮影:中村征夫)

かつてのアギヤーは、サバニという小型の舟に4~6人が乗り、10艘ほどで沖合のサンゴ礁海域を目指していた。杉材を張り合わせて作ったサバニは、スピードを優先させるため細長い設計となっている。

居住性はまったく考慮されていないので、乗船、下船の際は転覆するのではないかと思うほどよく揺れた。漁港に係留されたサバニに大勢の子供たちが乗船し、大きく揺らしながらはしゃいでいる姿をよく見かけたものだ。

サバニには所狭しと漁網が積まれていたが、やがて漁が大掛かりになるにつれ網も巨大化し、それに伴いサバニも大型化していった。現在のサバニはグラスファイバー製が主流である。

目的の魚はグルクン(タカサゴ)である。沖縄県民にもっとも親しまれ、県魚にも指定されている大衆魚である。大きな群れを作るが、サンゴ礁から付かず離れず泳ぎ回る魚なので、ウミンチュたちが潜って網を仕掛け漁獲する。このやり方は、昔も今も変わっていないのである。

中村征夫(なかむら・いくお)
1945年秋田県昭和町(現・潟上市)生まれ。19歳のときに神奈川県真鶴岬で水中写真を独学で始める。撮影プロダクションを経て31歳でフリーランスとなる。1977年東京湾にはじめて潜り、ヘドロの海で逞しく生きる生きものに感動、以降ライフワークとして取り組む。数々の報道の現場の経験を生かし、新聞、テレビ、ラジオ、講演会と、さまざまなメディアを通して海の魅力や海をめぐる人々の営みを伝えている。主な著書に『全・東京湾』『海中顔面博覧会』、『海中2万7000時間の旅』などがある。主な受賞歴に、第13回木村伊兵衛写真賞、第28回講談社出版文化賞写真賞、第26回土門拳賞、2007年度日本写真協会年度賞など。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[書籍『遙かなるグルクン』を再構成]

遙かなるグルクン

著者 : 中村 征夫
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 3,672円 (税込み)


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