長期の運用、資産配分は許容できるリスク見極め

「長期投資で資産作り」について勉強中の筧ゼミの面々。今回は具体的な資産配分の決め方を学びます。岡根知恵さんが発表しますが、登壇するときプロジェクターの配線コードにつまずき、転んでしまいます。
筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 岡根知恵(おかね・ちえ、38)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。

 岡根さん! 大丈夫ですか。

岡根 ええ。平気です。人前で発表するのは久しぶりなので緊張して、下をよく見てませんでした。

宗羽 ケガはないですか。教室に思わぬリスクがありましたね。

 宗羽君は今、リスクを「危険」といった意味で使いましたね。資産運用にもリスクはつきものですが、ふだん使う場合と意味が違います。岡根さん、その説明から始めてください。

岡根 分かりました。投資初心者はリスクと聞くと、値下がりや元本割れの危険を考えがちです。でも資産運用の世界では「変動」、つまり資産の期待リターン(収益率)がどれくらいの幅でぶれる可能性があるのかを指します。期待リターンの値から上下にぶれる幅が大きいほどハイリスク、逆に小さいほどローリスクというわけです。

宗羽 投資ではどう生かせるのでしょうか。

岡根 自分が運用する資産の期待リターンが1年間にどの程度ぶれそうなのかを知れば、相場が乱高下しても冷静な投資判断ができるかもしれません。国内株式や債券、海外株式など各資産の過去のデータを分析すると値動きの傾向がそれぞれ分かるので、統計学を使って期待リターンとリスクを計算できます。

 実際にそうした試算は見つかりましたか。

岡根 公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2014年10月時点で資産別の期待リターンとリスクを公表しています。例えば国内株式の期待リターンは6%でリスクは25%です。これは国内株式に投資すると、統計学上は約68%の確率でリターンが6%を中心に上振れしたときは31%、下振れしたときはマイナス19%の範囲で動く可能性があることを意味します。

 日本株に10万円投資したら1年後に最大で13万1000円に増えるか、8万1000円に減る可能性があるということね。

岡根 楽天証券経済研究所ファンドアナリストの篠田尚子さんは「より慎重にみるなら、リスクの値を2倍にして考えるといい」と話しています。統計学上は2倍にした範囲に収まる確率が約95%に高まるからです。国内株式の例に当てはめると、リターンはプラス56%からマイナス44%で動くことになります。

宗羽 うーん、4割あまりも減るかもしれないのは厳しいですね。

岡根 そこで考えたいのが資産分散です。値動きの異なる複数の資産を組み合わせれば、リスクを抑えることが期待できます。例えば株式と債券は一般的に値動きが逆になりやすいとされるし、外国の資産にも投資すると分散効果が高まるといわれます。

宗羽 なるほど。

岡根 このグラフを見てください。国内株式、国内債券、海外株式、海外債券の4つの資産に配分する比率を変えるとリスクとリターンがどう変わるかを金融助言会社イボットソン・アソシエイツ・ジャパン(東京・千代田)に試算してもらいました。国内外合計で株式7割、債券3割にした「積極型」はリスクが12%程度、リターンは7%程度です。リスクの値を2倍にしてもリターンの下振れは最大でマイナス17%程度。GPIFの例と試算の条件が違うので単純比較はできませんが、分散の効果はうかがえると思います。

 積極型から「均等型」「慎重型」へと債券の比率を高めていくほどリスクは下がりますが、リターンも低くなっていますね。

岡根 それだけ債券は株式の値動きを和らげる効果が見込めるわけです。ただ金融市場は想定以上に動くことがあります。今回の試算期間でリターンの減少率が最も大きいのは08年です。リーマン・ショックが主な原因ですね。3つのポートフォリオの減少率は約20~36%と、いずれもリスクの値を3倍以上にした場合に相当します。増加率最大は日米欧が大規模な金融緩和を実施した13年でした。

宗羽 投資をするなら数十年に1回ともいわれる暴落や急騰も頭に入れておく方がいいですね。

 ほかにも大事なポイントがありますよ。今回は3つのタイプを示していますが、自分のポートフォリオを考えるとき資産を不動産投資信託(REIT)や定期預金などに広げる選択肢があるし、リスクとリターンの組み合わせは無数になります。そのうち、同じリスクで最もリターンの大きいものが「お得な資産配分」といえます。

宗羽 でも実際に配分を考えるのは難しそうです。

岡根 必ずしも自分で各資産のリターンやリスクを調べたり、配分比率を考えたりしなくても構いません。最近はネットを通じて無料で資産配分例を示すサービスを手掛ける金融機関が増えています。年齢や投資額、運用期間や目的といった項目を入力すると、利用者のリスク許容度に応じたポートフォリオを提示します。初心者はこれを参考にしてもいいでしょう。ただ自分で個別の株式・債券に投資するのはハードルが高い人は、指数に連動する低コストの投資信託が一案になります。

■シャープレシオも参考に
イボットソン・アソシエイツ・ジャパン最高投資責任者 小松原宰明さん
リスクとリターンを使って投資信託の運用効率をみる指標があります。「シャープレシオ」と呼ばれ、投信のリターンから国債利回りなど無リスク資産のリターンを引き、リスクで割って計算します。超低金利が続いているため、最近は単純にリターンをリスクで割る計算方法でも代替できます。値が大きいほど、より低いリスクで高いリターンを挙げているので運用効率が良いと言えます。
例えばリスクが10%でリターンが3%の投信Aと、リスクが25%でリターン7%の投信Bのどちらかを選ぶとします。リターンは投信Bの方が有利ですが、リスクも高くなっています。そこでシャープレシオをみるとAは0.3で、Bは0.28です。運用効率に着目するとAの方が優れています。シャープレシオは投信情報会社のサイトなどで確認できます。(聞き手は藤井良憲)

[日本経済新聞朝刊2016年5月28日付]

近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし