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互いに気の重い目標設定

多くの会社が年度末を迎える3月は、その年度の実績が確定する大事な時期であるとともに、来季向けの準備が進む時期です。

部下の皆さんにとって、大いに気になるのが「来期はどんな個人目標になるのか」ということ。目標の達成度は、評価に直結しますから、当然です。

一方、上司にとって部下の目標設定は気の重いイベントです。目標を押し付ければ部下のモチベーションは下がり、自己申告させれば安全を見た低めの目標があがってきて個別に交渉をする必要が生じます。

そして、話し合いの結果、上司が押し切り、部下は「最初から結論が決まっている茶番劇じゃないか」と不満を持ちます。

今回は、目標設定に上司と部下がどう向き合えばよいかがテーマです。

上司の言い分

目標設定は大変ですよ。会社からは、なるべく部下の自主性を尊重するように言われていますが、そうはいきません。部下は、達成しやすいように低めの目標を出してきます。中にはとんでもなく低い目標を出してくる者もいます。その通り受け入れたら、全員達成しても部門は未達成という間抜けな話になってしまいます。そんなことは認められません。しかたがないので、部下から提出された目標を上方修正させるよう話し合いをします。

目標設定の時期は、こちらも忙しいのです。本音で言えば、部下のかけ引きにつきあっている余裕はありません。最初から部下がチームの状況や自分の立場を考えて、妥当な目標を提示してくれば苦労はなくなります。部下の中には、そこそこ高めの目標を出してくる者もいます。そういう者は仕事ができますね。みんなそうしてほしいものです。

部下と話し合いをしても目標の難易度のギャップが埋まらないときは、押し切るしかないですね。個人目標の総和と部門目標を一致させることが最優先ですから。

もうひとつ。部下には自分の目標を大切にしてほしいと思っています。設定して数カ月たつと、自分の目標を忘れている部下もいます。

正直なところ、目標管理に関する業務は気が重いです。部下との話し合いのほか、記入書類も多い。それに、最後は部下も渋々目標を引き受ける状況で、モチベーションのプラスになっていない気がします。個人の目標管理をやめた会社もあるそうですね。うちの会社もそうしてほしいと思います。

【部下に求めること】

*目標設定でかけ引きをしないでほしい

*チームの状況や自分の立場を考え、妥当な目標を申告してほしい

*自分の目標は大切にしてほしい

部下の言い分

個人目標の設定時期はストレスがたまります。目標を自己申告するように言われ、出すと、必ずといってよいほど、上方修正が指示されます。最後は結局押し付けられるのですから、茶番劇ですよ。そんなことをするなら、最初から上司が決めればいいんです。

自己申告する場合は、ある程度低めに出します。どうせ上乗せされるのですから。最初から高めに出したら、さらに上乗せされてとんでもないことになりますよ。前にそういうことがありました。

だいたい、会社や上司の求める目標値は高すぎます。低成長のいまの時代に無理な水準ばかりです。正直言うと、目標が決まるとモチベーションは落ちます。最初から無理だとわかっていますから。次も低い評価になると思うと気分は沈みますね。目標を大切にしろと言われますが、こんな状況で自分の目標だとは思えません。

成果主義を見直す会社が増えているのに、うちの会社の人事制度はいまだに目標管理です。チームで評価するとか、プロセスをもっと評価するような制度になればいいと思っています。

【上司に求めること】

*自己申告させておきながら、必ず上方修正を指示するのはやめてほしい

*目標を押し付けるのはやめてほしい

*いまの環境にあわせた妥当な目標値にしてほしい

*目標管理制度を見直してほしい

目標設定によりよく向き合うために

上司も部下も、目標管理については、あまり前向きではなさそうです。どうとらえたらよいか、考えましょう。

上司への提案

目標管理の主旨は、上司が部下の目標を管理することではありません。部下がやりがいのある目標を設定することで、その目標の達成に向け、モチベーションを高め、自己管理をするのが主旨です。

そのために必要なことは、次の3点です。

(1)部門方針の明示

部下に目標を決めさせる前に、部門としての中期構想、それに基づく来年度の構想と部門目標を明示する必要があります。さらに、個々の部下に期待する役割を伝え、納得を得ておくことが求められます。これらのことをせずに自主設定させれば、部下から方向はバラバラ、高さも期待に届かない目標が出てきます。

(2)ガイドラインの提示

部下から申告される目標の高さをこちらの期待に近いものにするためには、ガイドラインが必要です。部下に共通するテーマには、一定の幅を持たせたガイドラインを提示します。例えば、営業の業績目標ならば売上高、利益に幅を設け、少ない売り上げで大きな利益を上げるか、薄利多売でいくか、部下なりに作戦を立てられるようにします。なお、ガイドラインは本人の役職、資格等級などに応じて変える必要があります。一律というテーマはあってもよいですが、すべてが一律では不自然です。

(3)納得度を高める話し合い

納得度を高める作業は、目標設定の前からはじめます。部下のキャリアプランを事前に把握しておき、その上で中期構想に基づく役割分担を提案し、それにもとづく目標を作成させるということです。部下は自分のなりたい姿に近づける、得たいスキルが得られるような役割を担うことができ、それがモチベーションにつながります。

申告された目標の交渉では、チームの状況をオープンにして協力を求めるとともに、本人の実力を認め、歩み寄りを促す方向で行います。

目標管理を面倒な手続きととらえるのではなく、部下のやる気を引き出し、部門の業績向上につなげるためのマネジメントツールだととらえ、活用しましょう。

*部下がやりがいを感じられる目標設定にする

*方針やガイドラインなど事前に情報を出す

*納得度を高めるために設定前から話し合いをし、交渉では歩み寄りを促す

部下への提案

本来、目標管理は、個人の自主性を尊重し、やる気を引き出すための仕組みです。そう感じられないとしたら、会社や上司の運用が悪いのです。だからといって、仕方がないと済ますわけにはいきません。もうじき目標の自己申告時期が来ます。1年なり半年なりつきあう目標なのですから、コミットできるようなものにしたいものです。

目標設定の前段階で、求められる目標の難度はある程度予測できるはずです。前年度の目標と実績、来期のチームの年間目標など、推測のための材料があります。目標を高く自己申告して、さらに上乗せされたらという気持ちはわかりますが、交渉の幅はせいぜい10%です。あまりに低めに出すと、意識の低い部下というレッテルを貼られてしまいます。

目標設定にあたっては、自分の将来を考えた目標表現にするとよいでしょう。例えば、将来コンサルタントになりたいと思っている営業マンは、コンサルティングセールススタイルによる受注を***円というように。このように設定した目標に対しては前向きになれますし、忘れることもありません。

個人目標の設定をやめ、チーム目標にした企業もありますが、成果主義はなくなりません。突き詰めれば経営側は利益の中からしか配分はできません。利益を多くあげたチーム、個人に多く配分したいのは当然です。そこは、割り切るしかないでしょう。

*求められる目標の難度を予測する

*申告する目標の高さは想定着地点の10%の範囲にする

*自分の将来を考えた目標表現にする

目標管理をお互いにメリットのある仕組みとするために、上司・部下ともに歩み寄ってほしいものです。

[2013年3月27日掲載の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

濱田秀彦(はまだ・ひでひこ)
株式会社ヒューマンテック代表取締役、マネジメントコンサルタント
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。

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