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定年楽園への扉

定年後の移住、自然重視より地方都市が現実的 経済コラムニスト 大江英樹

2016/6/16

定年退職した人が田舎に移り住みたいという声をよく聞きます。自然の豊かなところで、のんびりと過ごす、いわば「晴耕雨読」のような生活であり、これこそがまさに“定年楽園”であるかのようです。

ところが、実際にはそれまで都会に住んでいた人がいきなり山奥や農村に移住するというのはそれほど簡単なことではありません。都会とは生活スタイルもまったく異なり、人とのつながりも何にもないわけですから、戸惑うことになるであろうことは想像に難くありません。そういった自然の豊かなところは実際に住んでみると、都会暮らしに慣れた人にとっては不便なことに気がつくはずです。

私は定年後の地方移住は良いことだと思いますが、いきなり自然のど真ん中に入って暮らすのではなく、地方都市に移住してみるのが良いのではないかと思っています。地方都市、特に県庁所在地クラスの都市であれば、東京と比べて便利さはさほど変わらず、快適な生活を送ることができます。

東京には確かに何でもありますが、問題は地域が広すぎることです。銀座、新宿、渋谷、上野と繁華街はいずれも離れており、電車などで移動しなければなりません。食材なら築地、芸術は上野の森、家電量販店なら新宿といったように、非常に高い専門性を持つ地域がそろっていますが、地域の間は徒歩で行ける距離ではありません。これが地方都市の場合、多くの機能は中心的なエリアに集まっています。

フィデリティ退職・投資教育研究所の所長、野尻哲史さんはリタイア後に住みたいところとして、四国の松山市(愛媛県)を挙げておられます。私も四国に5年ほど住んでいたことがありますので、松山が素晴らしいところだということは同感ですが、松山に限らず同じぐらいの規模の地方都市には素晴らしいところがたくさんあります。

私は仕事で47都道府県の県庁所在地は全て訪れたことがありますし、今でも地方での講演が多いので、年間20カ所ぐらい地方都市を回っていますが、「ここなら住んでみたい」と思うような魅力的な街が多いです。

私自身、サラリーマン生活の半分以上を地方都市で過ごしました。住めば都とはよくいったもので、今でももう一度住んでみたいところばかりです。もちろん一口に地方都市といっても規模によって利便性はかなり異なりますし、地方都市の中には中心部の空洞化が進んでいるところもあります。先日もかつて私が住んでいた地方都市に出かけてみると、当時は多くの買い物客でにぎわっていた商店街が見る影もなくさびれてしまっているのを目の当たりにして、残念な気持ちになりました。ただ、そういうところでも郊外にあるショッピングモールには人があふれており、昔と変わらない活気に満ちていました。

サラリーマンで会社を退職した後も仕事を続けるのであれば東京などの大都市のほうが有利に思えるかもしれませんが、最近は必ずしもそういうわけではありません。これはまた別の機会にお話ししたいと思いますが、インターネットを使って自宅などで働くテレワークのように、地方にいても東京と同じように仕事ができるという機会が増えてきているからです。

リタイア後には仕事をせずに暮らしたいという人にとっても、地方移住は向いているといっていいでしょう。なぜなら、退職して何も仕事をしないという人にとっては生活コストの安い便利なところで暮らすのが一番のはずだからです。

冒頭でお話ししたように「定年楽園」は自然に囲まれた緑豊かな土地に住むということだけではありません。何よりも大切なことは、自分で好きなことをしながら快適な暮らしができるようになることです。それができれば、どこにいても「楽園」です。私自身の体験からいって、定年後の地方都市移住というのが「定年楽園」への扉の一つであることは間違いないだろうと思います。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は6月30日付の予定です。
大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
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