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船井氏(左)と前田氏

船井氏(左)と前田氏

「後継者選びは大変」――。セブン&アイ・ホールディングスなどで後継者選びを巡る人事交代劇が次々起こっているが、大阪の名門電機メーカー、船井電機のケースはさらに深刻だ。創業者は89歳の船井哲良会長。主力のテレビ事業が深刻な不振に陥り、過去3年間で船井会長後継となる社長交代は実に3回目。旧三洋電機出身の外部人材に後継を託すが、創業者の苦闘は続きそうだ。

5月23日に開かれた船井電機のトップ人事の記者会見。「会長からは『今期のマイナスを今後3年くらいの周期で取り戻すように頑張って欲しい。その中で、次の若い人の育成については特に力を入れてくれ』と強く指示された」。新社長に就任する前田哲宏氏はこう強調した。しかし、会見には肝心の船井会長の姿はなかった。

社長在任1年半、前任はわずか9カ月

船井電機は2016年3月期の連結決算では、最終赤字が過去最大の362億円までふくらんだ。5月下旬に約1年半社長を務めた林朝則氏が退任する人事を発表。船井会長も代表権のない取締役相談役に退く。林氏は14年10月に社長に復帰したばかり。前任の上村義一氏はわずか9カ月で退任しており、船井会長の後継となる社長人事は迷走が続いた。

同社は1961年に船井会長が創業。中国の協力工場を活用した低コストな生産を武器に北米でテレビを販売し、一時は台数シェアで首位のサムスン電子に迫るほどの勢いがあった。だが、08年に船井会長が社長を退任して以来、業績不振が続いている状態だ。

「今後のことについてみなさんで議論したい」。15年11月9日、大阪府大東市の船井電機本社会議室。午前9時から取締役ら幹部全員を集めて船井哲良会長はこう切り出した。同日午後の取締役会では、同社が前期の最終黒字から一転、2016年3月期に95億円の大幅な最終赤字になると決議されることになっていた。通常の取締役会では議論が深まらないとみた会長が自ら幹部を集め、意見を聞いた。

船井会長は高齢ながら週2~3回出社し、早朝から会議に出る。ある幹部は「会長が朝から来ている日はやはり緊張感が走っている」とこぼす。ただ、頭ごなしに課題を投げつけるワンマン経営者とは質が異なる。「全員で話し合い、全員の意見をきちんと聞くという姿勢は一貫している」という。

それは大株主であり現在も船井電機という会社が自分の持ち物である、という強い意志のあらわれだろう。個人と家族や資産管理会社を含めれば株式の5割以上を持つ。

取締役の大半が60歳代後半

一方で、経営面の機動力は高まっているとはいえない。課題となっているのは若手幹部の育成だ。同社は取締役の大半が60歳代後半以上。今回、「経営陣の若返り」という意味合いを含めて社長に指名された取締役の前田氏も60代で、会長もこれには危機感を感じているようだ。

前田氏は三洋電機で太陽光発電事業のトップを務めた経験もある。14年10月からは林社長や船井会長とともに、代表権を持つ取締役として両氏を支えてきた。経営企画を担当していた時代は、船井会長と林社長の考え方や言い分を対外発信する役割も担っていた。船井会長はこうした手腕を評価し、前田氏に経営を委ねることにしたようだ。

船井電機は自社ブランドにこだわらず、低コストでテレビのOEM(相手先ブランドによる生産)供給を請け負う戦略を展開。米ウォルマートなどと強い関係を築き、高い収益力を誇った。この戦略を主導したのが船井会長だ。だが、カリスマ経営者に代わる新たな針路はいまだ見えていない。「若い人の育成を」と前田氏に託した船井会長。89歳の創業者の苦悩は深い。

(長田真美 川上梓)

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