スマホ画面越しに通訳がおもてなし凸版印刷、訪日客に「顔が見える」安心サービス

箱根の温泉旅館では英語で芸者遊びを楽しんでもらうイベントを開催するなど、日本文化に触れたいという訪日外国客は増えている
箱根の温泉旅館では英語で芸者遊びを楽しんでもらうイベントを開催するなど、日本文化に触れたいという訪日外国客は増えている

東京五輪・パラリンピック開催をにらみ、凸版印刷がタブレット(多機能携帯端末)やスマートフォン(スマホ)を使った訪日外国人向けの通訳サービスに取り組む。このほどコールセンターと提携した映像通話や翻訳アプリを開発した。「顔が見える会話」にこだわり、商業施設や観光地でのコミュニケーションを手助けする。

5月中旬、茨城県つくば市で開かれたG7茨城・つくば科学技術大臣会合。各国の官僚や研究者が集まる中で、「メイ・アイ・ヘルプ・ユー」と書かれた移動型ロボットが近づいてくる。「いらっしゃいませ」という感じだ。

上部に設置されたタッチパネルに人の顔が表示され、映像通話で近隣の観光地について英語で説明してくれる。説明を終えると、ロボットは別の人がいる場所に向かい、再び道案内を始める。

これは、凸版印刷による訪日外国人向け通訳サービス「とーく de TALK(とーくでとーく)」の実証試験の一場面。各国の政府関係者や研究者、経済人、メディア関係者らが集まる場で、タブレットを使い、外国人をコールセンターにいる通訳者と映像通話でつなぎ、観光や買い物の案内をする仕組みを試みた。

言語は英語、韓国語、中国語に対応している。商品の説明や観光地への案内などの簡単な内容は、2者間で直接通話をする。専門知識が必要な話は専門スタッフを加えた3者間のマルチ通話も可能だ。タブレットの画面上に通訳者と専門スタッフの顔が表示されて3者で話す。

「日本で家を借りたい」「スマホの契約でどのプランがお薦めか」「料理のアレルギー物質は」といった会話を3者で交わすことができる。

凸版印刷の情報コミュニケーション事業本部の川口真理子係長は「顔の見えるコミュニケーションにこだわっている」と説明する。映像通話で顔を合わせて行う会話は、旅行者の不安を和らげる。また、映像を見せながら現場の状況を説明すれば、聞き手が把握しやすい。資料などを使った視覚で理解を深める説明が可能になるという。

このサービスは、1台あたり月額2万9千円から提供する。凸版印刷がサービスを提供できるのは事務処理の請け負い事業の存在があるからだ。

企業や自治体への対応にコールセンターを設けており、外国語に特化した約40人のスタッフも24時間常駐している。外資系企業などの対応をしながら、「とーく de TALK」で旅行客の通訳も手がける。

凸版印刷は他にも音声翻訳アプリの開発に取り組んでいる。スマホを使い旅行客とお店の人の会話を手助けする。翻訳アプリを使って外国人が自治体の職員と透過ディスプレー越しで会話をできる技術の開発にも取り組んでいる。最終的には全国の自治体で音声翻訳システムをクラウド形態で提供できるようにする計画だ。

■アプリやデータベース、多言語対応加速

凸版印刷は訪日外国人が快適に旅行できるように、言語環境の整備を整えるサービスを提供している。スマホアプリの「AReader」では博物館の展示物や小売店の商品説明を、利用者に応じた言語に切り替えられる。専用マーカーにかざすとスマホの言語設定を読み取り、対応した言葉で文章表示や音声再生をする。

飲食・小売店では店舗ごとの外国語表記がばらばらなこともある。凸版印刷は15年に三越伊勢丹ホールディングスの複数の店舗で使っていたあいさつや商品名の外国語表記を統一した。過去に各店舗・部門で使っていた外国語表記を収集して分類し、データベース上にまとめた。データベース上から適切な外国語表記を検索できるようにして、店舗ごとに違う表記にならないようにした。

訪日客は年間2千万人を超え、政府は5年後に2倍に引き上げる目標を掲げている。小売店や飲食店では多言語対応を進める一方で、店員や職員がいかに的確な情報を伝えるかが課題となっている。

凸版印刷は言語対応やコンテンツ作成など訪日外国人向けサービスで、20年に300億円の売り上げを目指す。

(荒尾智洋)

[日経産業新聞2016年5月26日付]