20万円以下のロードバイク 復活のアルミを狙え
自転車愛好家ならご存知かもしれないが、2016年のロードバイクシーンでちょっとしたトピックになっているのが「アルミフレーム」を採用したモデル。パフォーマンス的にはすでに一線を退いたと思われていたアルミロードバイクが再び脚光を浴びているのだ。
現在、走行性能をウリにした中級以上のロードバイクはカーボンフレームが主流になっている。世界最大の自転車レース「ツール・ド・フランス」をはじめ、ロードレースにおいてその優位性がゆるぎないものになっているからだ。
それまでスタンダードだったアルミに比べて軽く、剛性に優れるうえ、振動吸収性と設計の自由度も高い。ネックと言われた価格も最近はだいぶ下がり、20万円台前半の価格帯のモデルでもカーボンフレームはもはや珍しくない。アルミフレームはキャノンデールなどの一部ブランドを除き、安価なエントリーモデルのためのものになりつつあった。
しかし、業界大手のトレックが2016年モデルとして同社史上最軽量のアルミロードバイク「エモンダALR」シリーズを登場させるなど、ここ2~3年、アルミフレームを再評価する動きが広がっている。絶対的な性能ではもちろんカーボンに分があるものの、15万~25万円の価格帯であれば価格性能比で十分にカーボンと戦えるからだ。ちなみにクロモリフレームやチタンフレームを採用する高価なロードバイクもあるが、そちらはパフォーマンスというより、美術的な意匠などを追求した結果の高価格である。
加工技術の進化で走行性能と乗り心地が両立
一般的にアルミフレームのロードバイクは乗り味が硬いのが欠点とされている。アルミは鉄に比べて軽くさびにくいが、弾性率(ヤング率)が低い。つまり、しなやかさに欠ける素材のため、走行性能を重視してフレームの強度や剛性を高める設計を行うと、どうしてもガチガチの乗り心地になってしまうのである。ロードレース競技は1日150k~300kmもの距離を走るため、乗り心地の悪化はライダーの疲労を増す不利な要素だ。
そのアルミフレームが、パフォーマンスの観点から再び注目されるようになったのは、加工技術が進化し、欠点を補えるようになったことが大きい。「ハイドロフォーミング」と呼ばれる加工方法を用いることで部位ごとに形状やパイプの厚みを変化させることが可能になったのだ。
つまり脚力を効率的に路面へ伝えるために剛性が必要とされる場所は強く、剛性のいらない場所を弱くすることで、走行性能と乗り心地という二つの相反する要素を高いレベルで両立できるようになったというわけ。実際、10年前のものと見比べると、最先端のアルミフレームはカーボンフレームのように複雑な形状をしている。
ここでは20万円以下で買えるハイパフォーマンスなアルミロードバイクをピックアップして紹介する。なるべく初期投資を抑えつつ、ロードバイクでトレーニングし、ゆくゆくはヒルクライムやエンデューロなどのイベントレースにも参加してみようと思っている人にはうってつけの5台だ。
"史上最軽量"を標榜する最新鋭のアルミロードバイク
アルミフレームのロードバイクでいま一番ホットな存在がこのモデル。世界有数の技術力をもつメーカーであるトレックが「史上最軽量アルミロードバイク」をうたっているのだから注目しないわけにはいかない。
フレームは「300シリーズAlphaアルミニウム」という独自素材をハイドロフォーミングで成型したもので、接合部分の部材を極力少なくして溶接するなど徹底的に軽量化が図られている。その結果、ALR 5はシマノ105を装備するシリーズのセカンドグレードながら、同価格帯のカーボンロードバイクと同等の完成車重量8.4kg(カタログ値)を実現している。
同じフレームにシマノ・アルテグラを装備する上位グレード「エモンダALR 6」(25万9000円)の完成車重量は8kgをゆうに切っているというからポテンシャルは相当のもの。また、フレームには「生涯保証」が適用されており、このモデルが軽さのために強度を犠牲にしていないことをうかがわせる。
各部の仕上げなど、クオリティーも文句なしだが、グラフィックだけやや貧弱なのが泣き所。
価格改定によってコストパフォーマンスで圧倒
トレックと並び、今、最も先進的なバイクを造るブランドの一つであるスペシャライズド。「アレーDSW SLコンプ」もその例外ではなく、ハンドリングに大きな影響を与えるヘッドチューブ(ハンドルとフォークを支持している部分)などの溶接に新しい溶接技術「ダルージオ・スマートウェルド」を用いている。これは従来の場所からオフセットして溶接することで、接合部分に大きな応力がかかるのを避ける技術だ。そのフレームに組み合わされるのは同社のハイエンドモデルに採用される「S-WORKS」グレードのカーボン製フロントフォーク。軽さと衝撃吸収性の向上に大きく寄与している。
コンポーネントはリアが11速の新型シマノ105なので、エントリーライダーには申し分ない装備だろう。
このバイクは当初18万9000円という価格が付けられており、それでも十二分にコストパフォーマンスが高かったのだが、なんと昨年の暮れにさらに3万円以上安くなった。上位機種として「アレー・スプリント」というモデルもあるが、エントリーライダーには断然こちらがおすすめである。筆者もそのあまりのコスパの高さに魅かれてつい購入してしまったことを付け加えておこう。
これはこれでひとつの頂点といえるモデル
昨今のアルミ再評価のムーブメントとはまったく無関係にその可能性を追求し続けていたのがキャノンデールのCAADシリーズである。2016年モデルではそれまでのCAAD10からCAAD12へとモデルチェンジ。もともと軽量だったフレームはさらに軽くなり、単体での重量は1098gとなっている。
といってもCAAD12は軽さをウリにしたモデルではない。ライダーのパワーをダイレクトに路面へと伝達する一方、路面からの突き上げや振動を効果的に吸収するそのバランスこそCAAD12の真骨頂なのである。それを可能にしているのが前半部分から後ろにいくにしたがって薄く、細くなるフレームだ。この造形を実現するのに優れた設計、製造技術が要求されるのは言うまでもない。後輪を支持するシートステー、チェーンステーの柔軟性は従来モデルから50パーセントも向上し、最適化のレベルもさらに一段引き上げられた。
CAADシリーズのオーナーたちが口をそろえてたたえるのがその「乗り味」の良さ。ペダルの動きに即応するそのキレの良い走りにはアルミフレームの魅力が凝縮されている。
なお、このモデルだけは20万円を少し超えているが、自転車愛好家にとってCAADはすでに立派な"ブランド"。価格相応の価値は間違いなくある。
軽さに加えて「空力」のアドバンテージも持つ
近年、ジャイアントのつくるロードバイクはとにかく軽い。それが顕著に表れるのがエントリーグレードとミドルグレード。同価格帯で他社のモデルと比較すると大抵の場合ジャイアントが圧倒する。ロードバイクの性能は重量だけで測れるわけではないが、購入時の大きな指標となることは間違いない。
この「TCR SLR2」は、アルミロードバイクの定番としてロングセラーを続けるTCRの上位モデルである。完成車重量が例にもれず8.1kg(474mm)と超軽量。さらに後輪に沿うように造形されたシートチューブや、ブレード状のシートピラー(サドルを支持する棒)、ケーブル類をフレームに内蔵処理するなど、カーボンフレームと見まごうようなエアロ形状を採用し、競合モデルへのアドバンテージを得ている。20万円を大きく下回る価格ながらコストダウンされやすいブレーキも含め、コンポーネントは信頼性の高いシマノ105で統一されているので、買った状態のままで長く楽しめる1台となっている。
実戦で真価を発揮するオーソドックスな1台
フェルト「F75」はコストパフォーマンスに優れたレーシーなアルミロードバイクとして、今や定番といってもいいモデルだ。最新モデルと比べると各部の造型はやや地味な印象は否めないが、パイプの肉厚を場所によって細かく変更するなど造りは丁寧で、実際乗るとよく走る(筆者も以前これでヒルクライムレースなどを走っていた)。カーボンフレームのもっとも安い価格帯のモデルと比較すればこちらが勝っている部分だって少なくないだろう。
カタログでの完成車重量は8.8kg。フレームサイズが表記されていないので多少の変動はあるものの価格を考えれば悪くない数値だ。ごくオーソドックスなパーツ構成なので、メンテナンスが自分でやりやすいというのも美点。なるべく初期投資を抑えてガンガン乗り倒す、そういう人に向けた1台としておすすめしたい。
(ライター 佐藤旅宇)
[日経トレンディネット 2016年4月20日付の記事を再構成]
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