アイリスオーヤマ、悩み解決家電でヒット連発
「家電メーカー」としてのアイリスオーヤマの存在感が急速に強まっている。ホームセンターなどで売られる生活用品が主力の同社は、2011年に家電の自社開発に乗り出し、2口型のIHコンロや人感センサー付きLED電球などを次々にヒットさせた。15年12月に発売した「両面ホットプレート」も、折りたたんで収納できるなどの利便性が受け、生産が追い付かない状況という。
なぜ、後発のアイリスが家電のヒットを連発できるのか。その秘密は、製品企画のプロセスに隠されている。一般に多いのは、「新技術を使いたい」「機能を増やして付加価値を高めたい」といったメーカー目線の企画。アイリスの場合は、「生活者の"悩み"や課題などをイメージして、それを解決する方法を考える」(石垣達也・家電事業部統括事業部長)。つまり、導き出される解決策は家電とは限らず、日用品の可能性もある。
例えば、アイリスが15年11月に発売した同社初の炊飯器は、「炊飯器市場への参入」が目的ではない。原点は「おいしい米」にある。
米をおいしく食べてもらうために炊飯器を開発
アイリスは13年に米事業に参入し、自社で精米から流通、販売まで手がけ始めた。「消費者に本当においしい米が届いていないのでは」という疑問から始まった事業だ。ここから派生して、いくつかのアイデアが生まれた。その一つが「おいしい米を気軽においしく炊ける方法を提案できないか」というもの。結果目指したのが、品種ごとに特徴が異なる米の風味を引き出せるように、ボタン一つで炊き分けできる炊飯器の開発だった。
製品化した「銘柄炊き ジャー炊飯器 RC─MA30」は少人数世帯向けの3合炊きで、マイコン式にして実勢価格を1万円以下に抑えた。それでいて、厚みのある内釜により"火力"を強める工夫も施してある。米の銘柄31種類を炊き分けられる。
日本炊飯協会認定「ごはんソムリエ」の山本啓代氏に実力を見てもらったところ、「炊きたてなら米の甘みが十分に引き出されている」(山本氏)との評価。パナソニックの高級炊飯器と比べても、「低価格なマイコン式の割に健闘している」といい、十分な性能を備えている印象を受けた。
企画段階で価格を決定
製品の企画化の段階でおおよその価格を決めてしまうのもアイリスの特徴だ。「こういう商品ならいくらで買ってもらえるか」と考え、そこから逆算して金型や部品などの原価をはじき出し、設計手法も見直す。
こういった開発ができるのはアイリスオーヤマの内製化率が高く、社員がモノ作りのプロセスを熟知しているから。こうした「引き算の開発」が値頃感を演出する。
アイリスの家電開発を支えるのが、14年に本格始動した家電事業部だ。本社や主力拠点が宮城県にあるアイリスだが、家電だけは大阪にある。これは「大手家電メーカーの早期退職者に来てもらいたいから」(アイリスの石垣氏)というのが、その理由。大阪で家電開発に携わる約30人のうち半数近くが、パナソニックやシャープ、三洋電機といった大手家電メーカーの出身だ。
こうして「技術の蓄積ができて優秀な人材が集まり、作れる家電の幅も広がってきた」と、石垣氏は語る。アイリスは"サードウエーブ"でありながら、自社工場で一部の家電の生産まで手がけるなど、頭一つ抜けたポジションを築きつつある。
以下ではアイリスオーヤマの製品から4つを紹介する。消費者の課題解決を前提に開発されたアイリスオーヤマの家電は、結果としてシンプルで「わかりやすい」製品が多い。値頃感があって消費者が手を伸ばしやすいのもポイントだ。
ラクに収納できる折りたたみ式のホットプレート
ホットプレートは収納に場所を取り、鉄板はシンクで洗いにくい。折りたたみ構造で問題を解決し、人気商品となった。
温風が出るサーキュレーター洗濯物が部屋干しで素早く乾く
サーキュレーターにドライヤーのような機構を内蔵。温風を大小2枚の羽根で送ることで風力を強め、洗濯物が乾きやすくした。
付属の専用容器で失敗なし"チン"するだけで魚が焼ける
レンジで焼き物を調理できる容器は珍しくないが、レンジの構造によっては非対応。そこでレンジと専用容器をセット販売に。
低価格のマイコン式としては"優秀"な炊き上がり
アイリスオーヤマ初の炊飯器の実力を試したところ、「ごはんソムリエ」の評価は上々。炊きたては「米の甘みが十分に引き出されている」など、マイコン式としては高評価だった。一方、冷えたご飯はややべたつくなど、高級炊飯器と比べるといまひとつな印象。それでも1万円以下の価格を考えれば満足度は高い。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2016年6月号の記事を再構成]
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