女性にない視点、オレの強み
ヒット商品飛ばす男性の企画力とは
日焼け止め 富士フイルム ヘルスケアラボラトリー・佐藤圭吾チーフ
「日焼け止めを塗ったのに、日に焼けてしまっていいのか?」。富士フイルムが2015年3月に発売した日焼け止め「アスタリフトホワイト パーフェクトUV クリアソリューション」。発売1年で化粧品ブランドの主力商品になった。富士フイルムヘルスケアラボラトリーのプロダクトマネジメント部の佐藤圭吾チーフ(33)は「なぜ女性は焼けてしまう日焼け止めを使い続けるのか」という疑問から商品化を考えた。
佐藤氏は女性社員や家族に日焼け止めについて聞いて回ったところ「付けていても夏の終わりには肌の色が違う」とネガティブな意見が多いものの、塗り直さなかった自分が悪いとあきらめる姿があった。普段使わない男性からすると「それはおかしい」。そう指摘され女性社員たちも改善できると思うようになった。
「塗っても焼ける」あきらめぬ
まず、塗っているのに焼けてしまう日焼けを「いつのまにか日焼け」と命名。富士フイルムが写真フィルムの色あせ防止に研究してきた紫外線防止成分の蓄積から、これまで止められなかった可視光に近い紫外線も止められる製品にした。
さらに、キャップ部分に紫外線に当たると紫色に色が変わるプラスチックを採用。「塗らなきゃいけないから塗る」だけではつまらないと、プラスアルファの遊び心を詰め込んだ。
女性のニーズをつかむのに心がけたことは「とにかく話をする」。聞き留めた秘めたる不満を基に、休日には色々な日焼け止めを試し納得いくものを追求した。「日焼け止めってそういうもの、という意見にそうじゃないと言いたい」。女性が当たり前と見過ごすところにヒットの金脈があるという。
(小河愛美)
柔軟剤 花王・水町直樹ブランドマネジャー
「柔軟剤は香りよりもまず、着心地を追求すべきではないか?」。昨年、花王の柔軟剤「ハミングファイン」の改良を担当したブランドマネジャーの水町直樹さん(42)は、香りを売りにした柔軟剤が出まわるなか、服が汗でぬれても肌はさらさらにしたいという女性のニーズに着目した。
今までの柔軟剤は乾いた状態の衣類の肌触りを追求してきた。ただ、実際は夏場など汗をかいて湿った状態で着ることも少なくない。特に働く女性の場合、会議や通勤電車で汗をかいても気軽に着替えることは難しい。刷新するにあたり仕事をする女性も想定した。
原点は着心地、香りじゃない
水町さんには「半世紀も続く花王のハミングというブランドを元気にしたい」という思いがあった。年配の人しか使わないブランドと思われるのが悔しかった。共働き世帯の増加によって家庭を取り巻く環境の変化に対応した。
テレビCMではタレントの吉田羊さんを起用。仕事を持つ母という設定で自分と家族のためハミングで快適に過ごすというイメージだ。これまでの家庭の生活感あふれるCMとは路線を変えた。
ヒットの背景には、昔から女性の意見を吸い上げる企業文化が、男性社員にしっかり根付いていたことがある。
(田中裕介)
多機能ジェル コーセー コンシューマーブランド事業部・立田益巳さん
「寝ている間にキレイになるというコンセプトはどうか?」。コーセーが3月に発売した化粧品ブランド「雪肌精」の「ハーバルジェル」は働く女性の生活スタイルを想定した商品だ。肌に潤いとハリを与える多機能ジェルで、忙しいときは化粧水の後に美容液のように塗るだけですむ。
企画開発したのはコンシューマーブランド事業部の立田益巳さん(39)。働く妻や同僚女性の日ごろの生活を見ながら、「みんな化粧をする時間もないほど忙しい」と実感していた。一方で「時間は節約したいけれど、キレイでいたいはず」という読みから両者を同時に実現する道を探った。
化粧品の常識、とらわれぬ
乳液、美容液、パック効果を併せ持つ多機能ジェルは従来にない商品。社内には既存の化粧水との競合や"邪道"扱いされることを懸念する声があった。女性の感覚を追求しがちな議論に対し、立田さんはあくまで生活パターンなどデータ分析に徹した。日々の多忙な暮らしの中で化粧時間を削っている実態を示し発売にこぎ着けた。顧客からは「楽で便利」「使い続けたい」との声が相次いでいる。化粧水や乳液という商品カテゴリーにとらわれない柔軟な発想で、今後も新たな消費者の心をつかんでいく。
(佐々木元樹)
男女の視点の違い突き抜け、マーケットに真摯に向き合う
妻や女性社員など、できる限り多くの女性の話を聞くこと――。今回、女性向け商品を手掛けた男性社員たちが最もこだわった共通のポイントだ。ただ、話を聞いて「女性の気持ちが分かった」だけにとどめておかなかったところが、ヒットにつながっている。
コーセーの立田益巳氏は商品化する際、客観的な市場データを基に広く受け入れられるかどうかを分析した。リサーチで女性のニーズをつかんだ後は、多くの人が共感できるよう一般化していくことが欠かせない。女性の中にも「女性向け」を強調しすぎた商品に違和感を持つ人は少なくない。男女の視点の違いを突き抜け、マーケットに真摯に向き合うことで本当に必要とされるものが見つかる。
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