「決まらない」「意味がない」ダメ会議撲滅の処方箋
生産性を高めるコミュニケーション術(5)
PIXTA
人事コンサルティングで数多くの実績を上げた人事のプロ、新井健一氏の著書『いらない課長、すごい課長』(日経プレミアシリーズ)から、プロ課長のコミュニケーション術を紹介するシリーズ。最終回は会議の生産性を高めるスキルについて詳しくを解説する。
◆◆目的が分からないままはじまる会議、結局主旨が分からない会議の危険
集団意思決定の病について、ここではその具体的な症状と処方箋について解説する。はじめに以下の問いにお答えいただきたい。
□会議がはじまってからなんとなく誰かが意見を言い出すことが多い
□会議は時間通りにはじまらない、または終わらないことが多い
□会議が終わっても何が決まったのか分からない
□会議で発言しづらい雰囲気になることがよくある
□いつも特定の人が発言する、声の大きい人の意見が結論になる
□会議で決まったことが守られない、もしくは実行されない
7つの質問について、半数以上にチェックがついた職場は、生産性を高めるための会議の技術をマスターする必要があるだろう。
そもそも会議体は、「情報の共有」「情報の創造」「集団意思決定」のいずれかを目的として行われる。会議体管理とは、これら3つの目的について質の向上を図りながら効率性を追求するものであるが、以降は主に、「情報の創造」「集団意思決定」を適切に管理するための方法論を解説する。
集団は、集団意思決定を迅速かつ創造的に行うために目指す方向として、次の5つを肝に銘じたい。
・想像力と創造力を働かせる
・多くの選択肢を生成する
・選択肢の将来の帰結をできる限り正確に予測する
・合理的な決定ルールに基づいて選択する
だが実際には、多くの職場において集団意思決定の病が発症している。では、病を生じさせる条件は何か? 条件には大きく4つある。
役割不在
集団は、構成メンバーの役割分担が不明瞭な場合、意思決定のプロセスとその結果に対する責任意識が希薄になる。役割不在は討議内容の逸脱などに対する管理不在を意味し、意思決定の質や会議体運営の生産性を著しく低下させる。
同調圧力
集団は、構成メンバーの大勢がある意見や態度を認めていると、他のメンバーはその意見や態度に反対する意思を表明することが難しくなる。同調圧力は構成メンバーの均質化を推し進め、意思決定のプロセスをスムーズにするが、決定の正しさを担保するものではない。
集団極化
集団は、複数の構成メンバーで討論する場合、メンバー個々人が志向する案よりも、より過激な案を志向するように態度が変容する。集団は事前に急進的な志向を持つ場合、討議によりその志向が高まり、保守的な場合、逆の結果となる。
社会的手抜き
集団は、共同作業を行う場合、構成メンバーは単独で行動する場合よりも努力の程度を引き下げてしまうことがある。手抜きは、集団意思決定のプロセスにおいて、個々のメンバーの貢献や努力を正当に識別、評価できないことから起こる。
生産性を高める会議の技術をマスターする
これら集団意思決定の病を克服するため、会議体運営をルール化する必要があり、その方向性はこのようになる(下図参照)。
(出典:広田すみれ・増田真也・坂上貴之編著『心理学が描くリスクの世界』慶應義塾大学出版会 P46以降)
図1
集団意思決定の病の多くは、集団が同調圧力を安易に受け入れ、少数意見を圧殺ないし自己検閲し、選択肢を十分検討せずに合意を急ぐことから生じる。これに対処するため、拡散思考と収束思考を基礎に置いた意思決定技法を有効に活用したい(下図参照)。
図2
思考の発散収束モデルとは、発散思考から収束思考に至るコミュニケーションの流れと、活用する意思決定技法のことを指す。
発散思考とは、開放的なコミュニケーションのタイプであり、収束思考とは、制限的、批判的・合理的なコミュニケーションのタイプである。なお、モデル全体を通じて、集団を構成するメンバーのコミュニケーションの困難さ、意見や感情の対立を乗り越えようとするものである。
■異質なメンバー許容
発散思考は、集団を異質なメンバーで構成することにより促される。
そもそも個人では、組織を取り巻く複雑な環境を的確にとらえ、問題の全体像を十分に把握できない場合が多くなってきたため、集団による意思決定がますます求められるようになったのである。
集団として組織を取り巻く複雑な事象を読み解き、問題の本質をとらえようとするのであれば、構成メンバーは問題をそれぞれ異なった視点(多角的な視点)から認知する必要がある。例えば国籍や性別、専門性や業界の違うメンバーなど、構成メンバーに異質性や多様性を持たせることが意思決定においてプラスに作用するはずである。
ただし、集団が異質なメンバーにより構成されればされるほど凝集性は低下し、集団内の意見の対立も多くなる。
■意見評価の一時停止
発散思考の段階では、構成メンバーの意見を評価してはならない。
集団の構成メンバーが表出したアイデアを、出てきた瞬間に「くだらない」「主旨から外れている」「突拍子もない」などと判断しない。ある構成メンバーがそのような態度を取れば、以後、他の構成メンバーはそのようなアイデアを表出することはなくなるだろう。
発散思考の段階は、アイデアを奔放に数多く表出させることが重要であるため、この段階を終えるまで評価をしてはならない。
ちなみに発散思考を促進するミーティング方法として、A・F・オズボーンが開発したブレインストーミングがある。基本的なルールは以下の4つである(中断厳禁は追加)。
どんな職場でも、声の大きい社員や自分の主張を譲らない社員、話の腰を折る社員がいるものだ。それにどんなに自由闊達な職場であっても、部下が上司に反対意見を述べることは難しい。しかしながら、上司は部下の置かれた立場を忘れてしまいがちだ。
職場における集団意思決定とは、よほど気を付けてかからないと同調圧力が高まってしまうものなのである。
ブレインストーミングは、多くの読者にとって目新しくない手法であろうが、このような基本的なルールを毎回確認することが、これからの職場では大切だと筆者は考えるのだ。
毎回会議の際には、このルールをホワイトボードに書き出してもよいであろう。このような行動は、「技術的なコミュニケーション」を心がけようとする意思表明にもなる。
筆者も職場で討議をする際、またコンサルティングの現場でクライアントのグループ討議を支援する際は、必ず書き出している。
ブレインストーミングの基本的なルール
批判厳禁:他の参加者の意見に対する批判や評価は絶対にしない。
質より量:発言の質より発言の量を重要視したディスカッションを行う。
便乗歓迎:他者の意見と組み合わせたり、向上させたりする意見を歓迎する。
思いつき歓迎:突拍子もないアイデア、見当違いなアイデアを歓迎する。
中断厳禁:携帯電話の電源は切るなど、討議に集中できる環境をつくる。
■悪魔の弁護人
収束思考の段階において、構成メンバーは発散思考とは異なる態度を取らなければならない。
収束思考を促す1つめの方法は、発想の前提条件を意識的に問いかけることにより、前提条件から選択肢を整理し、次は前提条件の妥当性を評価すればよい。
ここでは、ある担当者が上司から物品の購入を任されたとしよう。担当者は上司に確認せずにいくつかの前提条件を定めてしまうかもしれない。例えば、「予算はいくらぐらい」「納期はいつまでに」「物品の品質条件はどれくらい」または「どこそこから購入しなければならない」など。その前提条件を疑ってかかるのだ。
そして2つめの方法は、悪魔の弁護人と呼ばれる方法であり、まず集団内に「悪魔の弁護人」を指名し、この「悪魔の弁護人」はみなの意見に対してことごとく反対する。
「悪魔の弁護人」は、有望な選択肢の検討において、ことごとく反対する役割を公に担うため、同調圧力に抵抗しやすく、抑圧されがちな少数意見も言いやすい。そのため、選択肢の持つ欠陥や問題点がかなり効率的に明らかになる。
なお、この方法を採用する場合、「悪魔の弁護人」は、他の集団メンバー内に感情的な問題を残さないよう、その役割を担うことを事前に宣言する必要がある。
■コミュニケーション制御
発散収束モデルを成立させるために、リーダーが押さえておくべきことを解説する。
異質かつ多様なメンバーが集団を構成し、問題をとらえることは、その問題に関するメンバー間のコミュニケーションを困難にする。その場合、意見の対立が増え、感情的な対立が生じるだけでなく、極端な場合にはグループの崩壊に発展しかねない状態となる。
これには3つの対処法がある。
1つめは、できるだけオープンかつ事実や知識に基づいた冷静なコミュニケーションを実践することである。その際、リーダーは、討議の目的やゴール、各自の役割を集団メンバーにきちんと認識させ、感情的な対立が生じた場合には、メンバーを基本認識に立ち返させるなど、リーダーシップを発揮する必要がある。
2つめは、メンバーの地位や権威などに関する情報、いわゆる「ノイズ」情報を制限してしまうことである。少なくとも集団の意思決定の初期の段階では、敢えてコミュニケーションを制限することにより「ノイズ」情報をカットし、評価の一時停止を行うことが望ましい。
3つめは、電子メールなどの情報技術を、コミュニケーションの道具として活用することである。匿名の電子メールでアイデアや意見を募集する方法を活用すれば、時間的・場所的な制約を受けず、集団意思決定の参加人数を劇的に増やすことができる。またさらには、「ノイズ」情報が伝わりにくいという利点もある。
ちなみに、「緑の血」課長は、アジェンダが事前に配布されない会議には出席しないと公言していた。そして会議の場では必ず議事録を取らせていたし、自らも必ずメモを取っていた。
また他に集団凝集性のコントロールにも努めていた。例えば課長が議長を務める時は最初から自分の立場(意見)を明言することはせず、満場一致を目指さないで反対意見や疑問点の発言を促すなどの配慮をしていた。
最後に、職場における「技術的なコミュニケーション」とは何か、そのニュアンスをご理解いただけただろうか。一部、相応の訓練が必要なコミュニケーション技法を除き、ほとんどのものは明日からでも実践できるものばかりである。なにも筆者がコンサルティング会社に在席していた当時の行動規範「Think Straight, Talk Straight(思ったことをそのまま話せ)」と同様の規範を無理に定めなくても、技術的なコミュニケーションに徹することにより、ダイバーシティに対応した良好な職場環境をつくり、維持することは可能だと筆者は考えるのである。
[新井健一「いらない課長、すごい課長」(日経プレミアシリーズ)から転載]
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。
1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー、アーサーアンダーセン(現KPMG)、同ビジネススクール責任者、医療・IT系ベンチャー企業役員を経て独立。大企業向けの人事コンサルティングから起業支援までコンサルティング・セミナーを展開。