国際オリンピック委員会(IOC)も「大会の優勝者」とたたえる五輪ボランティア。英国で経営コンサルタントを営む西川千春氏(56)は「オリンピックジャンキー(中毒)」と名乗るほど、その魅力にとりつかれている。大会運営に欠かせない立場に誇りとやりがいを持ち「東京大会でも日本の良さを世界に伝えたい」と参加に思いをはせる。
最初の参加は4年前のロンドン大会。企業の駐在員時代から在英20年を超える語学を生かし、「大きなスポーツイベントの当事者になりたい」と通訳に応募した。「ボランティアのユニホームを着て当事者となる優越感にも憧れました」
30カ国語をフォローする夏季五輪。すべての言語をいったん英語に置き換えて意思疎通を図るのが五輪流。国際展示場を使った競技会場「エクセル」の担当となり、卓球やボクシングなど7種目を見守った。端から端まで1キロメートルもある広大な会場を文字通り駆け回り、20数カ国語が飛び交う会場で日本人選手やメディアの通訳として大会を支えた。
卓球女子団体で日本がシンガポールを破り、銀メダル以上が決まった瞬間は、会場内は音楽や歓声で異様な雰囲気に包まれた。石川佳純選手と一緒に涙を流しながら通訳したことも。「感動と興奮が収まらず、通訳としては最低の出来でしたが」

ソチ五輪では大会前の通訳チームで活動。原色の派手なユニホームを着て、ほとんどが20代の現地スタッフに「最高齢の中年オヤジも溶け込むことができた」。別れ際に「次は東京で会おう。ひょっとするとリオデジャネイロかもしれないな」との言葉通り、もちろんリオにも出向く。バドミントン、卓球、重量挙げ、ボクシングのほか、ゴルフ会場も追加で担当することになった。
五輪の感動を味わいたいというだけでなく、「日本のために何かやりたい」という気持ちが年を追って強くなってきた。「ボランティアは大会の顔。お年寄りをはじめとしてどれだけリーダーシップをとれる人を集められるかが成功のカギ」という。ボランティア全体で8万人と見込まれる東京大会。海外からも大勢のスタッフがやってくる。日本の超高齢社会は海外でも有名。「どのような人材を受け入れるかに注目が集まっている」と期待をかける。
ダイバーシティ(多様性)も大きな成功のものさしになるとみる。日本では「人に迷惑がかかることはしてはいけません」としつけられるが、インドでは「いろんな人がいるんだから多少のことは大目に見ろ」と教育されると知人から教わったという。多様な民族や言語を受け入れてきた国の教訓を重く受け止める。
東京大会は外国人をどのように受け入れるのか。4年後を見越し、日本では目白大学でグローバル社会の先見性というテーマで講座を持つ。東京外語大の学生を通訳ボランティアとして大量に送り込む構想も進めている。「日本は海外で今、日本人が思う以上にクール(かっこいい)と見られている。おごらずにうまく対応できれば、日本の良さをPRする本当のチャンス」。ダイバーシティを見続けてきた英国での経験を前向きに生かしたいと思う。もちろん、競技の感動を選手と一緒に味わうことも忘れない。
(オリパラ編集長 和佐徹哉)