若手にも我が子にも反論できません…
回答者 作家・石田衣良
部下にやんわり注意したら、冷たく突き放され、テスト前に遊んでいる子どもに小言をいうと親の成績をあげて、逆ギレ気味に質問される。
うーむ、そんな反応では多くの読者もいらつくし、あなたのプライドもさぞ傷ついたことでしょう。けしからん。最近の若い者はなんてね。
でも、その反発にはひとつの前提が共有されています。「部下や子どもなんだから、上司や親のいうことはきちんと聞かなければいけない」。なぜいけないかというと上下・親子関係があるから。けれど下のポジションにいる者が、組織にいるメリットを拒否したり、親に根本的な不信感をもっていたら、注意を素直に聞くという良好な関係は成立しません。
なぜなら、上司に悪印象をもたれて損をするのは自分、勉強しなくて成績が悪くても困るのは自分。自分でマイナスを確定でき、損をかぶる覚悟があるのなら、別に人のいうことを聞く必要はないからです。ぼくはそういうのは、生きていくうえでひとつの立派な覚悟だと思う。大人への第一歩です。
あなたの生意気な部下も口ごたえするお子さんも、実は見どころがある意外とできるやつではありませんか。
そこで今後の方針はふたつ。まずは相手に自分で損をかぶり、責任をとるようにはっきりと釘だけ刺して、あとは自己責任で放りだす。接触は必要最小限、大人の淡いつきあいでいいでしょう。人は人、自分は自分を貫こう。誰も人の代わりに生きることはできないのです。
そうでなければ、ひとつのおもしろいサンプルとして観察し、上下でも親子でもないフラットな関係を構築してみる。自分にできなかったこと、愚かな失敗をはっきりと認め、部下や子どもに対するのです。別に仲よくなる必要もないけど、興味と関心はもっている友好的な態度は示しておく。それで関係改善できればいいし、できなくとも別にいい。
だいたい上司や親だから、すべての部下や子どもをうまく指導できるなんて馬鹿な話はありません。あなたは暑苦しく上司風や父親風を吹かせていませんか。部下も子どもも他の人には、問題の態度はとっていないかもしれない。そこは自分の課題として、きちんと注意したうえで、相手をおもしろがればいいのです。なあに部下もいつか上司になる、子どももいつか親になる。上は上でつらいのは当たりまえ。尊敬されなくともいいのです。無理せずいきましょう。
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〔日経プラスワン2016年6月11日付〕
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