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チーム全体の成果をより高めるために、リーダーはメンバーの指導・育成を行わなければいけないのですが、常に心に留めておいて欲しいことがあります。この連載のまとめとして、今回はチーム運営のための標語をいくつか示したいと思います。

標語1 全員参加

チームで物事を進めていく際に起こりがちなことが、「声の大きな人の意見が通りやすくなる」ということです。物理的な声の大きさを言っているのではなく、立場や押しの強さ、理論的な物言いなどみんなが受け入れやすい人のことを言っています。確かに、そのような人がいるとチームとしての意見がまとまりやすくなることは事実ですが、気を付けなければいけないのは、他の人の意見が埋もれる可能性があることです。

リーダーは常に、全員の意見を吸い上げることができたかどうか意識していなければいけません。

そのための方法として、付せん紙の活用をお勧めします。ある議題について議論を進める際に、いきなり意見交換を始めるのではなく、まずメンバー全員に議題に関することを何でもいいので付せん紙に書かせるのです。意見を持っていなければ感想などその議題について感じていることでもいいのです。(名刺の2倍程度のサイズの付せん紙をお勧めします)

この付せん紙をホワイトボードに貼りだし、それを全員で眺めることから会議を始めると、日頃は声の小さな人の意見・感想などを確認できるので、大変有効なのです。私の経験からも、声の小さな人の埋もれやすい意見の中に実は大きなヒントが隠されていることが多いのが事実です。ぜひ試してみてください。

このように、会議も「全員参加」という意識を持って進めてほしいのですが、他にも前回述べたような各種プロジェクトを発足して、全員が必ず何かのプロジェクトに参加させることも「全員参加」のための大切な活動です。

標語2 同じものを見て話をする

意思疎通がうまくいかないと悩んでいる職場の会議にはある共通点があります。それは、ホワイトボードをうまく使っていないということです。

実は、みんなが同じ単語を使って話していても、それぞれイメージしていることが全く違っていることは往々にして起こっているのです。「もう少し」という言葉でもその程度は全員まちまちなことはお分かりいただけるでしょう。

そのイメージのズレが非常に大きな差になって表面化することを、結構目にしてきました。

ですから、チーム運営をしていく際には、常に目に見えるものに表し、それをみんなで見ながら進めることが非常に重要になるのです。全員で同じものを見ることで、イメージのズレをなくすのです。会議では、必ずホワイトボードを使って今話し合われていることをチャート化することが必須だと心得てください。

標語3 視点を変える

メンバーが困っているときや、会議で煮詰まったときなどにリーダーが意識すべきことは、みんなの視点を変えることです。より広い視野でものごとを考えさせたり、別角度から見させることが大事です。

なかなか売れなくて困っている営業メンバーの場合など、売ることに必死になって視野が狭くなっているため、目の前に現れるすべての客に何とか売ろうとするのですが、「そもそも、この商品を買う人は100人中何人くらいいるか」「自分が客だとしたら、買う理由、買わない理由は何か」など視点を変えてあげることがリーダーの重要な役割なのです。

会議などでも、いろいろな意見で煮詰まったときなど、それまで出てきている意見を前出のようにホワイトボードにまとめながらポイントを整理するということも必要になります。

特に、会議などでは、リーダーはできるだけみんなの意見を先に聞き、それぞれの意見の要点を頭の中でまとめながらポイントどころで意見を言うことが大事です。私は、このことを「後出しじゃんけん」と言っています。リーダーが焦ってまとまりのない意見交換に参加しても決して建設的ではあません。会議におけるリーダーの「後出しじゃんけん」は決して悪いことではないのです。

標語4 感情情報を大切にする

情報には、事実を伝える情報の他に、その事象の中で関わった人たちの感情がどのように動いたかと言う感情情報というものがあります。

「先方が、今週中には結論を出してくれそうです」というのは事実情報です。しかし「前回の打ち合わせの時、どうも先方の口が重かったんです」というのは担当者が感じ取った感情情報です。感情情報が加わることで、先方があまり望ましい結論を出さない確率が高いということが察知できますから、対策を練ることができます。

ビジネスは、人対人で成立している場面がほとんどですから、必ず感情の動きがそこにはあります。関係する人たちの感情の動きというのは、そのとき背後に隠れている事情を反映していることが多いから、貴重なのです。

接客では、お客さんの感情情報は事実情報よりもっと大事なことはお分かりいただけるでしょう。

ただし、感情に振り回されることは得策ではありませんから、冷静に事実情報だけで対応していく場合もあることは確かです。しかし、この場合も感情情報をつかんでいるかどうかは非常に大切です。

メンバーと話すときも、言葉に現れた事象だけでなく感情の動きを察知することを心がけてほしいものです。

標語5 ドタバタしない

リーダーは、どんな時にも慌ててはいけません。慌てると人間はどうしても動きがちょこまかして落ち着きがなく、頼りない姿になります。

リーダー自身が想像もつかないほど、メンバーはリーダーの態度をよく見ているものです。例えば、問題が発生したときなど、あなたの態度をみてメンバーは「ああ、なんとか解決できそうだ」もしくは「今回は、本気でやばいかも」という具合にメンバーなりに判断しているのです。

あなたが5人のメンバーを見ているときは、1:5ですが、あなたは逆に5:1でメンバーから見られているのです。あなたの一挙手一投足が常に見られていると言って過言ではありません。

とはいえ、とても動揺するようなこと、とても腹の立つことは必ず起きます。あなたの心が揺れ動くことも多いのですが、常に頭の片隅に置いておいてほしい言葉が「ドタバタするな」という言葉です。

慌てても、焦っても問題は解決されません。重要なことは、リーダーが今持てる自分の力すべてをかけて真っ向から立ち向かうことなのです。

チームがどれだけ力強く結束できるかどうか、それは問題にぶち当たったときのリーダーの態度で決まるのです。

18回にわたって「成果があがるチームの作り方」について述べてきましたが、私が最後にみなさんにお伝えしたいことは、リーダーの態度がすべての根本にあるということです。

みなさんのチームが、より創造性の高いチームになることを祈っています。

◇   ◇   ◇

井上健一郎(いのうえ・けんいちろう)
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/

[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年12月17日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

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