長期の資産運用、積み立て投資に効果 安値で多く買う

「長期投資で資産づくり」をテーマに、筧ゼミの発表が続いています。今回は長期の運用で効果を発揮しやすく、特に初心者に向いているとされる積み立て投資を取り上げます。発表は引き続き、宗羽士郎君です。
筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 岡根知恵(おかね・ちえ、38)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。

 積み立て投資を勧める人は多いようですが、どんなものでしょうか。説明をお願いします。

宗羽 投資する商品を一つ選んで、定期的に決まった金額ずつ買っていく方法です。運用の世界では「ドルコスト平均法」と呼ばれます。投資する金額は毎回同じなので、商品の価格が上がれば買う量が減り、下がれば増えます。結果的に安く買った量が多くなっているので、その後に価格が上がったとき利益が大きく出やすくなります。

岡根 何か例を挙げてくれませんか。

宗羽 では身近なところで、毎月1000円ずつリンゴを買うとします。最初の月に1個500円だとすると2個買えます。翌月に100円に下がれば10個、翌々月に250円に上がると4個で合計16個になります。ここでいまの価格で全部売ると16個×250円=4000円だから、1000円もうかります。しかも、買い始めたときよりリンゴの価格が下がっているのに利益が出ます。

 よく考えましたね。では実際に株式などに投資したらどうでしょうか。試算してみましたか?

宗羽 もちろんです。このグラフをみてください。日経平均株価に連動するファンドに1990年から2016年4月まで毎月1万円を積み立てた場合の成績です。累積投資額316万円に対して、時価ベースの資産額は約380万円と19%増えています。日経平均は足元でバブル高値の半分以下ですが、積み立てを続けていれば利益が出ている計算です。

 これが積み立て投資の効果ですね。でも注意が必要です。商品の値動きがずっと右肩下がりだと利益は出ませんし、積立期間中に高値を付けたあと下げが続くと利益が出ない場合が多いようです。ずっと右肩上がりならもちろん利益は出ますが、投資開始時点で一括投資する方が利益は大きくなります。ドルコスト平均法の効果が出やすいのは、積み立て終盤に向けて価格が上昇する場合です。投資セミナーなどで講師を務める星野泰平さんは「中長期的に成長が期待できる資産を中心に積み立てることがポイントになる」と話しています。

岡根 でもそんな資産はあるのでしょうか。

宗羽 金融ジャーナリストの竹川美奈子さんは「一つの資産に絞ると価格が下落し続けることがあり得るので分散投資を考えよう」と話しています。例えば株式なら日本株だけでなく、世界全体の株式に投資するのが有力な選択肢です。世界全体でみると経済は人口増や生活水準の向上などで長期的に成長を続けていく可能性が大きいですから。

岡根 なるほど。

宗羽 先ほどのグラフで世界株に積み立てた場合をみると、資産額は円換算で550万円強と累積投資額を75%上回ります。しかも相場が急落する局面で資産の目減りが緩やかになっています。例えば08年秋のリーマン・ショックで日経平均は8000円台に低迷し、日本株での資産額は投資元本を下回る時期が長引きましたが、世界株の資産額は早めに投資元本を回復しました。グラフでは先進国の株式指数に連動するファンドを取り上げましたが、新興国に分散投資するのも一案だと思います。

 確かにそうね。日本株でも世界株でも重要なのは投資をコツコツ続けること。リーマン・ショックをきっかけに投資をやめた人は、その後の上昇局面での恩恵を受けられなかったことになります。積み立て投資にとって相場が下落する局面は、量をたくさん買えるチャンスです。もちろん、含み損を抱えても日々の生活費や子どもの教育費、老後の資金計画などが影響を受けないように投資額は無理のない水準に決める必要があります。

宗羽 インターネット証券などでは投資信託を毎月1000円程度から積み立てられるところが多くあり、まとまった投資資金がない人でもできます。早く積み立てを始めるほど投資期間が長くなって買える量が増えるので有利になりやすいそうです。

 実はもう一工夫すれば、積み立て投資で含み損を抱える期間を短くして、運用成績を上げることが期待できますよ。

岡根 そんな方法があるのですか。

 龍谷大学の竹中正治教授が「修正積み立て投資」を提唱しています。資産価格があらかじめ自分で決めた水準より下がったときに一定量を買い増し、上がった時に売却する方法です。例えば毎月1万円ずつ積み立てるのに加えて、価格の5年移動平均線を20%以上上回った場合に5万円分を売り、20%以上下回った場合は5万円分の買いを入れることにします。

宗羽 つまり高値で買う量を減らし、安値で買う量を増やすわけですね。

 この方法を先ほどの日本株に積み立てる場合に当てはめると、累積投資額781万円に対し、売却益を含めた資産額は約1090万円とおよそ4割増になります。高値売りはしないで、安値の時だけ買い増すなど自分なりに応用する手もありますね。

■取り崩しは一定比率で
フィデリティ退職・投資教育研究所所長 野尻哲史さん
60歳の5人に1人が90代まで生きる時代になったため、60歳で退職して資産を取り崩すだけの生活に入ると長い老後を乗り切ることが困難です。例えば60歳時点で資産が3000万円あっても、毎月10万円取り崩すと80代で貯蓄が底をつきます。そこで60歳から75歳、人によっては80歳までは資産を取り崩す一方で資産運用も続けることをお勧めしています。
資産形成をする際は毎月一定額を積み立てますが、取り崩すときは運用資産の一定比率で考えるのがポイントです。定率で引き出せば価格が低い時は少ない金額になるので、資産の目減りを抑制できます。60歳時点の3000万円を4%ずつ毎年取り崩すなら、1カ月当たりは10万円程度です。75歳まで3%程度の運用をすれば、その後は運用をやめても90代まで資産が残る計算になります。(聞き手は川本和佳英)

[日本経済新聞朝刊2016年5月21日付]

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