4強なきIWGP戦、意地見せた石井智宏と内藤哲也
ゴールデンウイークは新日本プロレスリングの福岡大会「レスリングどんたく」(5月3日開催)観戦のため遠征してまいりました。
震災の影響で中止となった熊本大会の2試合を加え全10試合のロング興行。柴田勝頼(かつより)選手との激闘を制しNEVER無差別級王座を48歳にして初戴冠した永田裕志(ゆうじ)選手の歓喜、KUSHIDA選手と獣神サンダー・ライガー選手との新旧ジュニアトップ対決など、盛りだくさんの大会のメーンを締めたのは4月10日両国国技館大会で新チャンピオンとなった内藤哲也選手対石井智宏選手のIWGPヘビー級選手権でした。
今はインターネットの動画配信サービス「新日本プロレスワールド」でいつでも好きなときに試合を視聴できます。コラム執筆のため内藤vs.石井戦を復習すると30分を超える試合にもかかわらず何度繰り返し見ても面白いのです。筋がわかっていても好きな映画や漫画の同じシーンで同じように興奮してしまうイメージです。
「『4強』=棚橋弘至(ひろし)選手、オカダ・カズチカ選手、WWEへ活躍の場を移した中邑真輔(なかむらしんすけ)選手、AJスタイルズ選手……、このメンバーが一人も含まれていないIWGP戦は2010年以来6年ぶり」「『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』という制御不能ユニットで旋風を巻き起こした内藤選手の初防衛戦」「対戦相手の石井選手はキャリア20年で初のIWGP挑戦」など。語りどころのたくさんある試合でしたが、そんな味付けも必要ないほど試合そのものが充実していました。
起承転結になぞらえて試合展開を追ってみます。
【起】石井選手のセコンドには同じユニットのオカダ選手と外道選手。この日の闘いは両国の内藤戦に敗れたオカダ選手の敵(かたき)討ちでもあります。内藤選手側のセコンドBUSHI選手とEVIL選手が場外で石井選手に反則攻撃を加えると起こるブーイング。真っ向勝負のタイトルマッチを望むファンの声です。正面から全力でぶつかり合うファイトスタイルの石井選手に対し、のらりくらりと間合いをはずしペースを握らせない内藤選手が試合を優位に進めます。
【承】10分経過。突然なんの前触れもなく石井選手が内藤選手の右ヒザに低空ドロップキックを放ちました。悶絶する内藤選手。そこからドラゴンスクリュー、膝十字固めとヒザ責めをたたみかけます。古傷を抱えるヒザへの一点集中攻撃は対内藤戦の定石なのです。今のスタイルになってからあまりそこを攻めこまれる姿は見られなかったので「その手があったか!」と場内がざわめきます。普段は無骨な戦法を貫く石井選手が鮮やかに懐(ふところ)の刀を抜いた瞬間でした。
【転】20分経過、石井選手のヒザ狙いにより勝敗の行方がわからなくなりました。決定打が出ないままの一進一退に観客のストレスが上昇してきたころ、BUSHI選手とEVIL選手がリングに乱入し石井選手を妨害します。内藤選手に流れが傾いたかに見えたそのとき、今まで静かに試合を見守っていたオカダ選手が満を持して登場。場内は割れんばかりの大歓声。華麗なドロップキックで乱入者を蹴散らすとそのまま邪魔者を会場外へ連れ去っていきました。ユニットのヒール的カラーを示しつつ、オカダ選手の魅せ場でカタルシスもありつつ、なおかつ勝敗に決定的な影響を与えない、いい塩梅(あんばい)?の介入でした。
【結】セコンドが一掃され観客の視線がリング上の2人だけに注がれます。頭突き、ラリアット、エルボー、ゴツゴツしたぶつかり合い。フラストレーションから解き放たれた石井節がうなりを上げます。それをド派手な受け身で受けきってみせる内藤選手。大技を受けても受けても跳ね返す2人。ゲスト解説席の棚橋選手から「不死身だな」の言葉がもれます。勝負を決めた内藤選手の必殺技・デスティーノがバランスの崩れた不完全なものだったことが激闘のダメージを物語っていました。
「ベルトを追いかけていたのが、逆に追いかけられる立場になった」と内藤選手は言います。賛否両論あるベルトを放り投げる行為はベルトより自分の価値が上、という意思表示です。
この日のメーンイベントは「IWGP戦だからすごかった」のではなく「内藤選手と石井選手の闘いだからすごかった」。少なくとも自分にはそう感じられました。
内藤選手が今、自由気ままな言動を取っているとしても、石井選手が多くを語らなくても、このタイトルマッチにたどり着くまでに2人にどれだけの苦難の道があったのか。たとえそれらを知らなくても、4強のいないIWGP戦は2選手の覚悟がにじむ名勝負でした。
今回のイラストは石井選手の必殺技「垂直落下式ブレーンバスター」を描かせていただきました。どんなに体格差のある相手でも滞空時間をたっぷりと取って真っすぐ抱え上げ、真っ逆さまに叩き落とす迫力の技です。
(この連載は随時掲載します)
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