変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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第1志望のスタンフォード大学に見事合格。1992年9月、子育てしながら学校に通う日々が始まった。

授業は予想以上に大変でした。まず先生の話す英語が一言もわからない。ビジネススクールは授業での発言が評価の50%を占めます。英語がわからなければ授業で発言もできないので、これは大変だと思いました。授業の前日に明日の授業でこれだけは言おうと入念に準備するのですが、授業の流れを聞きながらタイミングよく手を挙げるのが難しくて、なかなかうまくいきませんでした。

宿題の量も半端ではありませんでした。教科書の指示された部分を予め読んでから授業に臨まなくてはいけないのですが、多すぎてとても読み切れない。最初のころは徹夜続きで、いつもふらふらしていました。

子供は当時2歳で、授業のある日は、学校の近くの保育所に預けていました。子供のためにも、友達もでき、英語も学べる保育所に預けたほうがいいと思い、そうしました。朝、授業が始まる前に車で送って行き、夕方6時に迎えに行くという生活でした。

それでも、徐々に授業にも慣れていった。課外活動では、スティーブ・ジョブズを招いてピサを片手に議論するなど、シリコンバレーならではの学生生活を謳歌した。

スタンフォードのビジネススクールは、他の大学に比べて、落第や退学者の数は少ないと思います。学生をサポートする体制も、非常に充実しています。授業がわからないと言えば、メンターを付けてくれますし、あの人に聞きにいったらどうかといったアドバイスもしてくれます。こちらがもう要りませんと言うくらい、手厚いサポートが用意されているのです。

他のビジネススクールのことはよくわかりませんが、いろいろな人から他のビジネススクールの話を聞く限り、スタンフォードは、かかげている目標が他のビジネススクールと大きく違っていると思います。

一番の違いは、スタンフォードは、学生同士の競争を意味のないものだと考えています。たとえば、企業から求められても、学生の成績を一切外に出しません。それは、成績の良し悪しでは、学生のすべてを判断できないと考えているからです。ですから、ガリガリ勉強している学生はあまりいません。たとえば、自分で勝手にプログラミングをやったり、どこかの企業と一緒に仕事をしたりして、すでに卒業後に向けて行動を起こしている学生が多い。学生に勉強させたり知識を植え付けたりすることも、もちろんビジネススクールの大切な役割です。ですが、スタンフォードはそれよりも、学生が卒業後の目的を少しでも早く実現できるよう、在学中に学校のあらゆるリソース(資源)を利用してもらうことに重点を置いているのです。

それはスタンフォードの戦略でもあると思います。スタンフォードはシリコンバレーのスタートアップ企業に土地を貸したり、未来の経営者を教育したり、さまざまな形でシリコンバレーの成長に手を貸してきました。それは、スタンフォード自身が成長するためでもあったのです。

私自身も、スタンフォードで何を一番学んだかと聞かれれば、個々の授業ではなく、スタンフォードの文化を学んだと答えます。もちろん、競争はよいことです。でも、スタンフォードのビジネススクールに来る人たちはすでにみんな競争的なのです。だって、だいたい1番の人しか来ないのですから。でもたとえ1番の人でも、1人ではすごい会社は作れません。すごい会社というのは、たとえば、すごく優秀なエンジニアと、すごくマネジメント能力のある人が協力して初めて作れるのです。自分の身の丈を知り、自分にないものを他人に求め、他人と協調してやることを覚えなさい、と。それがスタンフォードの教えなのです。本当の意味での経営とは何か、組織づくりとは何かということを、私はスタンフォードの文化から学びました。その教えは、今の会社経営にも役立っていると思います。

他にスタンフォードのよいところは、毎日のように、著名な経営者がゲストスピーカーとして来ることです。私などはIT系なので、シリコンバレーの起業家とか経営者に会いたいわけですよね。そういう人たちがもれなく毎日来ていました。

加えて、私はハイテククラブという1学年20人ぐらいの学生の自主活動グループに所属していたのですが、そのクラブの目的は、この人と是非話がしたいというような著名経営者を呼んで話を聞くことでした。スティーブ・ジョブズも呼びました。ある学生の部屋で、15人ぐらいでジョブズを囲み、ビールを飲んでピザを食べながら議論するのです。自分でも羨ましいと思うぐらいでした。授業よりもハイテククラブの活動のほうが好きだったかもしれません。

卒業後、米国でコンサルティング会社を設立。1999年、ネットイヤーグループの経営に加わった。

在学中、ソフトウエア会社のアドビでインターンとして働いたことがあり、卒業の際にも誘いを受けたのですが、結局、自分で起業する道を選びました。立ち上げた会社は、日本企業が米国で技術を探したり、米国の会社が日本に進出したりするのを手伝う、日米の橋渡しをするようなことが仕事でした。

その後、ネットイヤーグループから、MBO(マネジメント・バイアウト)をするので一緒にやらないかという誘いを受けました。ネットイヤーは非常に優良な顧客を持っていて面白そうな事業をしていましたし、ネットイヤーの関係者とは米国でも時々会っていたりした縁もあったので、ビジネスパートナーと一緒にネットイヤーに参画することにしました。コンサルティング会社は、残った社員に譲りました。

2000年、ネットイヤーグループの社長兼CEOに就任。2008年には東証マザーズへの上場を果たした。

ビジネススクールで学んだことは、直接的、間接的にいろいろな形で現在の会社経営に役立っていると思います。特にそう思うのは、組織運営に関することですね。

ビジネススクールでわりと好きだった授業のひとつに、オーガニゼーショナル・ビヘイビア(OB=組織行動論)があります。たとえば、ある問題に対し、10人がそれぞれ答えを出すとします。個々の答えは正解も不正解もあるのですが、平均値を取ると正解率は70%ぐらいになるとします。ところがこの10人が話し合って1つの答えを出すと、その答えは、不正解の確率が非常に高くなってしまう。正しい意見を持った人が間違った意見を持った人に引っ張られてしまうからですが、これが組織の不思議なところです。

現実の会社でも、組織にとってはマイナスの判断や動きをするけれども、ものすごく周囲に対する影響力を持っている社員がいて、その人のせいで組織がだめになってしまうという例があります。OBの知識がなければ、組織ってなんとなくそのまま正しい方向に動くものだと思ってしまうかもしれませんが、絶対にそんなことはありません。経営者は、組織が、組織図通りに動くと考えてはいけないと思います。私が社内でそういう組織に悪影響を及ぼす人を見つけたら、人事の責任者に、その人を辞めさせてくださいとまでは言いませんが、気を付けてくださいという話はしますよ。

また、授業全般で学んだことですが、米国という国は、あいまいなものをフレームワーク(枠組み)に落とすのがとても得意な国です。米国には多様な人種がいて、人のレベルが日本のように均一ではありませんから、そういう人たちを1つの組織の中で動かすには、ある程度のフレームワークを作っておく必要があります。日本ではそういうことをする必要性はこれまでなかったのですが、これからは日本の組織もフレームワークを作ることが必要になってくると思います。流行の言葉で言えば「見える化」ですかね。日本では、暗黙知の中でマネジメントをしている会社がたくさんあります。ビジネススクールでフレームワークを学んで日本に戻ってくると、それまであいまいで見えなかったものが顕在化して見えるようになりますね。

■社会全体で女性の活用が叫ばれる中、ネットイヤーグループでは、女性社員の育児休暇取得率が14%に達している。

女性にとっても、MBAを取れば、働き方の選択肢は当然、広がります。MBAしか採用しないとか、MBAを好んでとりそうな会社ってありますからね。特にマーケティングの会社とか外資系を狙うなら、MBAは直接役に立つのではないでしょうか。お金をかけても決して無駄ではありません。ただし、行くなら上位校に行ったほうがいいと思います。先生も優秀ですし、人脈面でもメリットが大きいですから。

インタビュー/構成 猪瀬 聖(フリージャーナリスト)

[日経Bizアカデミー2013年11月25日付]

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