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前回から、チームの生産性をあげるために、「意識」の持ち方をメンバーに教えることの大切さを述べています。

前回は、メンバーの「仕事をする上での心構え」としての意識の教え方について触れましたが、今回はチームとして大切にしたい方針、いわゆるモットーについて触れていきたいと思います。

一番の基盤は「経営理念」

チームをまとめる立場にいるリーダーにとって、自セクションの方針を明確にすることは重要なことですが、当然その方針は会社の向かっている方向と一致していなくてはいけません。例えば、常に「挑戦」というテーマを会社が基本に置いているにもかかわらず、現場のチームが「安定運営」を前面に打ち出していては、メンバーの動きに矛盾が生じます。「まさか、そんなことはないでしょう」と皆さんはおっしゃるかもしれませんが、「挑戦」という会社の理念に反して、「現状の維持・安定」を最も重要視している現場のリーダーを私は数多く見てきました。

会社の方針が現場の実状を軽視しているという場合もないとは言えませんが、いずれにしても決して良い状況ではありません。

会社の方針の根幹にあるのが「経営理念」です。「経営理念」は会社の憲法と言っても過言ではないでしょう。しかし、これもまた現場で無視されているか、理解されていないことが多いのです。

多くの場合「経営理念」に表されている言葉は概念的なものが多いので、現場の日常では意識されにくいという事情もあると思いますが、それでは大事な経営理念は全うされません。

リーダーは、決して経営理念を無視してはいけません。むしろ、経営理念を現場に落とし込む必要があるのです。そのためには、現場の実状と経営理念をメンバー全員で照らし合わせる場を作る必要があります。

例えば、「顧客第一主義」という経営理念を掲げている、ある製造メーカーの経理セクションの場合を考えてみましょう。経理セクションの場合多く見られる特徴として、放っておくと「顧客第一主義」よりは、むしろ製造原価の管理強化を目指すなどと言った、内向きな姿勢を示すことが多いと思います。

しかしここで、リーダーが一声かけて、例えば製造原価管理における「顧客第一主義」とはどんなことか考える機会を作ったとします。そうすると、おそらく顧客の使い勝手を損ねるほどのコストカットを提言することはなくなるでしょうし、同時に、顧客にとっての「価格と価値のバランス」を推し量ることを忘れないでしょう。それらのためにそれまではあまり行われていなかった、営業セクションの意見収集をするかもしれません。

このように、現場のリーダーは、一度は必ず経営理念と現場業務の具体的にすり合わせる必要があるのです。

現場のチームで必要な「We意識」

最近は、「自分を否定しているのではないか」と感じる事柄に対して必要以上に自己防衛する人が多くなったと言われています。話題になっている「新型うつ」も、この「自分を否定するものに対する過剰意識」がベースになっているという説があるほどです。

残念ながら、この傾向は確かなように思えます。前回触れた、人事評価をする人たちの証言では「自己中心性」の高い自分勝手な人が問題行動を起こしていることが多いという現実もそれを裏付けています。

「自分」に対する意識の強い人は、自分以外の人を自分と利害関係が対立するものとして捉えがちです。たとえそれが同じセクションの人であっても「自分」と「他人」を切り分けて考えているのです。同じ仕事をしていてもあくまでも「あなたはあなた」「私は私」、という「You&I」という感覚が強いのです。

この意識を変えることは、たやすいことではありません。大人になるまでの間、長年かけて醸成された感覚だからです。子供のころに、「隣の○○ちゃんはあんなに勉強できるのに、あなたはなんでできないの?」というように誰かと比較されたり、反対に自分が活躍できそうな場、例えば運動会などでは順位がつかずに横並びにされたりしていると、どちらの場合もアイデンティティーは育たなくなります。自分の中の確かな部分というのが育たないのです。そのように、育った環境が大きく影響しているため、社会に出てからそれを変えるというのは難しいのです。

しかし、チームの生産性をあげるためには、それらの傾向を無視するわけにはいきません。

そこで、リーダーのみなさんにお勧めしたいことは、We意識の徹底です。仕事は関係する人すべての集合体で完遂できるものだという意識を持たせることです。

そのためには、いろいろな場面で「私たち」という言葉を使っていくことも大切です。例えば、目標管理における進捗状況の確認の場でも、メンバー個人の進捗状況の確認を最優先するよりも、必ずチーム全体、つまり「私たち」の進捗状況を確認する必要があります。その上で、改めてその後の個メンバーの目標再設定をするという手順を踏みたいものです。

成果主義評価制度の場合、個人主義になる可能性が強いですから、なおのことまず「私たち」を確認することが重要となります。

また、職場全体の状況をメンバーに頻繁にフィードバックすることも「私たち」の意識を醸成するのに役立ちます。「今、私たちは○○の状況にあるが、みんなはこれについてどう思う」というような投げかけをすることで、常に全体を考えることが大切であるということを理解させられます。同時に、メンバーが自分のことしか考えられない状況から解放することもできるのです。

ただし、メンバーとチーム全体のことについて充分意見交換した後、決定を下すのは、あくまでもリーダーであることを忘れてはいけません。決定の場面では「私たちが□□できるために、私は△△をすることを決定したい。」というように「私は」という自分を主語にして発言しなければいけません。そうしないと、メンバーはみなさんのことを頼りないリーダーと捉える危険性があるのです。

「We日報」はみんなでつける

We意識を醸成するための工夫のひとつとして、「We日報」をみんなでつけることを私は勧めることがあります。

We日報とはどんなものかというと、例えば、みんなで進めている案件について、関係する者全員で(他セクションも含め)記入していく日記をイメージしていただければいいと思います。できれば、オンライン上でやりとりできるほうが良いと思います。

一例として次表をご覧ください。フォーマットはこの例の他にもいろいろ考えられると思いますが、いずれにしても、案件に関わると思われることについてそれぞれの立場で必ず記入していくというのがルールです。そうすることによって、全体の情報が増え、仕事がよりスムーズに進みますし、何よりひとつの案件についてみんなで参加しているという「We意識」を醸成することができるのです。

We日報を使うもうひとつのメリットは、「We」という言葉の定着です。Weという言葉自体がチームに定着してみんなで使っていると、「そうかそれって、Iだけの問題じゃなくてWeで取り組むべきなんだな」などというような発言が出始め、We意識が強化されるのです。

◇   ◇   ◇

井上健一郎(いのうえ・けんいちろう)
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/

[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年7月9日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

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