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生産性の高い、成果が上がるチームを作るためにはメンバーの意識が適切な方向を向いている必要があります。成果は行動によって創出されますが、その行動自体の内容や質を決める根底となるのがその人の内面にある「意識」だからです。

ちなみに、ここで言う「意識」とは、「仕事をする上での心構え」のようなものだと捉えてください。仕事をする上で常に自分が意識しておくことで、質の高い仕事ができることです。

リーダーは、「コミュニケーション」や「モチベーション」というチームの基盤に気を配りながら、次に高めなければいけないのが、この「意識」です。

不合格な「意識」と優秀な「意識」

仕事ができる、できないということは、次図に示すとおり2つの基準(バー)によって区別します。この基準(バー)は、前回「メンバーの強み弱みを把握する」ときにも示しましたが、いろいろな場面で使える考え方ですので、是非参考にしてください。

この2つの基準(バー)のうちまず「合否ライン」を全員に超えさせなければいけません。そして、「合否ライン」を超えただけではまだ可もなく不可もなくという状態ですから、仕事のレベルを上げるためにさらに「優秀ライン」を示し、その基準(バー)を目指させる必要があるのです。

合否ライン超えるための意識とは

それでは、意識における「合否ライン」を決めるものとはどんなものでしょうか。

私が、多くの企業の人事評価の現場に立ち会い「困ったマイナス評価」となる人たちの特徴を聞き、まとめたものが次の要素です。

1.責任感がない
2.言い訳が多い
3.ミスを繰り返す
4.言ったことしかやらない
5.人の話を聞かない

このほかにもいくつかのキーワードがありますが、この5点については、特に出現頻度の高いものでした。

この5つの要素から考えられることは、「自己中心性」の高い自分勝手な人間が、問題行動を起こしているということです。

チームは、メンバーひとりひとりの「個」の動きだけで成り立っているのではなく、お互いの連携によって成果を生み出しています。お互いが協力しあい、情報を交換することで、ひとりだけでは成しえないことができるのです。それが組織だって仕事をすることの強みでもあるわけです。

それにもかかわらず、メンバーが自分勝手な言動を繰り返していたら相互作用など生まれようがありません。

このことから、「合否ライン」をクリアするための「意識」を集約して言うと、次の2つの意識になります

●役割意識
自分が果たさなければいけない役割を充分理解し、その役割を全うするために邁進する意識
●関係性意識
他者の自分への期待、他者に対して自分ができることなどを理解しようとする、他者視点でものごとを捉える意識

この2つの意識を別角度で表現すると、「自分は何をしなければいけないのか」また「どの程度までやらなければいけないのか」という意識と言うことができます。そして、これらの意識を高めるためのキーワードは「気遣い・気配り」です。

「自分は何をしなければいけないのか」ということに対する気遣い・気配りができていれば、言われたことだけをやるのではなく、自ら進んで仕事を作り出すでしょうし、同様に「どの程度までやらなければいけないのか」ということに対しても気遣い・気配りができていれば、途中でいい加減にやめてしまうというようなことはあり得ません。

そして、なによりも周囲と協働するためには、周りへの気遣い・気配りがとても大切になります。内部だけでなく、外部に対してもこの気遣い・気配りによってよりよい関係性を築けるのです。

そして、気遣い・気配りができるようになると、役割意識と関係性意識が相互に関連しながら高まるのです(下図参照)。

優秀ラインを超えるための意識とは

「自分が何をやらなければいけないか」「どの程度までやらなければいけないか」という役割意識と関係性意識を身に付けられた人材が、チームの生産性を高める優秀な人材になるためのスタートラインに立てたことになります。

真に優秀な人材にするためには、「今までより良くするために何をするべきか」「新しい価値をどう生み出すか」ということに対する意識をしっかりと持たせることが大事です。「今までより良くするため」「新しい価値を生み出すため」意識は、次の2つの意識として言い換えることができます。

●情報を大切にする意識
取り巻く情報をより多く、正確に収集するために、自分の周辺にある情報に対して鋭敏になる意識
●自分で考える意識
得た情報を活用してアイディアを創出するために、他の人に依存することなく、自ら考え出そうとする意識

この2つの意識を高めるために必要なことは、「気づき」です。みなさんは、「気づき」は意識してできるものでなく、あるとき偶然のように湧いてくるものだと思ってらっしゃるかもしれませんが、決してそうではありません。「気づき」こそ、訓練で鍛えられるものです。

ただし、気遣い・気配りという基本の意識を持てていない人は、いくら訓練しても独りよがりな「気づき」に終わる可能性が高いですから、あくまでも基本意識として気遣い・気配りを身に着けさせるべきです。

「気づき」を鍛える訓練とは、例えば一日を場面ごとに振り返りながら「そこから何かヒントはないか?」と常に意識することで鍛えられます。その意味では気づきのための振り返り日記などは極めて有効な鍛錬ドリルになります。ちなみに、私も含め私の周辺で、この取組みにトライすることで、自身の思考の枠が広がったという実感を持っている人間が多く出ています。

このような振り返り、つまり自分自身の経験から「気づき力」を高めることができると、「情報」に対しても鋭敏になると同時に、思考が活性化され、自分自身で考える力を高めることもできるのです。

仕事の質を高めるもうひとつの意識

「気遣い・気配り」そして「気づき」をベースに「役割・関係・情報・思考」に対する意識を高めることができますが、もうひとつ付け加えたい意識があります。それは仕事の質に対する意識です。

「役割・関係・情報・思考」を「質」に転換するために重要なキーワードは「こだわり」です。

自分自身を高めよう、自分の仕事の出来をできるだけよくしようという「こだわり」が向上心となって自らの成長をうながすのです。ただ、この「こだわり」は価値観に近い位置にあるため、周りから育成・指導し難いという特徴を持っています。

以上、述べたことを総合してまとめたものが下図になります。

◇   ◇   ◇

井上健一郎(いのうえ・けんいちろう)
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/

[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年6月25日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

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