変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

PIXTA

PIXTA

メンバーのモチベーション「やる気」を高めるために、リーダーはそれぞれの個性を把握しなければいけません。個性といっても、明るいとか元気があるというようなメンバー個々の性格や基本性能的なものを見るのではなく、ビジネス現場で発揮されている個性、すなわち仕事への取り組み方の個別特性を見てあげなければいけないのです。

「どんな意識で仕事に向かっているか」「どのような場面で良さがでているか」ということを中心に見てあげなければいけません。

とは言っても、見る側にものさしとなる視点がないとなかなか特性を体系立てて把握することができませんので、今回みなさんがメンバーの強み、弱みを把握するための枠組みを提供しようと思います。

その枠組みは、この連載の第1回目にも触れた、仕事をするときの「人間力」を使います。第1回で、本当の育成とは、知識・技能よりもそれを活かす人間力のほうがずっと大切なことだと述べましたが、メンバーから見ても自分の成長の方向性が見えるということは、将来への「見通し」がたつという点で非常に大切なのです。ちなみに、前回述べたポジティビティの面からもそれは言えることです。

「メンバーの強みを把握してあげる」ことは、ポジティビティの中の「誇り(Pride)」につながるものですし、「成長課題を見つけてあげる」ということは、自分の将来への「興味(Interest)」「希望(Hope)」につながるからです。

「自分はどうすれば、もっと仕事力を高められて、その結果いい仕事ができるのか」ということが分かるのと分からないのでは、「やる気」に大きな差を生じさせるでしょう。

3つの「意識と力」

「人間力」を大きな枠で分類すると、まず次の3つの「意識と力」に分類できます。

・協働する意識と力

・仕事をこなす意識と力

・成長する意識と力

そして、それぞれの意識と力を細分化すると次のようになります。

・協働する意識と力 → チーム志向、コミュニケーション
・仕事をこなす意識と力 → 思考、行動
・成長する意識と力 → 成長意欲、育成

この6項目が、仕事をするときの人間力となります。

この6項目の言葉では抽象度がまだ高いので、さらに具体的な日ごろの仕事への取り組み状況を表した言葉に分解して表現してみましょう。

例をあげると次のようになっています。

「協働する意識と力」(大項目)

→「チーム志向」(中項目)

→(小項目)

・マナーやルールを守っているか

・周囲への気遣い・配慮ができているか

・周囲との連携ができているか

・他メンバーのサポートや、率先的に動いてチームに貢献しているか

このように大項目→中項目→小項目と分解しながら、実際の仕事現場での取り組み状況と照らし合わせることで、強みがどこで、弱みはどこかが分かりやすくなります。

表を使って「強み、弱み」を把握

以上のようにして、「人間力」の全体を示したものが以下の表となります。

実際にこの表を使って「強み、弱み」を把握するときには、表の右端の空きスペースをチェックボックスとして使うことをお勧めします。ここに各小項目に関してチェックするのです。

私がチェックするときには、次のような基準でマークします。

・その項目について問題点を感じることがある → ×
・その項目について問題点を感じることはないが優れた面というほどには感じない → 無印
・その項目について他のメンバーよりも優れていると感じている → ○

場合によっては、極めて高いレベルでやれていることであれば ◎ を使うということもしています。

中項目に○×をつけてみる

○×のイメージは次図のとおりです。

次に、小項目単位でつけた○×の状況から「中項目単位」に○×をつけてみると、日ごろの仕事状況を「人間力」として表現することが可能になります。中項目の○×は、つける人の判断でつけることをお奨めします。ルールがあるわけではありません。

例えば次図のような人の場合

「情報のとらえ方や論理的な思考が優れている」「計画性の弱さから、着手のタイミングを逸することがあり確実さに欠ける」(小項目でチェックした結果)ということから、結果「思考」に○「行動」に×がつけてあります。

みなさんの中には、思考の中に「計画性」について×が一つあるということは「思考」を○とするのは変だと感じる人もいるかもしれません。その場合は、「思考」は無印にすればよいのです。みなさんの主観を大切にしてください。

「主観で書いていいんですか?」という質問を受けることがありますが、「大いに結構です」と答えることにしています。

メンバーを育成するための判断基準はあるか

なぜならば、以上のようにメンバーひとりひとりの「人間力」をチェックするということは、実は皆さん自身が、自分の「判断基準」(前出の図にあった「合否ライン」と「優秀ライン」のバーの高さ)について考える最高の機会になるからです。

リーダーがメンバーを育成するとき、または評価をするときに絶対必要となるのが、この判断基準です。いわゆる「バー設定」ができているかどうかということです。

仕事に関して「バー設定」をすること、これもリーダーの重要な役割です。そのバー設定ができていなければ、メンバーの「強み、弱み」を的確に把握することができないのです。

いかがでしょうか。実際にみなさんのチームのメンバーをこの枠組みを使って診断してみる価値を感じていただけるのではないでしょうか。

次回は、「内的生産性」の中の「意識」を中心とした育成について述べていく予定です。

◇   ◇   ◇

井上健一郎(いのうえ・けんいちろう)
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/

[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年6月11日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

<<第4回 メンバーのモチベーションをあげる条件

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック