第3回 部下は自分を理解してくれる上司でなければ、アドバイスに耳を傾けない井上オフィス代表 井上 健一郎

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前回は、コミュニケーション基本4原則のうち

基本原則1 人は「聞きたくないことは、言われても肚に落ちない」

基本原則2 人は「嫌いな人のいうことは、耳にはいらない」

という2原則について述べました。この2つの原則に共通することは、コミュニケーションにマイナスに影響するということです。(図1)

今回紹介する残り2つの原則は、コミュニケーションにプラスに働くもので、生産性の高いチーム作りの第一歩として欠かせない要素ですから大事です。

図1 基本4原則がコミュニケーションに与える影響

基本原則3
人は「自分のことを分かってくれる人に、心を開く」

自分の良き理解者がいてくれることは、大変ありがたいものです。小さな子供のころの最大の理解者は「親」です。しかし、思春期の頃になると親に言えないことも増え、反対に鬱陶しくなったりします。その頃の理解者は「親友」であることが多いでしょう。とにかく、自分のことをよく分かってくれている人に対して人は心を開き、その人の言うことは素直に耳に入ってきます。

これは、上司と部下の間でも同様で、部下は上司が「自分のことをよく分かってくれている」と思えば、上司の指示や指導を素直に聞くことができますし、自分の意見も隠さず言うことができます。

リクルートマネジメントソリューションズがWebサイトで『「現場」視点から捉えた成果主義人事』という特集を掲載しています。その中にある会社で「評価に満足している人」に実施した聞き取り調査について取り上げています。それによると評価に満足している人は、「徹底的に自分の考えを聞いてくれた」「自分の情報をたくさんの人から集めてくれた」と回答しています。自分のことをよく分かろうとしてくれた上司の姿勢に好感を持ち、その結果どんな評価にも納得していることがよく分かります。

言いっぱなしにする上司

しかし、多くの上司の実状は、部下に言わなければいけないことをたくさん抱え、それを相手に「言わなければいけない」ということに翻弄されています。

・業務の進捗は順調に行っているか、報連相を怠るな
・指示したことは、期日を守れ
・計画を立てて、仕事に取りかかれ
・常に業務改善する意識を持て
・成長する意欲を持て
・何としても、目標を達成する気持ちを持て
・優先順位を考えろ

など、毎日言わなければいけないことであふれています。

その結果、「言いたいことをまず言う」ことに優先順位が置かれ、相手が理解したかどうか検証されることなく、言いっぱなしにする上司になってしまうのです。特に、強いリーダーシップを取ろうと考えている上司はそうなりがちです。

その場合、上司はアドバイスのつもりで「もっとこうした方がいい」ということを言ったとしても、部下が自分の考えを聞いてくれないと感じれば、それはアドバイスではなく「頭ごなしの否定」になってしまうのです。

コミュニケーションの良いチームを目指すリーダーがしなければいけないことは、

「目に見える行動だけに目を向けるのではなく、メンバーが内面で考えていることを良く聞き出すこと」

です。そして、そのためには「対話する時間を何よりも優先して作る」必要があるのですが、業務報告などメールでのやり取りの増加、飲みにケーションなどの減少という実状があるように、想像以上に対話する機会が減っていることを強く意識しなければいけないのです。

基本原則4
人は「自分のためになると思えば、聞きたくなる」

前出のリクルートマネジメントソリューションズの調査結果の中でもうひとつ特徴的な回答がありました。評価に満足している理由として「今後はこうすべきだというアドバイスを常に言ってくれる」というものです。この回答のポイントは「今後こうすべき」という点だと思います。まさに自分の今後のためになるアドバイスだから受け入れている様子が分かる好実例です。

アドバイスがその人のためになるかどうか、それを決めるのは相手の特性に合っているかどうかです。部下の性格や能力の傾向に合わないアドバイスでは効果は望めませんし、おそらく部下も聞く耳を持ちません。ですから、部下の性格や能力を充分に把握する必要があるのです。

そのためにも、直接的な接触の機会を多く持たなければいけません。対話の場を多く持つことは、適切なアドバイスを導き出すためにも必要なことです。

仕事の場面ごとの具体的なアドバイスも重要ですが、その前に対話を通して部下に伝えなければいけないことは、

リーダー本人の考えを示す
会社の考え方を伝える

ということです。

特に、リーダー本人の考えを示すことを強く意識する必要があります。

「会社の方針だからやるしかないんだよ」「その件、部長の意見を聞いてみよう」というようなリーダー自身の考えが部下に示されないことが実際には多いのです。

会社の考えと自分の考えを伝える

主語が「私は」で始まる会話を意識したいものです。会社からの指示・命令が厳しく部下が不満の色を出しているときなども、「会社の命令だからしょうがないだろ」ではなく、「今回は、会社からかなり厳しい目標を与えられたので、みんな正直難しいと思っているかもしれないが、私はこの目標に挑戦することで必ずみんなが成長できると思っているからやり遂げたい」と説明します。

また、取引先からクレームが入ったときなどにも、「長いものには巻かれるしかないんだよ」というような発言ではなく、「今回のトラブルについて、私は君たちの言い分も正しいと思っている。しかし、どこかですれ違った以上、先方の言い分にも耳を傾けるべきではないかな」など、自分の考えを述べなければ、部下はリーダーとして認めなくなります。

その上で、会社の考え方を伝えることもリーダーの重要な役割です。現場にいる部下たちには「経営」という視点はないですから、ミクロ視点、部分最適の視点でものを見がちです。会社の理念や方針を伝えることでマクロ視点、全体最適の視点を教えてあげることができるのです。もし、会社の方針や考え方について不満があるのであれば、なおさらよく対話してあげなければいけません。

次回は、活性化されたチームを作るために、コミュニケーションとともに意識しなければいけない「モチベーション」、「やる気」についてです。

◇   ◇   ◇

井上健一郎(いのうえ・けんいちろう)
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/

[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年5月14日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

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