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アルゲリッチさん 平和へのベートーベンを弾く

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NIKKEI STYLE

世界最高峰のピアニスト、マルタ・アルゲリッチさんが総監督を務める「別府アルゲリッチ音楽祭」。1998年に始まり、18回目の今年は「平和と音楽」をテーマに5月1日から同26日まで開かれている。大分県を中心とした音楽祭の中から、彼女がベートーベンの「ピアノ協奏曲第2番」を弾いた同17日の東京公演の様子を伝える。

まるでモーツァルトのような、明るく、軽やかで、生き生きとした音楽が鳴り響く。アルゲリッチさんが弾くピアノの速いアルペジオ(分散和音)は、音の粒立ちが良く、金銀の宝玉がきらめきながらコロコロと転がっていくみたいだ。しかしモーツァルトとは何かが違う。優しさとユーモアをのぞかせる明快な響きだが、力強さと頑丈な構成感が基盤にある。有り余る力を備える巨人が、人々と和んで楽しんでいる風情とでも言えばよいか。古典派とロマン派の要素を併せ持つベートーベンの作品の演奏にふさわしい。

5月17日、東京オペラシティコンサートホール(東京・新宿)で開かれた「第18回別府アルゲリッチ音楽祭」の東京公演。この日は皇后さまがアルゲリッチさんの演奏を鑑賞された。大分県知事の広瀬勝貞氏も参席した。「大分県を開催地にしている音楽祭ですが、多くの人々に活動を知ってもらうため、東京公演を入れている」と同音楽祭の総合プロデューサーで、アルゲリッチさんの親友、支援者であるピアニストの伊藤京子さんは話す。

アルゲリッチさんが高関健氏の指揮による紀尾井シンフォニエッタ東京との共演で弾いたのは、ベートーベンの「ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品19」。公演に向けてアルゲリッチさんは「ベートーベンが人類の連帯を歌い上げたように心を込めて演奏したい」とコメントしていた。リハーサルでは、楽団員がステージから退場した後も一人残り、開場時刻のぎりぎりまでピアノの音響のチェックをする入念ぶりだった。

「ピアノ協奏曲第2番はベートーベンが若い頃に書いた明るい曲。熊本地震の被災地の方々、まだ復興していない東北の方々に少しでも明るい雰囲気を運んでいきたい」と伊藤さんは言う。「苦悩を突き抜けて歓喜へ至れ」はベートーベンの言葉として広く知られている。「運命」の通称を持つ「交響曲第5番」や「第九(交響曲第9番)」はその言葉通りに展開する作品だ。しかし「ピアノ協奏曲第2番」は、まだ楽聖を苦しめる難聴が進行する前の、20代半ばまでに完成させた作品で、最初から最後まで青春の爽快な明るさに満ちている。

アルゲリッチさんのピアノ演奏といえば、かつては情熱的で激しく雄々しいといったイメージが先行していた面がある。1965年のショパン国際コンクールで優勝後、豪放で華麗なチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」をはじめ、リスト、ショパン、ラヴェルなどの難曲を圧倒的テクニックで弾きこなす印象が強かった。しかし今は、情熱や力強さを根底に持ち続けながらも、余裕の優しさ、ユーモア、繊細な表現が非常に充実し、まさに現代最高のピアノを私たちに聴かせてくれる。モーツァルトやベートーベンの演奏で新たな魅力が加わってきたのだ。

飽くなき探究心によってアルゲリッチさんの演奏が一段と進化していることを東京で印象付けたのは、2015年8月11日、秋山和慶氏の指揮による広島交響楽団とのサントリーホール(東京・港)での「平和の夕べ」公演だ。被爆・戦後70年にちなみ、広島原爆の日の前日の8月5日、広島市で開かれた「平和の夕べ」コンサートの東京版だった。演目は広島公演と同じベートーベンの「ピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15」。「同第2番」と同様に明るくみずみずしいコンチェルトだが、とりわけその緩やかな第2楽章「ラルゴ」で、安らぎに満ちたピアニッシモ(とても弱く)の繊細な表現が評判を呼んだ。

交響曲をまだ1曲も完成させていない青年ベートーベンの「ピアノ協奏曲第1番」と「同2番」。アルゲリッチさんはこの初期の2つの協奏曲を日本で番号順に2年続けて弾いたことになる。「ベートーベンの作品が持つ構成感はもとより、そこに隠されたユーモアや、今まで気付かなかったリズムの面白さを聴かせてくれる」と伊藤さんは言う。この日の「第2番」でも、やはり緩やかな第2楽章で、「彼女でなければ表現できない弱い音が、人の心の琴線に触れる」と伊藤さんが指摘した音楽が奏でられた。

広島・長崎への原爆投下とホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を第2次世界大戦での「最も恐ろしい犯罪」と捉えるアルゲリッチさん。そうした惨事を二度と繰り返さないために、彼女は音楽の力を役立てようとしている。昨年の「平和の夕べ」の公演では、「ミュージック・アゲインスト・クライム(犯罪に立ち向かう音楽)」との標語を掲げていた。

今年の音楽祭のテーマは「平和と音楽」であり、音楽を通じて戦争やテロや憎しみの連鎖を断ち切り、人々が平和に暮らせる世界をもたらせる、というアルゲリッチさんの信念が表れている。そこまでの大きな理想を掲げて活動を続けられるのも、卓越した演奏力があってこそだ。

「苦悩から歓喜へ」ではなく、最初から最後まで明るく楽しいベートーベンを聴かせたアルゲリッチさん。苦しい現実を生きる世界中の人々を心底から励ますにはそうするしかない、ベートーベンもきっとそう考えるはずだ、という深い読みを感じさせる選曲。ベートーベンの心情が乗り移ったかのような演奏だった。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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