魅力は「ライブ感」、コッペパン専門店が人気のワケ並んでも買いたい人気店のコッペパン

2013年に亀有にオープンした吉田パンの「あんマーガリン」(190円)。この味を求めて、連日多くの人が訪れる
2013年に亀有にオープンした吉田パンの「あんマーガリン」(190円)。この味を求めて、連日多くの人が訪れる

東京・亀有に、行列のできるコッペパン屋がある。多い日には100人以上が列をなし、一日に2000個以上を売り上げる「吉田パン」だ。近年、全国でこうしたコッペパンの専門店が相次いでオープンしているという。今、なぜコッペパンなのか。その人気の秘密を探る。

「盛岡のソウルフード」と呼ばれたコッペパンがある

吉田パンは2013年4月に亀有にオープンした、コッペパンの専門店だ。開店初日から大勢の人が訪れ、現在では地方のみならず、ヨーロッパや中国など、海外からの来店もあるという。コッペパンといえば、日本では給食のメニューというイメージもあり、パン屋でも大きく注目されることは少なかった。なぜ、コッペパンの専門店をオープンするに至ったのだろうか。

亀有駅から徒歩5分ほどの位置にある吉田パン

「きっかけは岩手県の盛岡にある『福田パン』というお店でした。親戚がおみやげに持ってきてくれたあんバターに衝撃を受けて、パンを作ったこともなかったのに弟子入りを決めたんです」

そう語るのは、吉田パンの店主・吉田知史さん。福田パンは、盛岡市周辺では有名なコッペパンの専門店だ。1948年に創業したコッペパン専門店の元祖であり、その味は「盛岡のソウルフード」といわれるほど。フィリング(バターやジャムなどの具材)の入った缶がカウンターにずらりと並び、注文を受けてからパンに塗る。吉田パンもこのスタイルを継承し、注文を受けてから商品を作る。

岩手県盛岡市にある福田パン。店頭販売だけでなく学校やスーパーにも出荷され、現在は1日1万個のコッペパンが作られる
吉田パンの厨房にはパンに塗るためのフィリングが所狭しと並ぶ。注文するカウンターからは、このフィリングを塗るところを見ることができる

吉田パンの看板商品は、もちもちとした弾力のあるコッペパンにたっぷりのあんことマーガリンを塗った「あんマーガリン」。手に持つとずっしりと重くボリュームがあるが、あんの上品な甘さと塩気のあるマーガリンを交互に味わううちに、あっという間になくなってしまった。

福田パンのあんバターに感動した吉田さんいわく、「このメニューが作りたくて店をはじめたようなもの」。その思い入れが伝わったのか、1日に200個以上が売れる一番人気のメニューになった。

目の前で作ってくれるライブ感が魅力に

この吉田パンを筆頭に、近年は2014年に上野にオープンしたイアコッペ、2015年に京都にオープンしたル・プチメックOMAKEなど、全国でコッペパンの専門店が相次いでオープンしている。現在、コッペパン専門店の数は東京を中心に30店以上。このブームは、なぜ起きているのだろうか。パンの研究所「パンラボ」を主宰し、『日本全国パンの聖地を旅する パン欲』(世界文化社)や東京にある200軒のパン屋をめぐった『サッカロマイセスセレビシエ』(ガイドワークス)などの著書をもつ池田浩明さんによれば、まず「1種類だけを扱ったパンの専門店が増えている」という。

「メロンパン専門店や食パン専門店など、扱う商品を特化させたパン屋が増えています。これはパンの種類を絞ることで狭いスペースでもでき、かつパン作りの技術も1種類だけ習得すれば始められるということが挙げられます。コッペパンの専門店が数多くオープンしているのも、そのうちのひとつといえるでしょう」(パンラボ・池田浩明さん)

中でも、コッペパン専門店は「目の前で作ってくれるライブ感」が魅力だ。

「サンドイッチのように具材の種類が多いものは別ですが、フィリングを塗ったり具材を挟んだりするだけであれば、注文を受けてからでもできる。作りたてを提供する業態が、注目を集める要因になっています」(池田さん)

また、目の前で作ってくれるということは生産の様子が見えるということでもある。

「震災以降、消費者が素材にこだわったり生産者を明確にしているものを選んだりする傾向があり、生産者もその目線を意識した物作りをしている人が増えてきました。コッペパン専門店は作り手の顔が見えるし、さらに作っているところが見られることも、今の時代にマッチしています」(池田さん)

都心から離れた地域での盛り上がり

お店が東京都心に限らず様々な場所にできているのもコッペパンブームの特徴だという。

「専門誌以外でもパンの特集が組まれるようになって久しいですが、これまでのパンブームを担っていたのはハード系と呼ばれるフランスパンなどを扱ったお店が中心でした。これらのパンを扱うお店は、東京だと目黒や世田谷など、若い女性が多い地域に集中しています。しかしコッペパンの場合、老若男女問わず支持を集めています。生地がやわらかく、懐かしさのあるコッペパンは老人でも親しみやすいですし、男性でも満足できるボリュームの総菜パンも多い。このため、都内に限らない色々なところにお店ができているんです」(池田さん)

具材を変えられる幅の広さと世代を超えて愛される素朴さが、コッペパンの強みのようだ。吉田パンも店舗を亀有に構えており、都心からは少し離れているものの、連日行列が絶えない。

「亀有を選んだのは私たち家族が長く住んでいたことが理由です。パン屋は朝が早く、開店時はまだ子どもも小さかったため夫婦で店をするには家の近く以外に選択肢がありませんでした。でも、オープンから3年で地元の人がよく訪れてくれるようになり、遠方からも皆さん足を運んでくれる。亀有にお店を構えてやっぱり正解だったと思っています。福田パンが盛岡のソウルフードといわれているように、吉田パンも『下町のソウルフード』を目指して日々作り続けています」(吉田さん)

なじみのおじさんやおばさんが切り盛りする地元のパン屋。いつの間にか失われてしまった店も多いが、そんな懐かしさと親しみやすさを留めながら、コッペパン専門店はパン業界に新しい風を吹かせている。

吉田パン 亀有本店
住所/東京都葛飾区亀有5-40-1
営業時間/月曜日7:30~13:00、火~日曜日7:30~17:30 ※品物がなくなり次第終了
定休日/なし

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幅広い世代に人気のコッペパン。この連載では、「揚げ物コッペパン」「総菜コッペパン」「デザートコッペパン」という3つのジャンルに分け、話題の専門店を紹介していく。まず最初に取り上げるのは、カツやコロッケをはんさんだ揚げ物コッペパンの人気店だ。

並んでも買いたい人気店のコッペパン
第1回 魅力は「ライブ感」、コッペパン専門店が人気のワケ
第2回 揚げ物コッペパン 味とボリュームにうなる人気3店
第3回 パン作りへのこだわりが詰まった総菜コッペ

(ライター 小沼理=かみゆ)