旅行・レジャー

生物(ナショジオ)

ナマケモノは小さな生き物の「エコで暖かい宇宙」だ

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/6/5

ナショナルジオグラフィック日本版

ノドチャミユビナマケモノ(ほ乳類:有毛目:ナマケモノ亜目:ミユビナマケモノ科) 体長:50 cm 撮影地:グアシマ、コスタリカ

今回はナマケモノをここ15年ほどコスタリカで撮りためた写真と共に紹介します。

ナマケモノはコスタリカ(スペイン語)でペレソソ(perezoso)と呼ばれていて、意味は、「怠(だる)い、怠慢な、だらけている、ぐうたら者」。日本語や英語(sloth)の名前と同じような意味だ。

その名のとおり、この動物はあまり動かず、動いてもスロー。体も地味な色合いなので森の中で目立たない。どうやら1日10時間ほど眠るそうなのだが、ナマケモノは決して怠けているわけではない。それが彼らの生き方、生態なのである。

食が細く、植物の若葉や新芽などを1日約8グラムしか食べないという。代謝率が低く、わずかなエネルギー源をきちんと消化させ、活動のために使用するので「エコな生活を送っている」と言っていい。

こんな生活だから、ふんと尿の排せつは1週間に1回程度で、オモシロいことに、樹上から地上へとわざわざ降りて、木の根元辺りで用を足す。

ナマケモノの特徴である前脚と後脚の指は、木の枝に引っ掛けて、ぶら下がれるようなフック状になっている。前脚は体の割合からすると長く(上の写真)、木の幹に抱きついたり、枝からぶら下がったりして、樹上を移動する生活に適している。

鋭い指は、時に身を守るために使われる

ナマケモノの仲間は中南米に生息し、現在6種が知られている。コスタリカで見られるのはこのうち2種。前脚のかぎ爪のような指が2本のホフマンフタユビナマケモノ (Choloepus hoffmanni)と3本のノドチャミユビナマケモノ(Bradypus variegatus)だ。後脚の指の数は両種とも3本。両種はそれぞれフタユビナマケモノ科とミユビナマケモノ科に分類されている。

この2種は、顔つきや大きさ、毛の色や模様でも区別できる。ミユビナマケモノは、小型でグレー、顔の模様がおっとりとした「たれ目」。フタユビは、ミユビに比べ気持ち大きめ。毛は薄茶色で少し長く、顔は白っぽく、たれ目模様はない。

コスタリカ大学のキャンパス内にそびえるイチジクの木で、手のひらに乗りそうなミユビナマケモノの赤ちゃんとお母さんが葉を食べていた。2012年に撮影

首都サン・ホセ近郊にあるコスタリカ大学のキャンパス内にもこの2種のナマケモノが意外とたくさんすんでいる。大学生がナマケモノということではない。話によると、保護された野生のナマケモノが、10~15年ほど前にキャンパス内の保全林に放されたということだ。そして、キャンパス内で繁殖をしている。ぼくも両種の子連れのお母さんナマケモノを見たことがある。

電線にぶら下がり「寝ている」フタユビナマケモノ

木々の上でじっとしているところや動いているところを見かけるのだが、たまにキャンパス周辺の大道路に出てきて、電柱に登っているものや、電線にぶら下がっているものを見かける。見ているとどうも危なっかしい。

樹上で丸まって「寝ている」ミユビナマケモノ
コスタリカ大学のキャンパス内にすむフタユビナマケモノ 体長:60 cm 体重:約6 kg 撮影地:サン・ホセ、コスタリカ
近寄ってもあまり反応しないが、ミユビナマケモノよりも警戒心が強いように感じる。主に夜活動する

じっとしているときは、たいてい丸まっていて、スズメバチの大きな巣か、樹上生のシロアリの巣のように見える。

コスタリカ大学のキャンパス内にすむミユビナマケモノ 体長:50~60 cm 体重:約4 kg 撮影地:サン・ホセ、コスタリカ
毛づくろいのような行動(左)と背中をかいているところ(右)。長い前脚と鋭い櫛(くし)のような指が便利そうだ。セクロピアというイラクサ科の木の葉を好んで食べる。主に昼間活動する

ところで、ナマケモノの体には、「ナマケモノガ」と呼ばれている小さなガが何種かすんでいる。

ノドチャミユビナマケモノ(ほ乳類:有毛目:ナマケモノ亜目:ミユビナマケモノ科) 撮影地:グアシマ、コスタリカ

そのひとつがクリプトセス(Criptoses)というメイガ科の一種。前翅(ぜんし)の長さは約8mmと小さいうえに、ナマケモノの毛に似た模様をしている。さらに動きが速く、すぐに隠れてしまうので、見つけるのは難しい。ある情報では、1匹のナマケモノに100匹以上のクリプトセスがすんでいるそうだ。

「ナマケモノガ」のクリプトセス(Criptoses)の一種(矢印)

一度だけだが、実際にミユビナマケモノの毛の中にすんでいるガを目の前で見たことがある。ガたちは、ナマケモノに近づいたぼくにものすごく反応して、ワサワサと逃げ惑っているように見えた。そのときに思ったことがある。もしかするとこの共生しているガたちは、ナマケモノのセンサー役を担っているのかもしれない……と。

ミユビナマケモノの排せつ用の穴とその先にある短くてガッシリとしたしっぽ(円で囲った部分)。この「硬そうな」しっぽで穴を少し掘って、そこにふんを排せつする

1日の多くの時間を眠って過ごすナマケモノは、周りの環境の突然の変化、たとえば危険に対してあまり敏感に反応できない。だから、ガたちが引き起こすワサワサ感を、ナマケモノが感じ取って、危機に備えているのかもと考えたのである。

ちなみにこのガたちは、ナマケモノに生えるトリコフィルス(Trichophilus)という土壌藻類(緑藻類:カエトフォラ目)から栄養を摂っているそうだ。たまに緑がかった毛をしたナマケモノがいるが、それは土壌藻類の色で、それらを生やすことで森の中に上手く溶け込んでいる。

そしてある研究によると、ナマケモノガのメスはナマケモノが地上へと降りてふんを排せつする際に、ナマケモノからふんへと移動し、ふんに卵を産みつける。ナマケモノのふんは、共生するガの幼虫の食料であり、すみかなのだ。

フタユビナマケモノのふん

ふんは、シカのもののようで、ポロポロとした粒状の塊だ。これをガの幼虫たちが食べて育ち、やがてサナギになり、成虫(ガ)になって、ナマケモノの元へと飛んでいくのである。

最初のほうにも書いたが、樹上生のナマケモノは不思議なことに、「わざわざ」木から降りてふんをする。機敏に動けないナマケモノが、ピューマなどの天敵が比較的多い地上に降りる行為は危険である。ぼくは、ナマケモノがふんをするところも、ガの産卵も見たことがないのだが、「なぜ地上に降りてふんをするのか?」について自分なりに仮説を立ててみた。

樹上からふんをポロポロと落とすと、あちこちに散らばってしまう。するとガの幼虫の餌であるふんがスグに乾燥したり、雨で流されてしまったりする可能性が高くなる。言い換えると、「いいあんばい」のガの幼虫の住まいが用意されないわけだ。

子どものミユビナマケモノ。長い間じっとして動かないでいるのも大変ではないですか?

だから、「ナマケモノはセンサー役として毛の間に住んでもらっているガたちのために、リスクを犯してでも、地上に降りてふんをする」のだろう、と今ぼくは考えている。

ナマケモノの体の毛には、幾種かのガと土壌藻類以外に、菌類と甲虫やゴキブリの仲間なども生息している。ナマケモノは小さな生きものたちが共存する、スローでエコで暖かい「森にたたずむ小さな宇宙」だ。

メガテリウムという地上生の巨大ナマケモノが大昔、およそ1万年前まで中南米に生息していた。その大きさは5~6メートルで、体重が3トンもあったという。コスタリカの熱帯雨林には、幹に大きなトゲを生やした木々が少なくない。そのトゲは、地上生巨大ナマケモノに適応するためのトゲだった可能性が高いということを植物の先生が話していた
「ナマケモノガ」のクリプトセス(鱗翅目:メイガ科:Chrysauginae亜科)の一種 乾燥標本。翅(はね)の脈が白っぽくなっていて、ナマケモノの毛並みに馴染む模様をしている。(画像処理によって、ガの胸部に刺さっていた昆虫針を消しています) 前翅長:約8 mm 撮影地:ワシントンDC、スミソニアン国立自然史博物館、アメリカ合衆国、(c)2016The Smithsonian Institution
西田賢司(にしだ けんじ)
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2016年3月23日付の記事を再構成]

ミラクル昆虫ワールド  コスタリカ

著者:西田 賢司 編集:ナショナル ジオグラフィック
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
価格:1,944円(税込み)


旅行・レジャー 新着記事

ALL CHANNEL