ミラノ・サローネ 家具の祭典、上客は中国
編集委員 小林明
新興国が台頭、購買力を反映
ミラノ・サローネの風景が様変わりしている。中国(香港含む)、ロシア、インド、ブラジル、トルコなどの新興国が会場来場者数の国籍別ランキングで上位を独占しているのだ。5カ国の合計(2015年4月)は全体の21%。01年はわずかに3%だった。
「来場者数は国際経済の興亡を映す鏡。世界でのBRICsなど新興国経済の勢いが読み取れる」。30年以上、ミラノ・サローネをウオッチする富山県立近代美術館副館長の桐山登士樹さんはこう話す。
今年4月のミラノ・サローネ。会場で特に目立ったのは14年から首位に君臨する中国人の来場者たち。開催初日の4月12日。主催者代表に対するメディアの共同取材で新旧交代を象徴するハプニングが起きた。最多数派の中国人記者団の取材が優先され、日米独の記者団が片隅に押しやられたのだ。
「10年前にはとても考えられない出来事。ビジネスは正直。バイイングパワー(優越的な購買力)のあるなしでバイヤーや記者たちの処遇も決まる」。日本人の関係者はこうつぶやく。
潮目が大きく変わったのはリーマン危機に見舞われた08年。08年から09年の間に日本人来場者が8804人から4934人に激減し、長年の定位置だった5位から10位に陥落。景気の低迷で先進国が軒並み順位を落とす半面、BRICsやトルコなど新興国がジワジワと順位を上昇し、勢力図が塗り替わった。
15年の日本からの来場者数は5135人で全体の12位に沈んだまま。一方、中国、ロシア、インド、ブラジルはそれぞれ1位、2位、10位、11位。トルコも5位に食い込み、新勢力として存在感を確実に高めている。
こうした変化をとらえ、ミラノ・サローネは05年からモスクワで始めた海外開催を今年11月に中国・上海にも広げる方針。「需要の増える場所に我々は直接出向く。モスクワに続いて上海の見本市も成功させたい」と主催者代表のロベルト・ズナイデロ氏は意気込む。
家具・インテリアの国際見本市はパリやフランクフルトなどほかの都市でも開催している。「だが情報発信力ではミラノがやはり世界で最大最強」(桐山さん)。強みのひとつは「フオーリ・サローネ」(見本市外)と呼ばれる一般消費者も対象にした数々の展示会があること。
ミラノ・サローネとは実施母体が異なり、参加基準も緩いが、時期が重なるイベントでミラノ市が全面支援する。市内各地の会場ではより自由な発想で企業や若手デザイナーが斬新な作品を展示している。
今年4月には気鋭デザイナー、佐藤オオキさんが漫画を題材にデザインしたユニークなイス50脚を披露。佐賀県の有田焼の窯元らも創業400年に向けて新ブランドの展示会を開いた。
「良い職人が多い生産基地のミラノは情報面でも地の利がある。ミラノ・サローネとフオーリ・サローネの相乗効果でミラノの街全体から世界に発信できる情報力は当面、揺らぎそうもない」。佐藤さんはこう話す。
変わる勢力図、生産に波及も
新興国の旺盛な購買力が地殻変動の源泉だが、将来は生産や情報発信の拠点が新興国に移る可能性はないのだろうか?
「大いにある」というのが桐山さんの見解だ。すでに有名デザイナーが新興国メーカーと組んでものづくりをしており、新興国でも有望な若手デザイナーや職人が増えつつあるという。
日本勢も吉岡徳仁さん、深沢直人さん、佐藤オオキさんら有力デザイナーがミラノで活躍し、岡村製作所、トヨタ自動車など民間企業も展示を続けているが、ウカウカしてはいられない。経済力の興亡に連動するように創造や生産の現場も変貌する可能性があるという。
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