「早生樹」里山変える 成長早く、林業に好循環

耕作放棄地にセンダンの苗木を植える地域住民ら(今年4月、兵庫県宍粟市)
耕作放棄地にセンダンの苗木を植える地域住民ら(今年4月、兵庫県宍粟市)
成長の早い「早生樹」を里山に植える試みが広がっている。伐採まで長期間かかるスギやヒノキと異なり、投資を早く回収できる林業の登場で里山が生まれ変わる可能性がある。

大型連休が始まった4月29日。兵庫県宍粟(しそう)市では地域住民ら約50人が集まり、センダンの苗木65本を植樹した。かつては農地だったが、30年以上も耕作が放棄されていた。そこで地元の有志が所有者から土地を借り、林業に転用することを決めた。

センダンは国内では街路樹などに使われる。「センダンは双葉より芳し」のことわざで知られるセンダンとは別の種類だ。アジアなどの暖かい地域に分布する広葉樹の一種で、成長が非常に早い。針葉樹のスギやヒノキは植えてから木材として利用するまで40~50年かかるが、センダンなら10~20年程度で十分だ。

耕作放棄地に植林

この日は隣接する養父市でも耕作放棄地に地域住民ら7人がセンダンを植える試みを始めた。「順調に育てば2年後に高さ3~4メートルになる。十数年後には木材として利用できるだろう」。これらの植樹を後押ししている兵庫県西宮市の木材会社経営、横尾国治さんはこう期待を込める。

センダンは成長すると幹が枝分かれするため木材利用が難しかった。ただ近年、熊本県で幹をまっすぐに成長させる手法が確立。12年に再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が導入され、バイオマス発電の燃料への需要が見込めるようになったこともあり、九州や近畿地方を中心に植樹の動きが広がっている。

近畿地方では横尾さんを世話人代表とする「日本木材加工技術協会」関西支部の研究会に、京都大学や京都府立大学などの専門家も加わり、家具や内装用の建材として活用するための試験植樹を2014年から始めた。木材搬出コストのかからない平野部の耕作放棄地や、スギ・ヒノキの伐採跡地などに植林を進めていくことを目指している。

成長の早い樹木は「早生樹」と呼ばれ、ほかにもユーカリや柳などいくつかの樹種で利用研究が進む。早生樹が注目を集める背景には日本の林業が抱える構造問題がある。

日本では高度経済成長期のころ、住宅の柱など建築用材の需要が拡大する中で大規模な植林が実施され、スギやヒノキの人工林が広がった。

しかし育成には時間がかかるため、当時の旺盛な需要には応えることができないまま、1964年に木材輸入が全面自由化されると外材の供給量が拡大。国内の木材生産額は大幅に減少していった。

一方で、全国に植樹した人工林が成長し、本格的な利用期を迎えつつある。木材資源量を示す「森林蓄積(樹木の幹の体積)」は12年時点で約49億立方メートルと東京ドーム約3950個分に達する。ただ、潤沢な資源を使いきるあてはないのが実情だ。

植樹から伐採まで50年間もかかると、社会状況が大きく変わっても変化に対応できない。その点、早生樹は需要の変化にも対応しやすい。

成長に時間のかかるスギやヒノキは植樹した本人が収穫するのではなく、子孫の代まで受け継ぐことを前提としてきた。林業の担い手が不足してこの前提が成り立ちにくくなるなか、早生樹なら自分の代で収穫できる利点もある。

金融機関も関心

金融機関も関心を示し始めた。これまで長すぎる回収期間が壁となって林業への融資は難しかったが、バイオマス発電向けなら数年でも資金が回収可能になるからだ。すでに宮崎県の宮崎銀行は昨秋から大手商社と組んで事業化を提案。複数の自治体が前向きな反応を示しているという。

欧米では森林投資ファンドに年金などのマネーが流れ込み、森林経営を支えている側面がある。森林総合研究所の久保山裕史室長は「日本も林業への投資を促すためには、植樹から伐採までのサイクルを短くして資金回収を早める努力をする必要がある」と指摘している。

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有効活用へ需要開拓 スギ・ヒノキ、本格的伐採期

スギやヒノキの人工林が本格的な伐採期を迎え、その有効活用は政策的にも喫緊の課題だ。林野庁は今月、中長期的な林業のあり方を示した「森林・林業基本計画」の改定案をまとめた。公共建築物や発電・熱利用などへの需要を開拓し、現在は3割程度にとどまる木材自給率を2025年に5割超に高めることを目指す。計画案をまとめた東京大学の鮫島正浩教授は「緑の循環を回し、地域に利益が還元される仕組みをつくり上げていくことが重要だ」と話す。

計画案は今後の森林整備の方向性として早生樹の活用、荒廃農地への植林にも言及した。これまでスギやヒノキの人工林の育成一辺倒できたなか、新たな森林のあり方を模索する作業は緒に就いたばかりだ。

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関連インタビュー■東京大学の鮫島正浩教授の話

林野庁林政審議会の会長として「森林・林業基本計画」案のとりまとめにあたった。
東京大学・農学生命科学研究科の鮫島正浩教授

日本の国土は面積の3分の2を森林が占める。林業を成長産業と位置づけ、これらの豊富な資源を国や社会のために役立てていこうというのが基本計画の狙いだ。地方で山村の過疎化が進むなか、緑の森の循環を回し、林業や木材の利活用で地域にきちんと利益が還元される仕組みを作り上げていかなければならない。

日本の森林の約4割はスギやヒノキといった針葉樹の人工林だ。日本では第2次世界大戦中や戦後の復興期に森林破壊が進んだ。こうして荒廃した森林を回復させるため、今から50~60年前を中心にスギやヒノキの大規模な拡大造林を進めていったという経緯がある。これらの人工林が成長し、いま多くの樹木が利用期を迎えている。木を間引く「間伐」だけでなく、本格的に切り出す「主伐」を考えていかなければならない時期にきている。

日本の木材自給率は2002年に過去最低の18.2%を記録したが、2014年は30%台を回復している。今回の基本計画案では2025年に自給率50%超の達成を目標に掲げた。最近の木材利用としては、バイオマス発電の燃料材としての木質バイオマス利用が急速に伸びているが、公共建築など非住宅建築物への木材利用や、木材由来の新素材であるセルロースナノファイバー(CNF)などの需要も拡大が期待できる。

しかし木材の持続的な安定供給なしに、ただ需要を開拓するだけではうまくいかない。たとえば、林地を集約して林業の効率化を進めようとしても、森林所有者の不明でうまく進まないなどの課題が明らかになってきた。そこで基本計画の改定とあわせて今国会では森林法も改正し、一部の所有者が不明でも森林施業ができるようにした。ボトルネックの部分を解消し、森林・林業全体のサイクルと森林からの安定した木材供給が回るように目配りをしている。

今後はスギやヒノキの人工林で伐採をした跡地に、再び植林をする「再造林」も重要な課題になる。人工林は間伐などで人が手を入れて整備をしないと荒廃していってしまう。今後は針葉樹の人工林ばかりではなく、急峻(きゅうしゅん)な山奥など経済的に林業が成り立ちにくい場所では、より天然林に近くて手のかからない「育成複層林」を増やしていかなければならない。

日本の林業はこれまで針葉樹が中心だったが、実は広葉樹も家具や住宅の内装材などに利用される。これらの広葉樹材の経済的な利用価値は高いため、見直す動きが出ている。とくに成長の早い早生樹ならビジネスとしても成立しやすい。いまセンダンなどに注目が集まっているのはそうした事情があるのだろう。

地方の人口減少など、社会の仕組みが大きく変わる中で、新しい時代に即した森林経営のあり方が求められている。森林には木材供給のほかにも水源の涵養(かんよう)や防災、景観、二酸化炭素(CO2)の吸収など多様な役割がある。ビジネスとして成立する部分もあるが、やはり税金などを投入して維持していかなければならない公共的な側面もある。どうやったらみんなが森林の価値を認めて気持ちよくお金を払っていくことができるか、きちんと考えて、説明していく必要がある。

(本田幸久)

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