マネー研究所

カリスマの直言

若者が開く日本の未来と資本主義(渋沢健) コモンズ投信会長

2016/5/23

「若者の一票だけでは社会は変わらないが、微力と無力は違う。微力は勢力になり、社会を変えられる。こうした民主主義の問題は資本主義の問題にもつながる」

 古今東西を問わず、どの時代でも若者は自由を求める存在だ。親からの自由、学校からの自由、そして社会秩序からの自由。常に「動」の自由を求めるのが若者だ。ましてや現代のネット社会では自己表現のすべが著しく増えて、若者の自由度が過去と比べて増しているはずだ。この夏からは選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、意思表示の機会は広がる。

 ところが、先日放送されたNHKスペシャル「18歳からの質問状」で10代の日本人の若者たちが疑問や質問を現職の国会議員に「とことんぶつける」シーンで目立ったのは、自由闊達な雰囲気ではなかった。むしろ「わからない」、「不安」、そしてどうせ何も「変わらない」であった。今までの世代と比べて自由度が極めて高い世代のはずなのに、テレビ画面には正反対の若者たちが映っていた。

 「何もしてくれないから、何も変わらないから自分は投票には行かない」「環境を変えてくれなければ自分は何もできない」。若者たちは口々に言う。確かに若者の一票では日本社会は変わらない。ただ、その微力な一票を投じなければ、日本社会が変わることもない。微力と無力は違うのだ。無力はゼロだ。何回も足しても、何回も掛け算しても結果はゼロだ。何も変わらない。

 ただ、微力と微力を足し算するとちょっぴり数が増える。微力を微力で掛け算すれば力が倍増する。何回も掛け算すればもっと力が増えていく。

 力が増えれば微力が勢力になる。勢力になれば社会を変えられる。こうした民主主義の問題は、資本主義の問題にもつながる。

 企業の不正問題、日銀の異次元な政策、市場を脅かすHFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング=超高速取引)などと直面する一般個人は無力感に陥る。「わからない」、「不安」、そして、どうせ何も「変わらない」。だから、何もしない。このような大人も、無力と微力の違いや資本主義の本質を理解していない。

 しかし、キラリと光る原石のような若者は決して少なくないと実感している。

 先月、とある勉強会に参加した。この私的勉強会の発足は1970年。財界有力者であった故小林陽太郎氏が主宰し、日本の将来ビジョンを抱く経済界の重鎮らでつくる40年以上続く伝統ある会合である。

 そこに官民共同の留学支援プロジェクト、「トビタテ!留学JAPAN」の仕掛け人である船橋力氏を講師としてご招待した。船橋氏はダボス会議が2009年に「ヤング・グローバル・リーダー」に選んだ方で、フィリピン・セブ島の孤児院に暮らす若者の職業訓練などを手がける会社を運営する。「トビタテ!留学JAPAN」では20年までに大学生の海外留学を年12万人(現状6万人)、高校生の海外留学を年6万人(現状3万人)への倍増を目指す野心的なプロジェクトだ。財源は日本を代表する180社以上の企業・団体が提供している。船橋氏に同プロジェクトの留学経験者である大学生2人も付き添って発表した。

私的勉強会にお招きした「トビタテ!留学JAPAN」プロジェクトディレクターの船橋力氏(右端)と同行した若者たちの将来ビジョンは輝いていた

 若者たちは堂々と自分たちの留学の動機、また留学先で目覚めた人生観などを熱意を込めて話してくれた。自ら世の中を「変える」強い意志が感じられた。このような若者たちを年18万人も輩出することが出来れば、日本は変わるだろう。

 このような意義ある国家プロジェクトの財源を政府予算ではなく、民間資金で支えることは大変素晴らしく、支援企業に敬意を示したい。「世代を越える長期投資」を目指す弊社のコモンズ30ファンドの投資先である三菱商事、旭化成、コマツ、シスメックス、ダイキン工業、東京エレクトロン、ベネッセホールディングス、味の素、資生堂、セブン&アイ・ホールディングス、東レ、堀場製作所、丸紅、ユニ・チャーム、リンナイなど数多くが支援企業として名を連ねていることがとてもうれしかった。20年以降も持続的に発展できるプロジェクトとして進化することを大いに期待したい。

 ゴールデンウイーク明けには早稲田大学で講義する機会をいただいた。学年・学部に制限がない講義であり、「Global Engagement & Capitalism for the 21st Century」という英語のレクチャーに大勢の学生が真剣に耳を傾けてくれた。もちろん留学生もいたが、ほとんどが日本人である。

早稲田大学の中林美恵子准教授のグローバル・リーダーシップの授業では日本人学生たちが英語の講義に熱心に耳を傾けていた

 英語の内容なのでどこまで理解されたのかという心配もあったが、数日後に彼らから数多く寄せられたフィードバックにそうした懸念は杞憂(きゆう)に終わった。いくつか紹介しよう。

 「渋沢さんがおっしゃったように、我々一人ひとりの力は微々たるもの。しかし、自分の出来る分野でベストを尽くすことで、国全体が価値を高めるのではないだろうか」

 「今後日本が繁栄していくためにも我々の世代が一層がんばって世界で活躍できる人材になる必要があると感じた。そしていつまでも日本という国に誇りが持てるように、自分たちが主体となっていきたい」

 このような若者たちを社会へ輩出することが出来れば、日本は変わる。日本の未来は明るい。民主主義、ひいては資本主義の未来も開けている。

渋沢健(しぶさわ・けん) コモンズ投信会長。1961年生まれ。83年米テキサス大工学部卒。87年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)MBA経営大学院卒。JPモルガン、ゴールドマン・サックス証券、大手米系ヘッジファンドを経て、2001年に独立し、07年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業、08年会長就任。主な著書に『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』 (日経ビジネス人文庫、2014年)『運用のプロが教える草食系投資』(日本経済新聞出版社、2010年)『渋沢栄一 100の訓言』(日経ビジネス人文庫、2010年)『日本再起動』(東洋経済新報社、2011年)『渋沢栄一 100の金言』(日経ビジネス人文庫、2016年)など。

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