日本コカ、「ゆるスポ」普及でオリパラ支援

「バブルサッカー」は中学生の心をつかんだ
「バブルサッカー」は中学生の心をつかんだ
米コカ・コーラは1928年のアムステルダム五輪から五輪スポンサーを務めるスポーツマーケティングの先駆け企業だ。日本コカ・コーラも日本における「オリンピックムーブメント」の先導役。2020年の東京五輪に向けて、中学生が手軽にスポーツに親しめるようにする教育プログラムを今夏から本格展開させる。日本コカが五輪を熱くする戦略を探った。

透明な球体に包まれて「ぶつかり合い」サッカー

東京都東久留米市にある南中学校の体育館は熱気に包まれていた。バブル(泡)をイメージした巨大で透明な球体の中に入った生徒が転がるボールを追う。バブルサッカー。生徒同士がぶつかり、転倒する場面もあるが、空気が入った球体に包まれているため、負傷する心配はなさそうだ。すぐに体験した競技の名を覚えて、「走ったり転んだりが楽しい」と満面の笑みを浮かべていた。

同校の生徒245人が参加したのは、昨年末に日本コカや日本オリンピック委員会(JOC)などが開催した「オリンピックムーブス」と呼ぶスポーツイベントの一環。この催しではバブルサッカーを含む5種目が実施されたが、いずれも一風変わった競技だ。

例えば、「イモムシラグビー」はイモムシの衣装を着て、転がりながらボールを奪い合う。「ベビーバスケットボール」は強い衝撃を与えると赤ちゃんの泣き声の音が発生する特殊なボールを使い、そのボールが「泣かないように」優しくパスしながら、バスケット(かご)に収める。これらは運動が苦手な生徒でも気軽に参加できるのが特徴。あえて「ゆるい」雰囲気を醸し出している。

「ベビーバスケットボール」は優しくボールを扱うのがコツ

■ハードル下げて「運動嫌い」取り込む

日本コカは「中学生のスポーツへの向き合い方が二極化している」(マーケティング本部の渡辺和史部長)ことに着目した。運動部の活動に熱心な生徒がいる一方で、ほとんどスポーツをしない生徒も少なくない。運動が苦手な生徒にもハードルの低い競技を通じて体を動かす楽しさを知ってもらう狙いもある。

もちろん、消費者である中学生にブランドを浸透させたいという企業の思惑もある。この日も運動して汗をかいた生徒に自社製品を配り、飲んでもらうことも忘れない。バブルサッカーで使う自社のロゴ入り用具は中学校に寄贈しており、後日、授業や放課後などに生徒がバブルサッカーを楽しむ機会があれば、コカ・コーラのことを思い出すこともあるだろう。

ただ、このプログラムには、もっと大きなメッセージが込められている。カリル・ヨウンス副社長は「イベントを通じて運動量を向上させてもらい、東京五輪への期待感につなげる」と説明する。さらに「20年以降も長期的にレガシー(遺産)として継承する」と強調することも忘れない。一過性のイベントという位置づけではない。本気で「ゆるい」スポーツを中学生に浸透させて、将来のスポーツ人口の増加を目指す。

運動用具をキット化してスポンサーが提供

準備は着々と進む。昨年度のオリンピックムーブス実施校は福島と東京の計2校だったが、今年度は都内の10~12校に広げる方針だ。開催スケジュールなどを詰め、7月ごろから本格展開する。「バブルサッカーなどで使う特殊な運動用具などをキット化し、中学校の教育プログラムの一環として使えるようにする」(安念剛担当マネージャー)との計画もある。

水泳平泳ぎ金メダリストの北島康介氏を起用して寄付型自販機をPRした

スポーツ庁が昨年11月にまとめた15年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によると、1週間の総運動時間が60分未満の中学生女子は20.9%を占めていた。男子は7.1%で、女子よりは低いが、ほとんど運動をしない生徒が少なからず存在する。スポーツをする人の割合は、一般に10代前半が最も高く、年齢が上がるのに伴い、低下する。やはり、大人になってから突然スポーツを始める人は少数派であり、10代前半の中学時代の過ごし方が重要なのだ。

運動嫌いだった中学生がスポーツに親しむようになり、やがてハイレベルなスポーツの祭典である五輪にも関心を抱くようになる――。一見、回りくどいようだが、この流れが定着していけば、教育現場から五輪への共感を広げる大きなムーブメントになりそうだ。その先には、日本の若者が広くスポーツに親しみ、大人になっても健康増進について強い意識を持つようになるというシナリオも描ける。

■ドリンク購入で「選手強化資金サポート」自販機

もっと直接的に五輪を資金面でサポートする仕組みもある。五輪に出場する選手の競技力強化のためにJOCに寄付が集まる支援策だ。日本コカは今年1月、自動販売機で同社の清涼飲料水を購入すると、購入金額の一部(数円程度)がJOCに寄付される選手強化支援プログラムを始めた。

「支援自販機」の1号機は東京都渋谷区にある東京体育館に設置された。お披露目のセレモニーで、ティム・ブレット社長は「ワールドワイドパートナーとしての新たな歴史の一ページだ」と誇らしげだ。

これは今年のリオデジャネイロ大会だけでなく、冬季の平昌大会、そして20年の東京大会も見据えたプログラムだ。ボトリング会社のコカ・コーライーストジャパンは「20年までに全国で3000台の自販機を設置する」(井上豊常務執行役員)との目標を掲げており、東京以外でも石川県加賀市にある橋立自然公園など設置場所は広がりつつある。単に寄付金が集まるだけでなく、JOCは「大勢の声援によってアスリートが背中を押される」という精神面の効果も期待している。

オリパラのスポンサー企業に新しく決まったエンブレムを入れた寄付型自販機を設置してもらうことにも力を入れている。みずほフィナンシャルグループなど7社に導入される見通しだ。

スポンサー企業の社員がオフィスや社員食堂などに設置した寄付型自販機から清涼飲料水を購入し、のどを潤すたびに、日本代表選手団のことを想起する効果が考えられる。これも一種のムーブメント。自販機を新規に設置してもらうことで商機拡大を狙えるという利点もある。

■「商機生かす」リオでノウハウ吸収

8月のリオ五輪まで3カ月弱。日本コカはリオ五輪に照準を定めた国内の販促キャンペーンも準備している。米コカ・コーラは、聖火ランナーを選ぶ権利を持っているランクの高い協賛企業。4年後の東京大会に向けて、どのようにブラジルの現地法人が聖火リレーをマーケティングに活用しているのかを視察する予定もある。

五輪の過度の商業化には批判もあるが、JOCと企業に「ウィン・ウィン」の関係がなければ大規模なスポーツイベントも成立しないのも事実。協賛企業の最前線では、早くも暑い夏が到来しているようだ。

(山根 昭)