「卵焼き器」を実践比較 「文句なし」の銅製

日経トレンディネット

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合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏が卵焼き器を徹底比較します。店頭にはさまざまな材質の卵焼き器が並んでいるけれど、どうやって選べばいいのでしょうか。今回は7種類の材質の卵焼き器で実際に卵焼きを作って検証しました。好みの焼き具合と食感にこだわると、選ぶべき卵焼き器が見えてくるかもしれません。
合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏。今回は卵焼き器を徹底比較した

こんにちは! 飯田結太です。爽やかな季節になりました。お弁当を持ってハイキングなどに出かけたいですね。外で食べるお弁当っておいしいですよね。そうしたときに欠かせないのが卵焼きです。

卵焼きは「ザ・家庭料理」と呼ばれるほど一般的なものですが、プロにとって一番難しい料理ともいわれているんです。なぜかというと、火加減や熱の伝わり方の差でまるで味が違うものになってしまうからです。そこで大切なのが、道具選びです。

卵焼き専用のフライパン「卵焼き器」を知っていますか? 卵焼き器の形には、正方形の関東型、縦長長方形の関西型、そして、横長長方形の名古屋型の3つの形があります。

関東で卵焼きといえば、少し甘みのある厚焼き卵。江戸前寿司で見かけるのがそれです。じっくりと焼き色をつけて仕上げるのが王道といわれ、たっぷりと卵を使って1回ひっくり返して2分の1の幅に折って仕上げるために正方形のほうがやりやすいからとか、寿司に使う板海苔と同じサイズに仕上げるために正方形になったなど、いくつかの説があります。

一方、関西型はなぜ長方形かというと、関西はだしの文化。卵焼きもだしがたっぷり入っただし巻き卵が一般的です。卵液も関東に比べてゆるくサラサラしているため、何度もひっくり返して仕上げていきます。それには長方形が作りやすいからなのだとか。現在、家庭で最も多く使われているのがこの関西型卵焼き器です。

では名古屋型は? 関東と関西では、パタンパタンと折り畳んで作り上げますが、名古屋ではヘラを使って巻いていくのだそうです。クルクルと巻くには横長のほうがつくりやすいことが理由だとか。でも、残念ながら名古屋型は最近、ほとんど見かけなくなりました。

縦長長方形の関西型卵焼き器(左)と、フタを使ってひっくり返しながらじっくり焼き上げる正方形の関東型卵焼き器(右)

材質の違いで卵焼きのでき上がりも変わってくる!

卵は、少しの熱を加えただけで固まる食材です。焼き色もすぐについてしまいます。だから、卵焼きを作るときは、火が当たっているところと当たっていないところの温度差ができるだけ少ないことが、ふっくらとキレイに仕上げるための重要なポイントになります。つまり、熱の伝わり方にムラがあると“味ブレ”の原因にもなるんです。

普通のフライパンと同じように、卵焼き器もさまざまな材質のものがあります。それぞれ特徴が違うので、選ぶときに気をつけたいですね。

ゆっくりじっくり熱が伝わる鋳物

鋳物で代表的なものは南部鉄ですね。表面にざらつきがあるため、食材の接触面が少なく、鉄製のものに比べて食材がこびりつきにくい特徴があります。鉄は熱をしっかり蓄えて均一に広げていくので熱ムラもおきにくいのです。ただし、熱がゆっくり伝わっていくということは食材に熱を通すには時間がかかるということ。長い時間をかけて熱を通していくので外側が硬い卵焼きができ上がります。また鋳物はとても重いので取り扱いも注意が必要ですね。

岩手県の南部鉄メーカー、「及源」の卵焼き器 3000円(飯田屋店頭価格、関西型170×135mm、厚み2.3mm)。IH使用可能

フライパンとしては優秀な鉄製、卵焼きはやや硬め

鉄製は、フライパンとしてはひとつは持ちたい、長く愛用できる万能選手です。鋳物よりも熱は速く伝わりますが、やはりこびりつきやすいので、卵焼きのときは油の量を多めにしたほうがいいでしょう。熱の伝わり方が速いといってもアルミニウムや銅に比べると遅いので、やはり外側が硬めの卵焼きになりやすいものです。

リバーライト卵焼き器3600円(飯田屋店頭価格、関西型184×134mm)錆びにくい鉄「チッカ鉄」を使用した人気のシリーズ。IH使用可能

使いやすくて人気、だけど火加減が難しいステンレス製

ステンレス製といっても、内側はフッ素加工されているものが一般的。食材がこびりつきにくくて洗いやすいことから人気が高いですね。鉄製のようにさびないこと、そしてIHヒーターで使えることも人気の理由です。しかし、卵焼き器に使われている素材の中でも熱の伝わり方が極めて悪いのがステンレスです。先に中心にだけ熱が回ってしまい、中心だけが焦げてしまったりするので火加減は特に注意が必要です。

MEYERスターシェフエッグパン4280円(飯田屋店頭価格、関西型188×140mm)

IH対応、丈夫なセラミック製

今回選んだ卵焼きの中で表面が一番ツルツルしているのがこのセラミックです。セラミックは丈夫で長持ち、手軽に使えるのですが、熱の伝わり方は良くないんです。だからこれは、アルミニウムにセラミック塗装を施し、さらに底に鉄板を打ちつけてIHヒーターにも対応できるようになっています。ただし、ガスコンロの場合、直火のため、底部分とサイドとの熱の伝わり方に差が生じてしまい、多めの卵液で調理すると、均一に焼き上げるのは難しいかもしれません。

グリーンパン5124円(飯田屋店頭価格、189×147mm)

熱が伝わりにくいセラミック製やステンレス製は、IHに対応させたり、熱の伝導率を高めるために、底部分に別の材質が貼り付けてある場合があります。しかし、底全体に貼り付けているか、中心だけに貼り付けてあるかで、熱の伝わり方はまるで違ってきます。これらの材質でIH対応のフライパン類を選ぶときは、底の部分をチェックしましょう。

左側は中心だけ鉄板を貼り付けたもの。右は底全体に鉄板を貼り付けたもの。右のほうが断然、熱の伝わり方がいい

プロが一番に選ぶ銅製

熱のムラが味ブレにつながるということをお伝えしました。それが起こりにくい材料が、熱伝導のいい銅製なのです。だからプロは銅製を一番に選びます。

銅製の卵焼き器には2種類あります。ひとつは、外側が銅で、内側に錫(すず)を貼ってあるもの。昭和の時代、銅のさび=緑青は有毒とされていました。厚生労働省では、銅製品は緑青を抑えるために錫などでコーティングすることを定めていたのです。しかし、その後数年にわたる実験を経て、昭和59年に緑青は無害だと公表されました。以来、錫を貼り付ける必要はなくなったのですが、当時の名残なのでしょうか。銅製の卵焼き器は内側に錫が貼ってあるものが今も広く知られています。プロもこれを使用している人が多いですね。

銅(内側に錫コーティング加工)卵焼き器2980円(飯田屋店頭価格、166×120mm)。今もプロ仕様として人気がある

じつは錫は熱伝導が悪い材質です。法律で定められていたのであえて錫をコーティングした卵焼き器しかなかったのですが、現在はすべて銅でできている卵焼き器もあります。写真の銅製卵焼き器は、ある日プロの料理人が店に来て、「銅だけの卵焼き器はないの?」といわれ、ぜひ取り寄せてほしいというリクエストがあって店に置くようになったもの。今ではとても珍しいものとなってしまったようですね。プロが作るような本当においしい卵焼きを作りたいのなら、銅だけでできた卵焼き器を使うに限ると、私は思います。

銅製卵焼き器3740円(飯田屋店頭価格、166×120mm)

銅は、使用前にまず油をなじませる必要があります。使うほどに銅の部分が黒ずんできますが、性能に変わりはないのでご安心を。また、酸や塩素に弱いので、料理を長時間入れたままにしておくと、味や色が変化することもあります。特に卵焼きにトマトなどの食材を混ぜる場合は調理が済んだら早めに別の容器に移すようにしましょう。

銅製のものは基本的に水洗いはしないほうがいいでしょう。布などで拭くだけでOK。また、緑青が発生したら方法は3つ。歯磨き粉、レモン汁、またはウスターソースなどを柔らかい布につけてキュッキュッと磨くときれいにとれます。

お手ごろ、優秀なアルミニウム製

銅製は手入れに気をつけなくてはならないし、黒ずんでしまうのが気になるという人は、アルミニウム製がおすすめです。銅の次に熱伝導がいいのがアルミニウムです。油も鉄製や銅製に比べて少なめの量で済むのもうれしいですね。

センレンシリーズの卵焼き器3600円(飯田屋店頭価格、関西型202×137mm)、フッ素加工の最上級ランク、テフロンプラチナプラス6つ星。軽くて手軽においしい卵焼きが作れるすぐれもの

卵焼きを作って検証、調理中から違いに大きな差

今回は、関西型の卵焼き器でどれだけふっくらとした卵焼きができるかを検証しました! 検証の条件は、卵1個を使用し、卵焼き器に油をひいてから約30秒間熱して、卵液を投入。焼きあがるまでの時間、焼きムラ、ふっくら加減を比べました。

油をひいてから火をつけて予熱約30秒
その後に卵液を投入して焼いていった

1.ステンレス製MEYERスターシェフエッグパン

30秒の予熱ではジュワッという音がしませんでした。ステンレス製はやはり熱が伝わりにくいようですね。卵焼きの表面が固まってきて焼きあがるまでに時間がかかったので卵焼きが乾いてしまいました。

・焼きムラ: なし キレイな黄色の仕上がり
・味: 表面がパサパサ
・完成までにかかった時間: 2分12秒
焼きムラはなかったが味はパサパサになってしまった

2.アルミニウム製 センレン

卵液を入れたときにジュワっという音はしませんでした。ステンレス製よりも1分ほど早く完成。少し焦げ目がつきましたが、中までまんべんなく火が通ったようで、ふっくらさもわずかながらありました。

・焼きムラ: 少し焦げ目あり
・味: ほんのりふっくら
・完成までにかかった時間: 1分28秒
火がまんべんなく通ったらしくステンレス製よりもふっくら仕上がった

3.セラミック製 グリーンパン

ジューという音はなし。焼き上がりは早いのですが、ふっくらさはなく、ペチャっとしたでき上がりになりました。

・焼きムラ: なし
・味: ぺちゃっとして食感はよくない
・完成までにかかった時間: 1分05秒
キレイな色に出来上がったのだが、予想以上に残念な仕上がりになってしまった

4.鉄製 リバーライト

予熱後に卵液を投入した瞬間にジュワーっという音がして、すぐにグツグツと卵が躍りだしました。多少焦げ目がつきましたが、ふっくらさはなし。

・焼きムラ: 少し焦げ目あり
・味: 焦げ目があるにもかかわらず、中は半熟状態。外がカリ、中はジュワジュワという感じ。熱が均一に入っていないので味にもブレがでた
・完成までにかかった時間: 1分10秒
焦げ目があるのに中は半熟状態だった

5.鋳物 南部鉄 及源

底板の厚みが2.3mmもあり、圧倒的な厚さのため、熱の伝わり方がとても遅いのですが、熱がゆっくりと入っていくので、しっとりと焼きあがりました。これは油慣らしをしっかりやらないとすぐに焦げ付きます。

・焼きムラ: あり
・味: ふっくらというよりもしっとりした食感
・完成までにかかった時間: 1分20秒
しっかり焦げ目がついて、しっとりとした食感

6.銅+錫

卵液を入れた瞬間、シュワーという大きな音。20秒ぐらいでフツフツと卵の表面に気泡ができ始めました。焼き色がムラなくキレイでふっくらとした仕上がりに。

・焼きムラ: ムラなくキレイな焼き色
・味: ふっくらとした食感
・完成までにかかった時間: 1分05秒
熱の伝わりが早く、卵に熱とともに空気が程よく入ってふっくらと仕上がった

7.銅

ジュワーという音とともに外側からすぐにフツフツと気泡が現れ始めました。焼き色もきれいでふっくら。味わってみるとフワフワで卵の甘さも感じられ、文句なしのおいしさでした。

・焼きムラ: なし。キレイに焼き色がついた
・味: ふわふわで卵特有の甘さも感じる
・完成までにかかった時間: 56秒
ふわふわな食感でおいしく焼きあがった

卵焼き器が熱い状態になってから卵を入れると、卵が空気を含んでふっくらと焼きあがることが分かりました。銅製は熱の伝わりが早かったのですが、一方でステンレスは熱がなかなか回らずに予熱時間30秒ではムリがあったようです。卵焼き器が熱くならないうちに卵液を入れるとべたっとした仕上がりになるので注意が必要ですね。

奥左から、ステンレス、アルミニウム、セラミック、鉄、手前左から銅+錫製、銅製、鋳物で焼き上げた卵焼き

材質によってまるで違うでき上がりになったのは予想以上。ふわふわで軽い卵焼きなら銅製、しっとりとした卵焼きが好みなら鉄製が合っているかもしれません。自分の好みのでき上がりになるにはどの材質が適しているのかが分かると、料理の腕も一気に上達しそうですね。卵焼きを極めてみませんか?(談)

(ライター 広瀬敬代、写真 菊池くらげ)

[日経トレンディネット 2016年4月19日付の記事を再構成]

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