長期の資産運用は分散で手堅く 株・債券、国内外で

ここは某経済大学院のゼミナール。筧花子教授の指導のもと、経歴が様々なゼミ生が個人の資産形成や家計設計に役立つ知識を学んでいきます。最初のテーマは「長期投資で資産づくり」です。まず宗羽士郎君が発表します。
筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 岡根知恵(おかね・ちえ、38)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。

  どうしてこのテーマを選んだの?

 宗羽 日本人の寿命が延びているのに公的年金は昔ほど頼りになりません。資産運用で老後に備えることは、僕ら全員にとって大事だと思いました。

  先祖代々の大富豪で、家の門から建物まで車で2時間かかる私にはピンと来ないけどね。

 宗羽 先生のギャグ好きは知っていますが、発表を始めたばかりなのでちょっと控えてください。

  ……。

 宗羽 まずは世界の株式に幅広く長期投資した場合の成績をみてみます。1985年以降、円ベースで約7.3倍に増えています。長期投資がこんなに有効だなんて知りませんでした。

 岡根 なぜ長期だと株は上がりやすいのですか。

 宗羽 ええと……。

  「投資とは何か」に関わる本質的な質問ね。例えば企業が成長のために工場を新設するとき、足りない分のお金を誰かに出してもらおうとする。お金を出す代わりに株式を受け取り、企業の持ち主の1人になるのが株式投資。経営者も従業員も一生懸命に働いて、企業の価値を増やそうとします。でも工場ができて商品を作り、それが世の中に広く知られて利益の増加に結び付くようになるには時間がかかるでしょ?

 宗羽 なるほど。企業が成長して株式の価値が高まるには時間がかかる。だから投資は長期でのぞむというわけですね。

 岡根 でも長期投資なら必ず利益がでるわけではないですよね。日経平均株価は1989年末の最高値3万8915円に比べて、今は半値以下です。

  グラフは配当の積み上がりも含めた成績だから半値より高いけど、世界株には大きく見劣りするわね。宗羽君、どうして日本と世界でこんなに差がついたと思う?

 宗羽 80年代後半の日本株は収益力に比べて株価が高過ぎ、その修正に長い時間がかかったからだと思います。90年代後半から物価がデフレ基調になったことも影響したのではないでしょうか。

  確かにデフレは商品の値段が下がるから、企業は利益を上げづらくなるものね。ではこれからも日本株はだめかしら。

 宗羽 逆だと思います。日本株の割高さはすでに解消されています。日銀は物価上昇率を2%にする政策を引き続き実行中です。日本にはロボットなど海外より優れた技術も多いですし、企業経営の在り方を株主重視に切り替えようという動きも進んでいます。個人的には今後は日本株に絞るのもいいかと。

 岡根 強気ですね。

 宗羽 もともと何かを「当てに行く」のが好きな家系なんです。

  その通りになるかもしれないし、ならないかもしれない。特定の資産が他の資産より上がるか下がるかを当てるのはプロでも困難というのが、実は資産運用の世界で常識なの。

 宗羽 やっぱり日本に期待したいなあ。今は原油安で物価上昇率が低迷していますが、いずれ上昇に転じるのでは。株はインフレに強い資産といわれます。

  どんなインフレかにもよるの。日本の景気拡大に伴って物価も上がるなら日本企業の利益も伸びる可能性があるから株価にプラスになりやすい。でも例えば原油や鉄鉱石など輸入原料の急騰で起きるインフレなら逆にコスト増で利益が減るかもしれない。

 岡根 世界全体に幅広く投資すれば、そんな場合も海外の石油株や鉱山株が上がって、日本株の損失を補うことができるかもしれないというわけですね。

  もちろん投資のスタイルは様々だから、特定の銘柄や資産に集中する選択肢があるわ。これは予想通りになったときの利益は大きいけど、外れたときの損失も大きい。例えば老後資金など長期の資産形成には向いていません。働き続ければ給料が上がり年金も十分にもらえる時代なら、運用で損失を抱えてもカバーできる場合がありました。でも企業の人事・給与は年功序列が崩れているし、公的年金の支給は抑える方向が強まっています。

 宗羽 いまは大まかに男性の4人に1人、女性の2人に1人が90歳代まで生きるので、運用で資産を増やさないと老後資金が不足しかねないですよね。

  専門知識のない普通の人が長い老後に向けて確実性の高い運用をするには、長期投資に資産分散という考え方を組み合わせることが大切なの。いまは一本で世界全体の株式に投資できる低コストの投信が多く出ているわ。

 岡根 ところでグラフでは債券指数も長期で上昇しています。

 宗羽 債券は満期まで保有すれば投資元本が戻るだけでなく、それまで定期的に利子を受け取れます。債券を発行する企業や国は長期でみると成長することが多いので、債券投資も一定の成果を出してきました。

  債券の上昇率は株に劣るけど、値動きは安定しているのが特徴ね。だから株と債券をどう組み合わせるかで値動きの目標を調整できるわ。これは今後のゼミで発表があるはずね。

FXなど短期、適さず
I―Oウェルス・アドバイザーズ社長 岡本和久さん
事業に必要な資金を出す代わりに株や債券をもらい、長期的な価値の上昇の恩恵を受けたり、利子を得たりするのが投資。事業が成長すればお金を出した人全員が利益を得られる可能性があります。一方、外国為替証拠金(FX)取引や金などのコモディティー投資は、長期でもそれ自体の価値が高まる性質を持っていません。株や債券の短期取引も、企業は短期間では成長しないので全員がもうかる結果にはなりません。だから資産を増やすのが難しいのです。
個人のFX取引はさらに増えていると聞きますが、長期の資産形成に適していません。分散先として外貨建て資産を持つのは大切ですが、FXよりも世界の株式全体に投資するインデックス(指数連動)型の投資信託が有力な選択肢になります。長期で世界の成長の恩恵を受けることができます。(聞き手は編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2016年5月14日付]

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