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「任せることで、チームの力をボトムアップ」 
ユニクロのグローバルマーケティングと商品マーケティングを担う2児の母。
子育てしながら、海外店舗のオープンから新商品までを手がける日々。
仕事も家庭も「任せる」「手を借りる」でチーム力をアップして乗り切ります。
「LifeWear(ライフウエア)」を通じて社会に新しい価値を提案することがモチベーションの源!

――グローバルコミュニケーションも、新しいブラトップも考える

ユニクロで、日本およびグローバルのマーケティングを担当しています。複数いるリーダーを統括する立場として、コミュニケーションプランを考えながら、与えられたバジェットの中でどこにお金を投下するか、どういうチームでプロジェクトに臨むかなどを考えています。

それと並行して、商品マーケティングも担当。ユニクロでは、マネジメント職になってもそれぞれが担当商品を持つのが通例です。会社のなりわいが小売業である以上、お客様と向き合う感覚を忘れてはいけないと考えています。私はブラトップなどウィメンズインナーやニットウエアを担当しています。

――つくっているのは、ファッションではなく「LifeWear」

ブラトップは胸パッドを内蔵したウエアで、女性の生活をより快適にしたいという思いから生まれた商品。携わるようになって約5年になります。

ユニクロの服づくりはファッションではなく「LifeWear」。ふだんの生活に新しい価値を提供する「LifeWear」をつくることを目指しています。ブラトップは、私たちの代表的な商品の一つで、着けていても楽、動きやすい、といった理由から、終日外回りの日や長時間の飛行機移動がある日などに活用いただくことも多いようです。

これまではブラジャーしかなかった女性のインナーの世界に、シーンに応じて「ブラか、ブラトップか」という新しい選択肢をもたらしたことはとてもうれしいです。仕事は、こうして社会の役に立っていると思えることが大切。私が働き続ける大きなモチベーションになっていますね。

――ターニングポイントは社会人15年目の38歳

私はユニクロが2社目です。アパレルブランドで約8年、PRの仕事をし、32歳でユニクロのPR職へ。2年後に管理職になりました。転機が訪れたのは6年目。社会人として15年目を迎えた38歳の時です。商品マーケティングの部署へ異動したことでした。

PRでは「第三者にいかに自社商品の魅力を伝えるか」が仕事でしたが、マーケティングでは「伝えるもとをつくり出していく」ことが仕事。考え方、向き合い方、すべてを変えなければならない大きな変革でした。

――仕事に頭打ち感はあるも、いまは子育て中……

実は、この異動は自分から積極的に希望したものではありませんでした。PRの仕事が好きでしたし、ずっと自分に向いていると思っていました。その一方で、PRの世界で階段をひとしきり上がってしまったような、自分を切り売りし続けてきたような、頭打ち感があったのも事実。そろそろ踊り場から抜け出して、新しいステップを上がり始めたいとは思っていました。

ただ当時、1人目の子供がまだ3歳だったこともあり、自分からは次の門戸をたたけませんでしたね。

――目の前のチャンスはつかんでいこう!

そんな時に、ユニクロとファッションデザイナーのジル・サンダーがコラボレーションしたライン「+J(プラスジェイ)」がデビューすることになり、立ち上げから商品マーケティングを担当してほしいとの話をもらったのです。私の前職でのアパレル経験やPRで培った知識も生かせるやりがいのある仕事。迷いました。

決め手は、「数年後の自分がどうなっていたいか」でした。5~10年後、PRのプロになっていたいのか、それともマーケティングの世界でビジネス全体を見渡すようになっていたいのか。答えは後者でした。もっと自社のビジネスの根幹に近いところで仕事をしたいという思いが勝り、目の前に現れたチャンスはつかんでいこう! と覚悟を決めました。

――2回目の産休・育休が、いい小休止に

そしていざ異動してみたら、すごく大変で(笑)。やりがいある仕事は苦しさも伴うものですね。コミュニケーションには英語が欠かせませんし、これまで社内で完結していたことも一つひとつ海外との調整が必要に。ビッグプロジェクトゆえ、社内にも関係部署が多く交渉ごとがいっぱい……。

今となれば、すべていい思い出ですが、本当に大変でしたね。なんとか「+J」もデビューを迎え、2シーズン見届けた後、2人目の産休・育休に入りました。この産休入りの時、正直ホッとした気持ちがあったことを覚えています(苦笑)。いい小休止になりました。

――産休明け、バンコクの新店準備を遠隔操作で乗り切った

出産後約8カ月で育休から復帰し、今度はタイ・バンコクの新店オープンを担当しました。しかし、現実には赤ん坊に母乳をあげなければいけません。海外出張はできないことを理解してもらい、一度も現地入りすることなく、遠隔操作で海外店舗の準備を敢行。海外店舗のオープンを担当するのは私にとっては初めてのことでした。

上司や現地スタッフ、代理店など多くのチームメンバーに支えてもらい、約3カ月後には、無事に開店。私はオープン日にも立ち会えませんでしたが、周囲の協力のおかげで大成功を収めることができました。

――あえて現場に行かない。決定役を任せることでチーム力をアップ

いま私が仕事するうえで大切にしているのは、自分でやる仕事と任せる仕事を見極めること。「代わりをお願いする」のではなく「任せる」こと。仕事はチームプレーです。私ひとりが力をつけるよりも、チームの力をボトムアップしたほうが圧倒的に大きなパワーになります。

例えば、担当商品の撮影の現場には足を運んで見届けたい。でも、私が行ってしまえば現場での決定権はどうしても私になってしまう。だから、あえて行かない。現場で決定する仕事を任せる。それが大事です。

事前の準備やコンセンサスをしっかり取っておかねばならず時間も労力もかかりますが、こうしてひとつずつ具体的に任せることが、やがてチームの力になっていきます。

――朝は夫、夜は私。子育てシフトスタイル

わが家では、ただいま小学生と保育園児の2人を子育て中。夫も私も同じように子育てや家事をします。私は7時から16時が定時なので、朝6時には家を出てしまいます。私は子供たちを起こすだけで、あとは夫が朝食を作り保育園へも送っていきます。そして、夕方は私がお迎えに行き18時半頃には夕飯です。

そんなバトンタッチを繰り返すのがわが家の子育て。自宅の伝言ボードや夫とのメールは、いつも業務連絡でいっぱいです(笑)。夫とはいわば運命共同体ですね。

――借りられる手は借りる、任せることは任せる

私たちは平日に週1回、お迎えから夕飯までをシッターさんにお任せし、土曜にはシルバー人材センターの方に掃除や片付けなどの家事サポートをしてもらっています。

シッターさんにお願いする夜、私は鍼灸(しんきゅう)院に行ったり、飲みに出かけたり、心身のメンテナンスに充てています。自分のために使える時間があるというのは大切です。週末もサポートがあるおかげで、子どもの野球の応援にみんなで出かけたり、家族でゆっくり過ごせたりできています。シッターさんたちにはもう8、9年もお世話になっているので、まるで親戚のようです(笑)。

「借りられる手は借りる」「任せることは任せる」で、仕事も子育ても自分の人生も、楽しく続けていければいいと思っています。

伊藤なつきさん(いとう・なつき)
株式会社ユニクロ 商品マーケティング&コミュニケーションチーム 統括リーダー
神奈川県生まれ。1995年からアパレルメーカーに勤務。2003年、株式会社ユニクロに入社しPRに従事する。05年リーダー。09年から商品マーケティングを担当。現在、グローバルマーケティング部 商品マーケティング&コミュニケーションチーム 統括リーダー。2児の母。

●取材後記

これからの季節、女性にとってうれしい存在のブラトップ。シンプルながら毎シーズン重ねられる改良に驚きます。「商品の先にある女性たちの暮らしに目を凝らせば、やるべき細かいアップデートはまだまだあります。全女性のマストハブにしたいですね」とさらなる市場拡大に目を輝かせる伊藤さん。

取材時に伊藤さんが持ってきてくれたのは、何本ものペン。「私の小さなリフレッシュツールです。サインペンを使ったり万年筆を使ったり、手にする道具が変わるだけでも気分がリセットされます」。こうした小さな感情の動き、快・不快をキャッチする細やかな目線と感覚が、一歩ずつ商品の質を高めていく力なのかもしれませんね。

伊藤さんの働くモチベーションにもなっている「LifeWear」という視点でユニクロを見渡せるページ http://lifewear.uniqlo.com/jp/

[2016年5月12日公開のクラブニッキィの記事を再構成]

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