部下から飲み会に誘われる上司になるには?生産性を高めるコミュニケーション術(3)

新井 健一 経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役

新井 健一 経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役

人事コンサルティングで数多くの実績を上げた人事のプロ、新井健一氏の著書『いらない課長、すごい課長』(日経プレミアシリーズ)から、プロ課長のコミュニケーション術を紹介するシリーズ。3回目はプライベートな飲み会にも誘われる上司になる技術とスタンスを考察する。

◆◆飲みニケーションがこれからの職場では弊害になりかねない理由

なぜユーモアのセンスが必要なのだろうか。これからの職場には共通の利害を前提としない多様な人材が集うのだ。とすれば、ますます繊細な気遣いやコミュニケーションで互いを理解する必要がある。

だが、これまで職場のまとまり感を高める手段として用いられてきた飲みニケーションはもう通用しないであろう。むしろ飲み会の多い職場は嫌がられるかもしれない。

なぜなら女性が育児と職場、2つの意味で活躍するためには、パートナーの全面的な協力が必要不可欠だからだ。そうなると、日々職場内で定時退社しなければならないメンバーが必ず出てくることになる。それに今どきの若者も日本的な、強制力を伴う飲みニケーションを嫌がる。職場で感じるプレッシャーの延長線上にあるような飲み会には参加したくない。

では、これからの日本企業の職場は、欧米企業の職場のように上司とも同僚とも飲みに行かない、そんな風になるのだろうか。それも考えづらい。

やはり自分の仕事や生活の悩み、苦労について話す相手が欲しいのだ。

その時、誰に相談するか?

日本人はまだまだ横並び意識が強いため、物事を判断したり決定したりする際に年齢や性別、所得、生活環境など自分と似た他者の意見を聞きたがる。このように状況が曖昧な時、人は自分と似た他者の態度や行動を正しいと考えてしまう、その心理的傾向を「社会的証明」という。

日本企業のサラリーマンが自分と似た他者を見つけるのは簡単だ。彼らは職場にいるのだから。

◆◆「プライベートな飲み会に誘ってもいい課長」こそ目指すべきスタンス

だがこれからは、これまでとは少し事情が異なる。

職場という企業が設計した組織の単位を似た者同士とするのではなく、各人がより任意かつ自由に自分と似た他者を社内に探し求めることになる。これからの企業におけるダイバーシティ・マネジメントは、組織という枠を外して、公私ともに同じ課題に直面している者同士をつなぐ役割も求められるだろう。

人事部もこれまでのように、組織や人事制度の設計に適った階層別研修や職種別研修を社員に提供するだけでは不十分となる。

さて、このように環境が変化する中で、オフィシャルな職場のトップである課長はどんなスタンスで臨めばよいだろうか。これは筆者からの提案であるが、課という単位を離れても、メンバーから飲み会に呼んでもらえるような存在を目指してはどうだろうか。

そのためにユーモアのセンスが必要なのだ。これはなにも、お笑い芸人のような面白い人を目指そうということではない。社員におやじギャグを連発しようと言っているわけでもない。

一緒にいて、少なくとも重荷にならない人をまずは目指してはいかがだろうか、ということなのだ。それでなくとも課長はポジションパワーを持っているので、メンバーにとっては気を遣う存在なのである。そのハードルを乗り越えて、メンバーからプライベートな飲み会に呼んでもらうにはそれなりの工夫が必要だ。

ちなみに、「緑の血」課長はどうであったか?

もちろん、ユーモアのセンスを期待することはできなかったが、プライベートな飲み会にも誘いやすかった。課長が私的な場に職場の強制力を持ち込むことは、皆無だったからである。それに、メンバーから飲み会に誘ってもらうことを喜んでいた。

◆◆部下からの信頼感を高める「傾聴」の技術

まずはメンバーの話をよく聴き、それから上司は「君はどう思うんだい?」と質問する―評価者研修や部下の育成研修、もしくはコーチング研修でこんなことを習った読者もいるかと思う。

ちょうど2000年頃だろうか、コーチングというコミュニケーション技法を日本に広めるべく専門の団体が立ち上がりはじめたのは。その後、心理カウンセリングの技法もビジネスシーンに取り入れられるようになった。

どちらも「傾聴」を基本とする技法であるが、この傾聴というものが実に難しい。

傾聴とは、相手の話を受容・共感する態度で、真摯に耳を傾ける行為や技法のことを指す。筆者も業務開発の一環として約7カ月間、土日を使って心理カウンセリングの技法を学んだことがあったが、相手を判断するような枠組みを外して、ただ聴けと何度も言われて相当に苦労した。

自分の中に相手を判断するような、どんな枠組みがあるかも分からなかったからである。ある時講師が、傾聴している状態とは一体どういう状態かということをズバリ教えてくれた。

まず相手(クライアント)とカウンセラーが相対して、椅子に座る。それから、カウンセラーの後ろにクライアントの顔が見える状態で、もう一人の人間が別の椅子に座る。そしてクライアントが話すすべての言葉を、つぶやき程度の声で復唱するのだ。

傾聴とは、クライアントの語る言葉を細大漏らさずにつぶやき返すことと同様なのだ、と講師は言った。もし機会があったら読者も試してみてほしい。筆者もこのワークを体験して、いかに聴くという行為が難しく、疲れるものか、そして傾聴とは日常生活で聞くという行為とはまったく異なる、確かな技術なのだということを知った。

このように、習得するには相応の訓練を必要とする傾聴であるが、身につける意義は大きいと筆者は考える。

リーダーがメンバーの話を傾聴しようとする姿勢は、職場内に安心感を生むし、リーダーに自分の気持ちを聴いてもらえたという感覚は信頼感を醸成するからだ。

ちなみに傾聴のちょっとしたコツは、これから「傾聴に入ります」という合図を相手に送ることである。それは相手に、「その件について、君の話をじっくり聞かせてほしい」と言葉で合図を送るか、または姿勢を正すというやり方もある。知人の心理カウンセラーは会話の中で傾聴が必要だと感じると、それまで正対の位置にいたのを少しだけずらして(スピリチュアリスト江原啓之氏の座り方。見方によればおネエ座りのように見える姿勢で)座り直していた。

このように同じ合図を相手に送っていると、相手もそれに応えるようになり、より内省が深まるのだ。そして、その傾聴に効果的な質問の技法を付け加えることで、相手の内発的・自発的な気づき、答えにたどり着くのを手助けするのがコーチングであるといえる。

ちなみに、未熟なコーチは選手の好調または不調の原因を探り当てて指摘しようとするが、熟達したコーチは選手が好調の時にやっていたこと、そして今やっていることを確認し、選手が自分で自身のコンディションや必要な練習に気づけるように促す。

この事例からもお分かりいただけるとおり、良いコーチとは指導者ではない、支援者なのである。

◆◆コーチングが有効なのは、「心が健康でやる気のある部下」に対してのみ

またこのコーチング、時として人材育成の万能薬であるかのように語られるが(特に実施団体は自らのサービスをイチオシするものであるが)、そんなことはない。主に2つの視点、1つはメンバーのモチベーションの視点、そしてもう一つは部下の成熟度の視点から留意すべき事柄を指摘することができる。

まずはモチベーションの視点であるが、コーチングは「心が健康で仕事に対するモチベーションも一定レベル以上にあるメンバー」に対しては有効なので用いてもよいが、「心が不健康で仕事に対するモチベーションも一定レベル以下に落ちてしまったメンバー」に対しては用いてはいけない。

メンタルヘルス不全など、心の健康が阻害されてしまったメンバーにコーチングを用いることは、うつ病患者に「がんばれ」と声をかけるようなものなのである。心が不健康なメンバーには、カウンセリングの技法を用いることが妥当であろう。

リーダーがとにかく真摯に聴くことに努めれば、メンバーは胸のうちにたまっているものを吐き出すことができ、心のゆとりや冷静さを取り戻すことができる。また物事を客観的に見られるようにもなり、置かれた状況や抱える問題を打開する手立てにも意識が向くようになる。

ちなみに胸のうちを吐露してすっきりすることを、カタルシス(浄化)効果という。筆者もカウンセリング技法を学んでいる間、多くのクライアントがカタルシスに至り、顔色や表情がみるみるうちに好ましい方向に変わったり、時には胸のつかえが取れて涙を流しはじめたりするのを見た。そのくらい聴くというスキルには力がある。

だが、リーダーがいくら聴くスキルを身につけたとしても、職場で心の不調を訴えるメンバーを独りで抱え込み、対処しようとはしないほうがよいだろう。人事部やその方面の専門家と連携して事に当たるべきである。

[新井健一「いらない課長、すごい課長」(日経プレミアシリーズ)から転載]

新井健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。
1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー、アーサーアンダーセン(現KPMG)、同ビジネススクール責任者、医療・IT系ベンチャー企業役員を経て独立。大企業向けの人事コンサルティングから起業支援までコンサルティング・セミナーを展開。

いらない課長、すごい課長 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 新井 健一
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
出世ナビ記事アーカイブ一覧