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日本の企業統治(コーポレートガバナンス)で社外取締役の存在感が増している。最近のセブン&アイ・ホールディングスや東芝の社長人事では、社外取締役の意向が事実上の決定力となった。社外取締役によるトップ育成で先行するのが、オムロンだ。同社社外取締役を務める冨山和彦氏(経営共創基盤・最高経営責任者=CEO)は「10年かけて次の社長を準備している」と話す。冨山氏にオムロンにおける「社長のつくり方」を聞いた。

 ――オムロンは社外取締役が中心となって次期社長を選ぶとのことですが、どのような仕組みなのですか。

オムロン社外取締役の冨山和彦氏(経営共創基盤CEO)

オムロン社外取締役の冨山和彦氏(経営共創基盤CEO)

「当社は日本企業に一般的な『監査役会設置会社』で、正式な社長選任の権限は取締役会にある。ただ2006年、取締役会の下に任意の『社長指名諮問委員会』を設け、社長選びに特化して、定期的に議論を重ねている。諮問委のメンバーは5人。過半数の3人を社外取締役が占めており、設置以来、私が委員長を務めている」

「ちなみに諮問委メンバーには現社長である山田義仁さんは入っていない。したがってオムロンでは、社長選びは社外取締役が主導しているといえる。もちろん選抜のプログラムは山田さんら(社内の人たち)と相談して決めている」

 ――社長選びにかける期間は。具体的な選抜方法はどのようなものですか。

「社長選抜には、およそ10年かけるイメージだ。山田社長の就任は2011年6月だったから、あと5年ぐらい。ここまでの5年は、リーダーに必要な条件を決め、世界中のオムロンの社員の中から約30人の(第1次)候補者を選び、その人たちには意識的にタフ・アサインメント(厳しい課題)を与えてきた。評価の結果、毎年、候補者を入れ替え、人数を絞ってきた。現在の候補者は20人くらいになっている。もちろん候補者本人には何も知らせていない」

社長の意見は反映せず

 「前回の山田社長の選抜の経験を踏まえると、社長交代の半年前くらいには3人に絞るイメージだ。もっとも今後も入れ替えを続けるから、現在の20人の中から選ばれるとは限らない。1人に絞るのは、交代の直前だろう。これは社長指名諮問委が専権でやる。山田社長の意見は反映されない」

 ――最後の1人を選ぶ時の判断基準はどのようなものになりそうですか。

「前回、当時40歳代の山田さんを選んだ時の基準は、『オムロンがこれから10年、どんな時代を勝ち抜かなければいけないか、その時代にどういう人が社長にふさわしいか』というものだった。まず事業のグローバル化。社長は世界中を飛び回らなければならないことが予想され、若さ・体力が求められた」

「また成長が見込め、同時に難しい問題が発生しがちな新興国でのタフな経験も重要だった。お行儀のよい、米国とか欧州の経験ではなくてね(笑)。この点、山田さんはロシアで実績をあげた人なので明確にクリアしていた。彼は(制御機器が主流のオムロンでは)傍流であるヘルスケア部門出身だったが、そのことはまったく問題にならなかった」

オムロン社長の山田義仁氏

オムロン社長の山田義仁氏

社長選抜の基準は変わる

「次回の社長選抜でも同じ基準になるかどうかは分からない。それは、実際に選ぶ時の日本経済やオムロンの置かれた経営環境によって決まるからだ」

 ――ただ、オムロンの社長指名諮問委は任意の組織です。社長や取締役会が独断で、諮問委の決定と異なる次期社長を指名することも可能では。

「法制度上は可能だ。ただ、コーポレートガバナンス(企業統治)というのは、法制度に加えて、慣習も重要な要素になる。諮問委の選択が事実上の最終決定になるかどうかは、まさに先例の積み重ねにかかってくる。英国や米国のルールが慣習法によって機能しているのと同じだ。その点、オムロンには諮問委が選んだ山田さんが社長に就任した実績がある。だからオムロンでは諮問委の意思決定が取締役会で覆ることは、まず考えられない。もし、そんな動きがあれば、取締役会で『社長解任動議』が出される事態になってしまうかもしれない(笑)」

 ――そもそもオムロンは、立石一真氏というカリスマ創業者が戦後に工場向けオートメーション装置で基礎を築いた企業で、2003年まで一貫して創業家経営でした。なぜ、「社外」に社長育成を委ねたのでしょうか。

「2003年に創業家以外から初の社長に就任した作田久男氏によると、次期社長を誰にすべきか考え始めたとき、創業家とは縁もゆかりもない人間が社長として全社員を引っ張っていくには、フェアでオープンな選び方が必要になると判断したという。社内の話し合いだけで選ぼうとすると、言わずもがな的に進むことになり、プロセスの公平性を省いてしまいがちだと考えた。そこで他の役員の賛同を得て、社長指名諮問委を設けた」

企業統治の中核は社長選抜にあり

「オムロンは社長指名諮問委より先に、社長以外の役員らを選抜する人事諮問委員会を2000年に、役員の報酬基準を決める報酬諮問委員会を03年に設けた。いずれも社外取締役が中心の諮問委だ。結局、ガバナンスの中核は『最高権力の継承=次期社長選び』をどうするか、ということに尽きる」

「企業、特に統治機関である取締役会は常に社長候補の育成に努め、いつ現社長に異変があっても新社長を指名できるよう備えておかねばならない。ちなみにオムロンの社長指名諮問委は、現社長が不慮の事故に遭った危機に備え、次期社長とは別に、臨時社長候補も選んでいる」

「そもそも様々な株主によって保有される上場企業においては、サラリーマン社長は業務執行機関にすぎない。いかにカリスマだったとしても、後継者を専権的に選ぶことがあってはならない。それができてしまっていた従来の日本の会社は、次期社長の選抜というガバナンス最大のテーマについて手を抜きがちだった、と思う」

(編集委員 渋谷高弘)

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