「主人の稼ぎを毎月無駄に使っている自分が情けなくて……」と家計改善を目的に相談に来られたのは、都内在住のパート主婦Mさん(35)。家計簿を見ると、毎月の赤字が15万円にもなっています。赤字家計に転じたきっかけは数年前に夫が減収になったこと。支出を減らそうと思っても今日まで生活水準を変えられず、貯蓄はボーナスの残りのみです。
Mさんの家計の問題は、まず住居費(月15万8000円)にあります。夫婦合算で35万円ほどの収入のうち、4割以上を占めているのです。住居費の中にはマンション管理費、ほとんど使わない車を置いてある駐車場代が含まれます。
家族は会社員の夫(38)と小学校2年生の娘の3人暮らし。家族構成を考えると、食費も月6万7000円はかかりすぎです。赤字なのに学資保険の保険料を払い続けていますし、教育費5万2000円というのもかけすぎだと感じます。お子さんは公立小学校で学校への支払いは給食費5000円のみ。その他は民間学童保育や塾・習い事代です。
「減収になって大変」と言いつつも、その減った収入に生活を合わせようとしません。しかも生活費が足りないからと、カードキャッシングや親からの借り入れでしのぎ、その返済も毎月の負担を増やしています。毎月の支出は合計50万3000円に達していました。大変まずい状況だといえます。
これから収入が増える見込みはないし、いつまでも親やカードローンに頼るわけにはいきません。自分たちの収入でやりくりできるようにしなくてはいけないのです。そこで、削れる支出を考えてみました。
まずは、住宅ローンを組んでいる銀行に金利を下げてほしいと交渉する案が出ました。しかし、行動に移せないまま半年が過ぎました。せめて、ほとんど乗らない車を手放し、車の維持費と駐車場代を削減してはどうかと提案しましたが、「レジャーのときに必要だし、やはりあった方がよい」とMさん。
通信費は簡単に節約できる格安スマホに切り替えることを勧めましたが「これまでと同じように使えるのか不安」と動こうとしません。学資保険や金の積み立ては、この赤字の状況でも続ける必要があるのかと聞くと、「いまさらやめるなんてもったいない」と言います。
住居費や保険料など、金額が比較的大きい固定費部分についてはなかなか変えようとしませんでしたが、食費・水道光熱費については積極的に楽しそうに節約に取り組みました。食費は食材の使い方の見直しと、買い物へ行く回数の削減が効果を生み、水道光熱費は無駄のない使い方を意識することで節約できました。
いくらかはすぐに支出の削減ができましたが、赤字をなくすには到底足りません。半年が経過してもあまり大きな変化はないのに、Mさんには危機感がないようでした。
貯蓄もないうえに毎月10万円以上の赤字の家計で、積極的に支出削減をしようともしない。これからどう生活を維持するつもりなのかと尋ねると「今あるボーナスの残りから補填して、どうしても不足したらキャッシング枠を使えば次のボーナスまで何とかなる」と。半年たってもこのような回答しか得られず、我々の伝えてきたことが何も届いていなかったのだと痛感しました。
言葉で理解しにくいのであれば体感してもらうしかないと思い、住宅ローンの金利の交渉をするようしつこく促し、実行してもらいました。すると、それだけで毎月2万3000円もの削減効果がありMさんは喜びました。
スマートフォンも何度も背中を押し、ようやく格安スマホへ切り替えたところ月7000円支出が減りました。子どもの習い事も納得の上、一つやめました。支出が減ると「やればできる」とうれしそうなのですが、相変わらず赤字の状態で家計は改善できません。
そうこうしているうちに、久しぶりに乗った車が故障し、タイヤ交換・整備のために新たなローン(月2万4000円)を組んでしまいました。今までの努力が水の泡です。
収入だけで生活できず、改善策を考えるために通っている私たちに様々にあれこれ言われて悔しくはないのかと疑問に思います。おそらく、悔しさがあればもっと早く、もっと懸命に変わろうとしたのではないでしょうか。
「今のままではいけない、変わりたい」と思い立つことは大切です。でも、そのきっかけを生かすも殺すも、自分がどのように考えて行動するかにかかっています。「もっとよくなりたい」「あと少しできっと良くなる」という思いは、できなかったときの悔しさにつながります。その分、より良い方向へ向かうバネになるのです。
変わるのに時間がかかり、少々変わっても新たな問題を生み出すMさんは、お金に対する正常な感覚をゆっくり養っていく必要があります。「できなくて悔しい」と感じられることを目標に、これからも引き続き家計管理の訓練が続きます。いつか、こんなに変わったとご報告ができるといいなと思っています。
