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相続トラブル百科

相続トラブルは「百科」 絡み合う3つの要素 司法書士 川原田慶太

2016/5/13

 「相続トラブル」という言葉で、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。すぐに浮かびそうなのは、ドラマなどでよく出てくる「親族間でのドロドロの遺産争い」のイメージかもしれません。あるいは、身近な人がトラブルに巻き込まれたり、話を見聞きしたりして、生々しいエピソードを知っているという人もいるでしょう。

 本コラムでも、数多くのトラブルを題材にしてきました。そのなかでも、やはりウエートが大きかったものの一つは「家族」をキーワードにしたものだったと思います。

 残された家族が、お互いの本音や感情を前面に出してきたとき、遺産分けはとたんに難しくなります。長い間に蓄積したコミュニケーションのゆがみや、特定の遺産に対する強い思い入れなどは、当人以外はなかなか「見える化」できません。「このままでは気持ちがおさまらない」「あいつの思い通りにだけはさせない」といった感情は、理屈だけでは解決できません。数字に表すことが難しい、このような要素がトラブルの呼び水となってしまうのです。

 もう一つ、相続トラブルを語るうえで避けて通れないのが「お金」のテーマです。こちらは「感情」というよりも「勘定」の問題です。遺産をどのようにもらうべきかという話も取り上げましたが、トラブルを避けるために「どのようにもらうべきではないか」という逆の観点からの話も取り上げてきました。

 お金は誰でも日常的に使うもので、しかも明確に数値化できるためにシンプルなような気がしますが、実はそこに落とし穴があります。相続という特殊な局面では、お金についてのルールが大きく変わることも起こりえます。当事者が亡くなって「あげた」「もらった」などの境目が不透明になっているとき、予想外のトラブルが発生しやすくなるのです。

 お金のルールというテーマに関連するものとしては、相続税などに代表される「法律や制度」の話についても、折に触れてお届けしてきました。とりわけ2015年が相続税増税のスタートだったこともあり、大きな関心が集まっていたように思います。

 「相続税対策」を巡るトラブルについても何度もとりあげてきました。好ましいとはいえない手法を急ぐあまり、かえって損をする、争いの種をまいてしまう……といった事例です。本当に「対策」になっているのか、落ち着いて検討することが必要なケースも世の中には少なくありません。

 このように、「家族」という数字にできないものと、「お金」という数値化された価値と、「法律や制度」という複雑なルールと――。これら3つの要素が、すべて組み合わさって進んでいくのが相続といえるでしょう。

 そのパターンは膨大な数にのぼり、しかも故人の遺産のひとつひとつに、この組み合わせを当てはめていくことになります。まさに「百科」といえ、あらゆる方向から予測もしないトラブルが起こるのも無理はありません。

 でも「家族」「お金」「法律や制度」といった項目の、どれか一つでもよいので辛抱強く取り組み、少しでもコントロールできるようになれば、トラブルの可能性はその分だけ減っていくのは確かです。

 先人の言葉に「精神一到何事か成らざらん」とある通り、集中して取り組むことで困難に思えたことも解決に向かうことがあります。手をつけやすいところからでも構わないので、日々の意識を「家族」「お金」「法律や制度」などに少しずつでも向けていくことが、相続トラブル回避のための第一歩になるでしょう。

 本コラムはこれで最終回となりますが、読者の方々と編集部の方々に支えられ、5年にわたる執筆を無事に終えることができました。本来は前半15回と後半15回、半年間の予定だった連載でしたが、おかげさまで後半戦をその10倍以上もの回数にわたって続けられたのは、本当に幸せな境遇だったと思います。あらためてお礼を述べさせていただくとともに、またいつかどこかでお目にかかることができれば幸いです。

川原田慶太(かわらだ・けいた) 2001年3月に京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験に合格し、02年10月「かわらだ司法書士事務所」を開設。05年5月から「司法書士法人おおさか法務事務所」代表社員。司法書士・宅地建物取引主任者として資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数務める。

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