実録ドラマがブーム O・J・シンプソン事件を映像化
『glee/グリー』などのヒットメーカー、ライアン・マーフィーが『アメリカン・ホラー・ストーリー』に続いてケーブル局FXで手がける『American Crime Story』が話題です。2016年2月に始まった本作は、1シーズンごとに違う、実際に起きた事件を描くアンソロジー形式。シーズン1は、94年に起きた殺人の容疑で逮捕されたO・J・シンプソン事件を描いた実録ドラマです。
元プロフットボール選手で俳優として有名だったアフリカ系アメリカ人のシンプソン。ロサンゼルスにある元妻ニコール・ブラウンの自宅でニコールと友人男性の惨殺死体が発見され、シカゴにいたシンプソンは戻った途端に逮捕されます。数々の証拠は彼が犯人であることを示しており動機もあるとされた一方で、有名人のセレブを弁護するスター弁護士を筆頭にドリームチームが結成され、孤軍奮闘といった検察と、争点を人種問題に持ち込む弁護団の攻防戦にメディアと民衆は熱狂。事件の経過は逐一報道され、全米ばかりか世界中の注目を集めました。
新事実の発覚も話題に
テレビシリーズでは事実を忠実に再現すると同時に、シンプソンを演じるオスカー俳優キューバ・グッディング・Jr.、スター弁護士役のジョン・トラボルタ、シンプソンの友人役のデヴィッド・シュワイマー、対する検察のエース役のサラ・ポールソンら実力派による人間模様が非常に魅力的で、視聴者をぐいぐいと引き込みます。また、車で逃走するシンプソンを警察が追うカーチェイスを、メディアがヘリを飛ばして中継するシーンなどスケール感もあって迫力満点。当時を知る視聴者だけでなく、玉虫色の決着を見た本件を聞いたことがある程度の若者層にもウケは抜群です。
近年、ドキュメンタリーの分野で未解決の連続殺人事件を扱った『The Jinx』(HBO)や、誤捜査が疑われるケース『MAKING A MURDERER 殺人者への道』(ネットフリックス)といったシリーズがヒットを飛ばしています。この2作は放送中に新事実が発覚したり、世論を動かすなど物議を醸しました。『American Crime Story』もまた、2016年3月になって「凶器のナイフが発見された」というニュースが飛び込んできて話題沸騰中です。"事実は小説よりも奇なり"の実録ドラマは、ドキュメンタリーと同じく、今なお謎が残るグレーゾーンがポイント。新たなトレンドとなりそうです。
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今月のオススメドラマ
『12モンキーズ』
名作SF映画を基にドラマ化したサスペンス
1995年に公開された、ブルース・ウィリス&ブラッド・ピット共演の同名SF映画に基づくテレビシリーズ。2043年、謎のウイルスによる伝染病によって99%の人類が死滅した近未来。タイムマシンを使って過去を変えて惨劇を防ごうとする生き残った人々の奮闘と、ウイルスの謎をめぐる陰謀を描くサスペンスドラマ。
メインキャラクターの名前や物語の大筋は映画とほぼ同じだが、現在、過去、未来と時間軸をスピーディーに行き来する物語は、現代風にアレンジされておりスリリング。エピソードが進むごとにオリジナル色は強くなっており、映画を見ていなくても楽しめる作りとなっている。一方で、映画では物議を醸した謎の数々や、描かれなかった未来や過去の描写は、映画ファンにとっても興味深いものがある。
企画(脚本)は、『TERRA NOVA/テラノバ』などを手がけたヒットメーカーたち。出演は、『NIKITA/ニキータ』のアーロン・スタンフォード、『SUITS/スーツ』のアマンダ・シュル、映画『コズモポリス』のエミリー・ハンプシャーほか。米サイファイチャンネルで15年1月より放送スタート。16年4月18日よりシーズン2が放送されている。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)
[日経エンタテインメント! 2016年5月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
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