オフの私もプロ級 全力投球の女性たち、原動力は

2016/5/14
仕事はしっかりこなし、オフタイムでも活躍する二刀流の女性たちがいる。共通するのはオンもオフも全力投球すること。何が原動力となっているのか。

仕事は楽しいし、やりがいもある。でももう一つの自分の世界を持てたら生活に張りが生まれるかもしれない。そう考え、オフタイムを充実させようとする人も多いのではないか。

一方で、趣味の範囲を超え仕事に劣らぬくらいオフタイムの活動に打ち込む女性が出始めた。「仕事と音楽、両方を行き来することで最大限に自分の表現ができる」とパナソニック役員でジャズピアニストの小川理子さんは言う。オンとオフそれぞれを突き詰めれば忙しさは増すが、得られる喜びも倍増するという。

オンとオフのバランスの取り方は個人で異なるものだ。だが、仕事も私生活もともにハードにこなし、両者を調和させながら相乗効果を生み出している姿からは、ワークライフバランスの目指すところが浮かび上がる。

ジャズピアニスト、小川理子さん(パナソニック役員)

これまでに14枚のCDを発売(2015年9月、ベルリンでの演奏)=CHLietzmann

パナソニックの役員、小川理子さん(53)は高級音響機器ブランド「テクニクス」事業を率いる。同社生え抜きでは唯一の女性役員であり、プロのジャズピアニストでもある。

3歳でクラシックピアノを始め、慶応義塾大学在学中にジャズバンドを組んだ。専攻は生体電子工学。生体のリズムと音楽のリズムの関係に興味を持った。1986年、松下電器産業(現パナソニック)に入社。「面白い研究をしている」と引かれていた音響研究所に配属された。6時半に出社して夜中まで働く日々。ピアノに触れる時間はなかった。

「テクニクス」復活の陣頭指揮をとる

演奏を再開したのは関わっていたプロジェクトが解散した後、30歳になってからだ。ジャズドラマーの上司らに誘われてトリオを組んだ。以来、ライブ活動を続け、これまでに14枚のCDを発表している。

2014年から「テクニクス」復活の指揮を執る。伝統のブランド再興に携われるとは「夢にも思っていなかった」。新機器の発表が世に出るまでの数カ月間は多忙を極め、めまぐるしかった。コンサートでプロのオーケストラと共演した後、そのまま会社に戻って仕事の続きに取り組む。「しんどかったけど、人間、やればできる」で明るく笑い飛ばす。

多忙な生活で仕事と演奏活動を両立させるコツは「一つのことに集中すること」だ。ライブの本番前は朝5時に起床してピアノに触れ、夜中は無音にして練習する。「修業のよう」と苦笑するが、「うまく弾けると苦労が吹き飛ぶ」。

いい音出したい、根っこは同じ

「自分の軸は音楽が好きということ。機器で良い音をつくることと、演奏で良い音を奏でることの根っこは同じ」。米国のミュージシャンと話した時、「ずっと弾き続けろ」と励まされた。「音楽を辞めようと思ったことは一度もない」。100歳まで弾くのが目標だ。

演劇活動、吉野桜子さん(人気ビール店開設)

舞台に立つ吉野さん(中央)

東京・代官山にあるレストラン「スプリングバレーブルワリー東京」。キリンビールが昨春開いたクラフトビールの醸造所を併設した店舗だ。バラエティーに富んだビールを楽しめ、客足が絶えることはない。

人気の店舗の仕掛け人の一人、吉野桜子さん(33)は同社の子会社、スプリングバレーブルワリーのマーケティングマネージャーだ。日々、ブランド戦略を引っ張る一方、20年近く続けてきた演劇活動にも精を出す。

年に1回は劇場で新作を上演。脚本、演出、出演もこなす。劇団を旗揚げしたのは中学2年の時。同級生を誘って始めた。中高一貫の女子中高に通った経験を基にした「女子校あるある」などのコミカルなネタが多い。

脚本も企画も 新しい物語を

「次のシナリオを考えるのと商品のコンセプトを考えるのは全く同じ」。ストーリー性を追求するところが両者には共通する。

管理職として日々、ブランド戦略を引っ張る(東京都渋谷区のスプリングバレーブルーワリー東京)

スプリングバレーブルワリーの企画を通す時も演劇の経験が後押しした。キリンビールのビール開発部門にいた頃、ベテランの先輩男性社員と「ビールを選ぶ楽しさを打ち出したい」とコンセプトを練り、2012年春に磯崎功典社長に直談判。「並のプランでは聞いてもらえない」と紙芝居仕立てにし、シナリオを作り込んで、「次の時代のビール文化のコンセプトをつくる」というテーマを訴えた。狙いが伝わるようにシンプルに、分かりやすく、わくわくするような店舗のイメージを語り、「どうせやるならすごい事をやってくれ」とゴーサインが出た。

「ワークもライフの一部」。仕事も演劇も楽しいから、オンとオフの切り替えは意識しない。「休みの日に仕事のことを考えることもあれば、平日の夜に芝居のことを考えることもある」。どちらも貪欲に取り組む人生を楽しんでいる。

ボクシング世界王座、池山直さん(岡山市職員)

6月に4度目の防衛戦を控え、スパーリングに余念がない(京都市中京区)

京都市にあるボクシングジム「フュチュール」。4月の週末、小柄な女性がリング上で汗まみれになりながら何度もパンチを繰り出していた。

練習していたのは世界ボクシング機構(WBO)女子アトム級王座、池山直さん(46)。6月に4度目の防衛戦を控え、スパーリングにも余念がない。

世界チャンピオンの池山さんのもう一つの顔は岡山市役所の職員。今年で入庁28年目。岡山県内の福祉事務所に勤務し、副主査の役職に就く。

「ボクシングは命懸けです」と言葉に力を込める。顔や眼球に傷を負うことも多い競技を始めたのは15年前、31歳のとき。退庁後に運動したいという軽い動機だったが、練習を重ねるうちに魅力にとりつかれた。

岡山県内の福祉事務所に勤務し、副主査の役職も果たす

平日は午後10時ごろまでジムで汗を流した。少しずつ実力が付き、2003年、「自分がどこまでやれるか試したい」と日本ボクシングコミッション(JBC)のプロテストを受けて合格した。

09年と10年に日本と韓国で計2回、世界王座を目指して挑んだ試合に相次いで敗れた。「もう辞めよう」。試合出場は遠のいた。

それでも、ジムで毎日練習だけは続けた。ボクシングがそれだけ好きだったからだ。周囲の支えもあり、13年に現役に復帰。翌14年、男女を通じて国内最年長となる44歳で世界王座を獲得した。

話よく聞く姿勢、強さにつながる

福祉事務所では地域の人々の暮らしの悩みに直面する機会が多い。心掛けているのは「人の話をよく聞く」こと。競技生活で仲間やトレーナーの助言にしっかり耳を傾けることで蓄えた力が試合で生かされることと共通する。

両立の秘訣は「ジムに足を踏み入れたら仕事は忘れる」こと。メリハリをつけ、全力で集中する。防衛が途絶えたらプロは引退するかもしれない。ただこれだけは決めている。「ボクシングは続ける」

(関優子、野岡香里那)