財産は「法定相続分」の通りにもらえるとは限らない税理士 内藤 克

2016/6/3

ぼくらのリアル相続

「内藤先生。最近うちの父が亡くなって、母と我々子供が相続することになったんですが、『法定相続分』とかで母は遺産の2分の1をもらえるんですよね?」
 「はい、Bさんの家の例ではそうなります。でも、妻が常に2分の1とは限りませんよ。それどころか、法定相続分に従って簡単に分けられることは少ないんです」
 「えっ、『法定』って言うのに!?」

 というわけで、今回はこの辺の誤解を解いてみましょう。

法定相続分とは遺産分割に際して、民法で定められている「各相続人が取得する割合の目安」です。通常、遺言がない場合はこの割合により分割しますが、この割合には「だれが被相続人の世話をしたか」とか「誰が事業をサポートしたか」といったことが全く反映されていません。従って「では、法定相続分どおりに分けましょう」と簡単にはいかないケースが多いのです。相続人全員が納得すればこの割合を無視しても構いませんし、逆に法定相続分で分割しようとしても、全員が納得しなければ成立しないのです。

親の面倒をみると上乗せ分があるが…

法定相続分は家族構成によって異なります。配偶者と子供2人のいわゆる「標準世帯」の場合は、配偶者が2分の1、子供1人がそれぞれ4分の1ずつとなりますが、必ずしも配偶者が2分の1とは限りません。例えば子供がいない家族の場合は配偶者に加え、血族相続人が第2順位となり、相続人は「配偶者+亡くなった人の親」ということになります。この場合は配偶者が3分の2、両親が6分の1ずつ(親が1人の場合は3分の1)になるのです。

さらに、両親ともすでに亡くなっている場合は血族相続人は第3順位となり、「配偶者+亡くなった人の兄弟」が相続します。この場合は配偶者が4分の3とほとんどを受け継ぎ、残りの4分の1を兄弟で均等に分けることになります。

親が亡くなって相続が発生した場合に、親の面倒をみていた家族とそうでない家族とでは「財産形成に対する貢献度合い」が異なるため、単純に法定相続分で割り切るわけにはいきません。このため民法では「寄与相続分」といって被相続人の財産形成に寄与した相続人に対しては、相続財産の上乗せ分を認めています。しかし、単に親の看護をしていたとか身の回りの世話をしていただけでは認められません。財産形成に寄与していなければならないのです。親の事業拡大に貢献した場合などはいいのですが、親の財産を取り崩しながら身をすり減らして介護をしても、寄与分は認められないのです。この辺は一般生活者の感覚と食い違う部分かもしれません。

生前贈与(特別受益額)で兄弟がもめる

「特別受益額」とは、生前に被相続人から贈与を受けていた場合の贈与額などをいいます。民法の考えでは、相続開始時の財産にこの相続人全員への特別受益額を加算したもの(贈与しないで蓄えていたとした場合の相続財産)を基にして分割協議を行うことになっています。そのため生前にさんざん親のスネをかじった相続人がいた場合、相続時に「今回は遠慮してください」ということになります。

兄弟間でもめるのは、ほとんどがこの特別受益額です。「オレは借家住まいなのに兄貴は自宅の頭金をお父さんに出してもらったじゃないか!」という弟に、「じゃあ、お前が離婚するときに親に慰謝料を出してもらったのを忘れたと言うのか?」と反論する兄。こんな具合で果てしなきバトルが始まるのです。

相続税の計算でも「生前贈与加算」といって、相続開始前3年以前の相続人に対する贈与は相続税の対象とすることになっています。税務署も追いかけきれないので3年としているのだと思いますが、贈与税を納付している場合には相続税との二重課税にならないように、相続税の申告時に税額控除できることになっています。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。