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待機老人を出すな 急増する廃業、小規模施設が新機軸 お笑いリハビリ人気、ケア接客士も登場

2016/5/11

大阪の介護エンターテイナー、石田竜生さんが教えるリハビリ講座(大阪市)
待機児童ならぬ待機老人を増やさない――。介護報酬が引き下げられ、経営悪化から廃業する介護施設が急増している。団塊世代が全員、75歳以上になる「2025年問題」が迫る中、このままでは介護施設を利用したいのに順番待ちという事態が深刻になりかねない。待機老人をこれ以上増やさないために、知恵をしぼり、課題に挑む民間施設が出てきた。

「リハビリもお笑いも同じです。大切なのは、つかみですよ」。2日、大阪市天王寺区にある、みらい福祉研究所が開いた介護担当者のためのセミナー会場は終始、和やかな空気が流れていた。講師は「大阪の介護エンターテイナー」と呼ばれる石田竜生さん(32)。吉本興業のお笑い養成学校である吉本総合芸能学院(NSC)の大阪校を8年前に卒業した。

現在はフリーのお笑いタレントとして活動する傍ら、NSCで学んだことを社会で生かそうと作業療法士の資格を取り、介護現場で働いている。この日のセミナーのテーマは「介護現場を笑いでいっぱいにするために」。講座はこの日が3回目で、毎回定員を大きく上回る応募があるほどの人気ぶりだ。

病気やケガからの復帰を目指すリハビリは、患者にとって苦痛を伴うことが多い。つらいリハビリから逃げ、やがて寝たきりになってしまう事例もある。石田さんはリハビリに取り組む患者を、まず笑わせて、楽しい雰囲気をつくるのが大事だと考えている。巧みな話術で和ませ、紙風船や新聞紙などの小道具を使ったプログラムで体を動かしていく。石田さんのリハビリは笑いが絶えず、患者を飽きさせない。

◇   ◇

介護の現場は今、強い危機感を持っている。経営に行き詰まる施設が全国で相次いでいるためだ。介護報酬が昨年1月に引き下げられ、特別養護老人ホームや通所介護施設の利用料は4.48%下がった。一方で人手不足から介護職員の賃上げは続く。規模の小さい通所介護施設は介護保険からの収入の落ち込みや人件費の上昇で、経営難に陥る例が増えている。

一方で団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年問題は着実に近づいている。20年には国民の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上となるといわれている。このまま介護施設が減り続けると、リハビリや介護を受けたくても受けられない待機老人が増えてしまう。

介護現場の危機感は強い(大阪市のみらい福祉研究所の斎藤代表理事(左))

介護保険制度が始まった00年から、地方を中心に規模の小さい通所型の介護施設が続々と誕生した。保険からの確実な収入を見込めるため安易な新規参入が相次いだが、みらい福祉研究所の斎藤喜夫代表理事(47)は「経営の体をなしていない施設も多かった」と指摘する。

斎藤さんは20代のころから介護現場で働いてきたが、「経営者の発想が20年前とまったく変わっていない」と語る。昨年の9年ぶりの介護報酬引き下げに続き、今後も3年ごとの見直しで一段と下がる可能性が高い。介護保険に依存した経営モデルは完全に行き詰まっている。

◇   ◇

ソニー、パナソニック、損害保険ジャパン日本興亜など大手企業が、破綻した通所介護施設などを買収して参入し始めている。だが「どうしても効率重視でサービスは画一的になりがち」と斎藤さんは話す。今後も介護報酬が下がれば、あっさり撤退する企業もでてくるだろう。

状況を改善するためには、小規模の介護施設が経営努力をし、患者が集まる魅力ある施設になることが必要だ。みらい福祉研究所の主催するセミナーは、こうした問題意識を持つ介護関係者の強い関心を集めている。

リハビリにお笑いを取り入れた講座のほか、ミシュランの一つ星を持つフレンチレストランで接客を担当していた菅原義人さん(37)を「ケア接客士」とし、患者を客という視点で捉える講座を開いている。リハビリにおもてなしの感覚を取り入れるという発想が新鮮だと好評価になっている。

大阪市生野区などで7つの介護施設を経営する社会福祉法人、基弘会は、こうしたセミナーに職員を積極的に派遣している。同会の川西収治本部長は「大手企業の施設に勝つこと。そのために中小は職員のプロ意識を高め、介護の質を上げて、患者に訴えかけるしかない」と語る。

サービス付き高齢者向け住宅に住み、通所介護施設を利用する人は多い。基弘会は近隣の商店街と連携し、高齢者が1人で入れるレストランや1人前の総菜だけの売り場を設けるなど地域ぐるみでの介護を模索し始めた。

「いずれはロボットが介護をする時代がくる」「外国人の介護職員が増えればなんとかなる」。こんな楽観的な声はあるが、介護の現場では、2025年問題はすでに始まっている。残された時間は少ない。

(編集委員 鈴木亮)

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