「天使のような婚約者」との悲しい別れ
キャリア女子ラブストーリー ~アラフォーからの恋愛論
こんにちは。ライターの大宮です。東京・西荻窪のアジア料理店「ぷあん」で、大手メーカーの正社員として働いている片桐圭子さん(仮名、43歳)のラブストーリーを聞き取っています(前回記事はこちら)。
圭子さんは23歳から31歳までの7年間あまり、大手経営コンサルティング会社に勤務する7歳年上の男性とお付き合いをしていました。しかし、彼がさらに若い女性と長く浮気をしていたことがわかります。
「機械関係など私ができないことができて、引っ張ってくれるようなカッコいい男性が好きでしたね。でも、私も学習しました。男の人は誠実で優しいことが一番大事です。服装がちょっと変でも、付き合ってから私が全部取り替えることができますから」
もう一つ、圭子さんには譲れない条件があります。誇りと責任感を持って仕事に取り組んでいること。圭子さん自身、どんなに辛いことがあっても仕事を前向きに続けてきた自負があるからです。
「母親の紹介で大手食品会社の研究員さんとお見合いしたことがあります。まだ32歳なのに頭がツルツルで、時代遅れのセカンドバッグを持っていました。でも、外見はどうでもいいんです。初対面の私に対して話すことが、会社と上司の愚痴ばかりだったのが問題でした。そういう男性にはどうしても魅力を感じません。人に紹介を頼むとこういうことになるんだな、と反省しましたね。その後は、いろんなお見合いパーティーに参加するようになりました」
相手や紹介者を恨んだりはせず、自分の「失敗」もちゃんと見つめて反省し、次の行動を恐れない――。圭子さんの大きな長所ですね。会社員としてもきっと優秀なのだと想像できます。
「東京に戻ったら、結婚して一緒に住もうね」
色白美人で気立てもいい圭子さんは、お見合いパーティーで大成果を上げることができました。6歳年上の開業医である竜司さん(仮名)とカップルになったのです。
「タヌキみたいな外見でファッションセンスもおかしな人でした。でも、実家の医院をお父さんと一緒にがんばって経営していて、天使みたいに誠実な人だったので、変な服装も輝いて見えました(笑)。ケンカをしたことは一度もありません。むしろ、お互いが相手のことを気遣いすぎ、遠慮しすぎていた気がします」
その頃、優秀な圭子さんは会社の花形部署に抜てきされました。「失敗してもしなくても何も言われない」ゆるい職場とは異なり、全世界の顧客企業を相手に昼夜を問わず働く環境に放り込まれたのです。圭子さんの会社は首都圏が拠点ではありません。やがて本社に異動になった圭子さんは2年間の地方暮らしを経験しました。
「彼は私を応援してくれて、車で遊びに来てくれたこともあります。私が東京に戻ったら、結婚して一緒に住む話も進んでいました。都内でデートをしながら、『このへんに住もうね』という話をしていたことを覚えています」
ある日、2人を悲劇が襲います。激務を重ねていた竜司さんが急死してしまったのです。圭子さんは竜司さんの両親と面識がなかったため、亡くなったのを知ったときには竜司さんの葬儀は終わっていました。
「本当のことだとはとても思えませんでした。母に頼んで彼の病院に電話をしてもらって確かめたほどです。ショックすぎて涙も出ません。あの頃、地方にある本社にまだ勤務していました。会社とアパートとの間に大きな川が流れていて、橋の上を歩いて通勤している人なんて私のほかには誰もいないんです。飛び込んでしまおうと思い詰めたこともあります。でも、冬だったので水が冷たそうでした。今日はやめておこうと思ってギリギリのところで引き返しました」
圭子さんがそのときに踏みとどまってくれたからこそ、いま僕はおいしい料理とお酒をご一緒できているわけですね。人生には死んで消えてしまいたくなるほど辛い時期もありますが、5年後10年後の自分と周囲の人にプレゼントをする気持ちで生き続けることも必要なのだと思います。生きてさえいれば、またきっと幸せな日々も訪れるからです。
婚約者の竜司さんを亡くしたときから、圭子さんが男性に求める条件がもう一つ増えました。健康であること、です。
「好き嫌いせずに何でも食べられる男性はちょっといいな、と思ったりします。いま、竜司さんに会うことができたら、勝手に死ぬな!と言いたいですね」
竜司さんと死に別れた年に、圭子さんは38歳になりました。続きはまた来週にお届けします。
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フリーライター。1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに就職。1年後に退職、編集プロダクションを経て02年よりフ リーに。著書に『30代未婚男』(共著/NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)など。電子書籍に『僕たちが結婚できない理由』(日経BP社)。読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京もしくは愛知で毎月開催中。
ライター大宮冬洋のホームページ http://omiyatoyo.com/
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