笑いに救われた ケラリーノ・サンドロヴィッチさん
深層心理洗いだし、奇怪な喜劇織りあげる
思いがけない深層心理を洗いだし、奇怪な喜劇を織りあげる。そんな演出手法が年々さえ、今や演劇界の中核的存在に。新作に選んだのはトニー賞受賞の現代アメリカ演劇で、映画にもなった「8月の家族たち」(トレイシー・レッツ作、東京・シアターコクーンで29日まで)。父の失踪を機に集まる三姉妹らの心の闇を描くブラックコメディーだ。
「三姉妹の設定が大好物です。えたいのしれない女性の姿が複雑になるから」
カフカや別役実の不条理なドラマを愛する。稽古場では、セリフを受けたあとのリアクションを丹念に追究していた。
「字面で読むセリフの意味が、ある体の状態や特別な空気の中で百八十度ひっくり返ることがある。そういうところに興味が向かうんです。今度の作者も目線が相当意地悪です」。好みの戯曲を磨いて、麻実れいら女優陣の発火を促す。
笑いにいつも救われた。そう振りかえる人生には、根となる体験があった。
「薬の副作用で幻覚をみていたオヤジの病室で、亡くなる前の晩、うわごとを書きとって残酷なギャグにしていた。20代のころですが、オレは一生こうなんだな、と思い定めた。それがスタート」
ミュージシャンとしても知られ、セリフの音程に敏感。「コピー機の音にも音程がある。それを口で表現できる役者もいればできない者もいる。喜劇はセリフにトーンが出ないと笑えません」
昨年上演の「グッドバイ」(太宰治原作)が複数の賞に輝いた。無頼派作家の道化の精神と今どきの「痛い笑い」が通じ合った。祝意を告げると、テレ屋らしく「特別良かったわけじゃ……」。外国人もどきの名前はむろん虚構だ。
[日本経済新聞夕刊2016年5月9日付]
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