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「トランプ旋風」が巻き起こるなど、世界が注目する11月の米大統領選。どのような手法で米国のトップリーダーは生まれるのか。「コミュニティ・オーガナイジング(CO)」と呼ばれる草の根運動的な手法を駆使し、オバマ氏を黒人初の米大統領に導いたハーバード大学のマーシャル・ガンツ博士の愛弟子、鎌田華乃子氏に大統領選について聞いた。

――共和党のドナルド・トランプ氏(69)が党候補の指名獲得を確実にし、民主党候補の指名が濃厚なヒラリー・クリントン前米国務長官(68)と対決する可能性が高まっています。トランプ氏は数々の問題発言が話題になり、一部メディアから批判されましたが、なぜ快進撃を続けるのでしょうか。

私の見解というよりマーシャル・ガンツ博士とハーリー・ハン博士が分析をしており、お二人の見解が参考になると思います。米大統領選では不利なポジションからスタートしたにも関わらず、トランプ氏には熱烈な支持者がいます。(民主党候補の1人の)バーニー・サンダース氏のキャンペーンも大変盛り上がりました。2人の候補者が積極的な支援者を獲得している背景には、両博士は2人ともストーリーを語っていることが一つ起因していると考えています。

2人は脅威、苦しみ、救済のストーリーを語り、信頼でき、勇気があり、強さのある人物として自分自身を語っています。トランプ氏は自分自身を弱腰の政治家に対して確固たる自分があると紹介し、人々は経済的に不当な扱いを受け、移民やイスラム教徒に脅かされ、外国からの圧力で失業している、と人々がそれまで経験した苦労と脅威を語り、過去の良かった時代を理想化しています。

そして腐敗した政治家が外国のリーダー達から守れなかったと怒りを煽り、脅威から身を守るために「壁」を作ると語ります。支持者は自分達の痛みを分かってくれるリーダーであると感じますが、自分達で問題を解決する力を持つのではなくトランプ氏に救済を依存することになります。

――かつてのオバマ氏とトランプ氏の選挙手法はかなり違うと思いますが。

確かに2人の手法は違います。トランプ氏は草の根の運動はしておらず、メディアで人々が感じている脅威や苦しみを語ることで人々に共感を示し、問題発言をすることで注目を集めて逆に人々の話題に乗ること狙い、知名度と支持率を上げています。オバマ氏はメディアだけでなく、たくさんのボランティアを育て、一人ひとりに投票を呼びかける、という戦略を取りました。お金やコネがない候補者でも一人一人のよびかけが積み重なることで政治家になれる、というのがコミュニティオーガナイジング(CO)を用いた選挙手法の希望だと思います。

――鎌田さんは2012年に渡米し、ハーバード大のケネディ・スクール(行政大学院)でガンツ博士の指導を受けました。オバマ大統領はインターネット戦略を展開する一方で、草の根戦略を駆使して「オバマ旋風」を起こし、、大統領選に勝利したといわれますが、どのような手法だったのでしょうか。

鎌田華乃子さん

鎌田華乃子さん

07~08年の大統領選の時、ガンツ博士はアドバイザーとしてオバマ陣営に参加していました。知名度と資金力で劣るオバマ氏を当選させるには、普段は投票に行かない若者、黒人やヒスパニック層が投票することで勝算があがると考え、ボランティアのコミュニティ・オーガナイザーをたくさん育成し、人々の関係性を生かして投票を一人ひとりに呼びかける運動を行いました。

例えば、オーガナイザーは地域に入るとまず、1対1のミーティングを何度も行い、地域のリーダーを見出します、そして「ハウスミーティング」という、自宅に友人を10~15人招いて運動について語り、ボランティアをリクルートする会を開いてくれる人を探します。ハウスミーティングに来てくれた人の中から次のホストを探して次のハウスミーティングを行うということを繰り返しボランティアを増やして行きました。サウスカロライナでは約400のハウスミーティングを行い、呼びかけを行う人を1万5000人リクルートし、育てたのです。

――ガンツ博士の提唱する「スノーフレーク・リーダーシップ」というのはどのようなやり方をするのですか

よくありがちな組織の形は、「ドット・リーダーシップ」というものです。1人のやる気、責任感、決定力、推進力はものすごい。でも、その人の周りにいる人たちは、どう感じるでしょうか。自分も力になっていると感じるでしょうか。必要だと思えるでしょうか。そして中心となる人がいなくなったらその活動はどうなるでしょうか。

みんながリーダー、という形もあると思います。個性もスキルも豊かな人がいるのに、みんなで同じ方向を向いていない、そういったチームは目標を達成できるでしょうか。一体感が生まれるでしょうか。持続する活動でしょうか。

前述の代替となるのがスノーフレーク・リーダーシップです。スノーフレークとは雪の結晶のこと。共通の問題解決に向けて相互の強みを発揮することができるものです。リーダーシップは1人に委ねられるのではないが、責任の所存ははっきりしている。お互いの成功がプロジェクトの成功につながる状態です。成功した社会運動ではこのスノーフレーク・リーダーシップが実現されています。

――鎌田さんはNPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(東京・港)を立ち上げ、代表理事としてガンツ博士を日本に招へいするなど、このスノーフレーク・リーダーシップを国内に広げようとしています。具体的にどのような分野で実践しているのですか。

 東北地方で活動するNPO、市民組織の方たちが実践をしています。東日本大震災から5年が経過して今、支援が下火になり始めています。ここからは地域の方たちが主体となり問題の解決に取り組んで行かなければなりません。東北地方では震災で出来たコミュニティの分断の修復、子育てに悩む母親同士の支援といった問題解決にCOが実践されています。

熊本でも地震がありましたが、コミュニティオーガナイジングを学んで頂く機会を作って、震災後のより良い地域作り、防災対策に役立つことが出来たらと思っており、少しずつ動いています。今の所はCOを学んで下さった災害支援の団体のための寄附を募っております。

首都圏では、今まで福祉サービスを提供していた社会福祉法人が、住民の方々と共に孤独死や災害時の緊急時にも助け合えるような地域コミュニティの形成に取り組んでいます。また私個人の活動として、女性のエンパワーメント、社会的な立場が尊重されるよう女性自身が声を上げる活動「ちゃぶ台返し女子アクション」という実践をしています。

鎌田華乃子氏(かまた・かのこ)
横浜市出身。11年間の会社勤務を経てハーバード大学ケネディ・スクール(行政大学院)に留学、行政学修士(MPA)課程修了。卒業後、ニューヨークにあるコミュニティ・オーガナイジング(CO)を実践する地域組織で市民参加の様々な形を現場で学び13年に帰国。NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ、http://communityorganizing.jp)を14年1月に立ち上げ、CO普及活動に取り組んでいる。慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員。

(聞き手は代慶達也)

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