中川李枝子さん 働く母と専業母が仲よくする方法

日経DUAL

(写真:鈴木愛子)
(写真:鈴木愛子)
日経DUAL

『ぐりとぐら』をはじめ、児童文学作家として世代を超えて親しまれる童話を多く送り出してきた中川李枝子さん。『いやいやえん』や『ぐりとぐら』(ともに福音館書店)などほとんどの作品は、保育士として保育園で働き、子育てをしながら生み出されたもの。児童文学作家、保育士、妻、母親という様々な顔を持って歩んできた中川さんが、ママやパパ達の悩みに答えます。

Q. 長女が小学1年生になりました。うちの小学校では低学年で1回、高学年で1回PTAの役員をしなければいけないことになっています。先日、平日の午後から全学年の保護者が集まって役員を決める、PTA総会がありました。そこで感じたのが、専業のママと働くママの間にある分厚い壁です。役員がなかなか決まらず、そのうちに仕事の予定があった働くママの1人が会社に戻ると、専業ママたちの冷たい視線が……。専業ママは地域や学校の情報に詳しいですからなんとか仲よくしたいのですが……。何かいい方法はないでしょうか?

働いているかいないかではなく、個人として付き合いたいか

―― 中川さんはお子さんが小学生のとき、PTA活動に参加されたことはありますか。

息子が小学校に入学したとき、強制ではないことを確認した上で、「入るか入らないか考えますから、少々、保留にさせてください」とお願いしました。PTAに強制参加させられるイメージがあるけれど、そもそもPTAって任意で入るものでしょう。

PTAの会長さんがいい方で、地域との交流も深まると、納得して参加しました。できるところは協力するつもりでしたが、特に大変なことはありませんでした。

自分の意志で決めて入ればいいのです。「入らないと子どもが学校で肩身が狭くなる」なんて考えないで、まず自分がどうしたいかを考える。PTAを「自分のため」ととらえ、PTAを介して普段では知り合えない立場の違う女性と交流できて、交友関係が広がるチャンスと考えてもいい。お母さん同士、一生の友人ができる可能性だってありますから。

学校のことは先生に任せる

―― 中川さんもお仕事をされていたから、平日の昼間にあるPTAの会合にはなかなか出席できなかったのでは。

そう多くなかったし、不都合はなかった。仕事を無理して休むこともなかったし、働くお母さんもそうじゃないお母さんも意識もせずお付き合いをしていました。上に立つ会長さんの人柄の影響も大きかったと思います。

そもそも、PTAにそんなに多くの業務ってあるの。過疎地域にある小学校の研究会におうかがいしたときは、PTAが講師の送り迎えを担当していましたが。

―― この人の学校のPTAには「広報」「衛生」「安全」「運営」と大きく4つの仕事があるそうです。「広報」は平日の学校行事を取材して広報誌にまとめる。「衛生」は各家庭でまとめたベルマークを集計して何をもらうか決める。「安全」は地区の夜回りをする、といった仕事があるみたいです。

(写真:鈴木愛子)

忙しいのね。でも私は親がしょっちゅう学校に出入りしたり、教師と親しくなりすぎるのはあまりよくないと思う。校内に一歩入ったら学校の世界。学校は学校として尊重したい。何か理不尽なことが起きれば親も黙っていないけれど、基本は学校のことは先生にお任せしたい。

自分が子どもを預かる立場として保育園にいたときも、任せてもらうと決めて、「父母会」も作らなかった。お母さんたちはお仕事があるから、大事な子どもを任せてくれているわけでしょう。だから、少しでもお母さんの仕事を増やさないようにと園長先生が考えてね。

今回の場合なら、特に「広報」はPTAがやることじゃない。母親も乗り気じゃないなら、広報担当なんて出さなきゃいい(笑)。だって学校行事を広報誌にまとめる作業というと、運動会のレポートとかでしょう。それは親が介入するのではなく、学校側がやるべきことよ。5年生、6年生になれば自分たちでできる。学校行事は学校でやってください、と。

立場の違う他人と自分を比較しない

―― 働くママと専業ママの関係についてはどう思われますか。自分の置かれた立場や状況を中心に物事を判断しがちなので、どうしてもぶつかることはあると思うのですが。

働いていないお母さんは、仕事を持っている人がうらやましくもあるらしい。でも、仕事しているから偉いわけでも、子どもをずっと自分の手元で育てているから偉いわけでもないでしょう。どうして比較して優劣をつけようとするのかしら。

―― 働いている、働いていないで、自分と他人を比較する必要はない、ということですね。

比較するというと、他人の子どもとわが子を比べるのも陥りがちよね。私がお母さんたちにいつも言っていたのはね、「比べたいなら、自分と比べなさい」って。保育園に来ていた子どもたちはみんな、お母さんより上出来、すぐれていた。

―― みんな、ですか。

みんな、です(笑)。

だって、お母さんは相手の男性が自分よりちょっとでもいいところがあるから、結婚したのでしょう。自分より優れたところがあるから、自分にないものを持つから、伴侶に選んだ。自分以下は選ばないから、その2人から生まれた子どもは、絶対にお母さんより優秀なのよ。実際、17年間保育園にいたけれど、お母さんより劣る子は1人もいませんでした(笑)。どの子どもも、お母さんよりちょっといい子、お父さんよりちょっといい子なの。

聞きたい回答からは離れちゃったかしら(笑)。

―― いえ、大切なことだと思います。

ママ友ではなく友だちを作る

とにかくね、気の合わない人、いやな人はどこにでもいる。それが社会だから仕方ない。「働くお母さん、専業のお母さん」とか母親の置かれた環境にこだわらず、気構えず、個人として付き合いたかったら付き合う。いやなら付き合わない。

“ママ友”って言葉、私は好きになれないのよね。“友だち”じゃだめなの? 母親と母親の付き合いである前に、人間同士の付き合いでしょう。

中川李枝子
児童文学作家。札幌に生まれる。東京都世田谷区にあった「みどり保育園」に勤務しながら、創作を始める。1962年に出版された童話『いやいやえん』は、厚生大臣賞などを受賞。1963年に雑誌「母の友」に「たまご」という題名で掲載され、同年末に絵本として刊行された『ぐりとぐら』は、シリーズ化され、累計発行部数は2400万部。主な著書に『かえるのエルタ』『ももいろのきりん』など多数。戦争のため小学校を3回転校した体験をもとに、1971年、教科書向けに執筆した「くじらぐも」は現在も小学校1年生の国語教科書に掲載されている。映画『となりのトトロ』の主題歌「さんぽ」の作詞も手掛けた。

(ライター 平山ゆりの)

[書籍『ママ、もっと自信をもって』を再構成]

[参考]書籍『ママ、もっと自信をもって』は『ぐりとぐら』など、数々の名作を生み出した児童作家・中川李枝子さんが、悩める現代の母たちへ、未知の育児に不安を抱くプレ母たちへ贈る一冊。戦前戦後を経験し、母として、保育士として、児童文学作家として生きた中川さんのしなやかな80年から、女性としていかに生きるかを、見つめなおせます。

ママ、もっと自信をもって

著者 : 中川 李枝子
出版 : 日経BP社
価格 : 1,296円 (税込み)