AI革命で大きく変わる人間社会と若者の働き方エピキュール代表 青木健太郎

私がロンドンに住んでから18年がたちました。欧州から見ていますと、近い将来、日本の20代・30代の若者は「大きなチャンス」と「深刻なピンチ」の双方に直面すると思われます。私自身は還暦が視界に入った“元若者”ですが、短期的には3つの事項に注目しています。(1)欧州の移民・難民問題とテロ、(2)日本の少子高齢化・人口減、(3)女性の社会進出――の3つです。

また近未来的には、迫りくる「Artificial Intelligence(AI)革命」に期待しつつ、恐怖感も覚えています。AI革命が本格化したとき、世界は根底から変革されるでしょう。上記の3事項もAI革命に呑み込まれ、現在とは全く異なるソリューションへの着地を目指すことになりそうです。

欧州の移民・難民問題とテロ

西欧諸国の移民・難民受け入れの歴史は非常に長く、第2次世界大戦後、あるいはベルリンの壁の崩壊後などに大型化しています。最近、シリア内戦の泥沼化で大量の政治難民が欧州に押し寄せ、問題化しました。ただ、この問題自体は昔からあり、欧州諸国が受け入れ限界に差し掛かりつつある中、シリア難民問題が勃発してしまったと私は考えています。

ドイツのメルケル首相は80万人の難民受け入れを即座に発表し、世界中から称賛を浴びました。しかし、さすがのドイツも限界に差し掛かっており、当初の国民的熱狂がさめていることも事実です。メルケル首相は「少子高齢化の進むドイツで、新しい若い労働力を移民として受け入れることは、ドイツ経済や国益にも合致する」とも述べています。私はこの主張には、必ずしも同意できません。後述するように、労働力不足の問題はAI革命で解決されるかもしれないからです。

いずれにせよ、移民・難民問題は「遠い欧州のできごと」ではなく、むしろ「日本でも近い将来に起こり得ること」と受け止めるべきでしょう。

日本の少子高齢化・人口減

少子高齢化は非常に厄介な問題ですが、一方の人口減は知恵と工夫で対処可能だと私は考えています。人口が少なく国土も狭い国家でも、的確な国家戦略運営を行えば「裕福で幸せな国」をつくれるからです。オランダやシンガポールが好例です。

現在、英国国内はEU(欧州連合)離脱を巡って大激論になっていますが、離脱派の主張の一つは「EUの足かせから自由になり、コンパクトで機敏に環境変化に対応できる新しい英国にしよう」というものです(オランダ化を念頭においた議論)。無論、少子高齢化が進むことで人口のピラミッドが崩れ、少数の若者が多数の高齢者を支える構造は好ましくありません。日本でも英国でも、年金や社会保障が若者の肩に重くのしかかると、彼らの勤労意欲はそがれてしまいます。

だからといって現在の公的債務を減らすため大増税に踏み切れば、日本の景気は即座に悪化し、深刻なデフレに再度転落するでしょう。従って、人口ピラミッド逆転の是正策について、日本の政治家や官僚はもっと知恵を絞り、解決策を模索すべきです。ただこの問題も、AI革命が本格化したら、解決の切り口が変化する可能性が高いと思います。

女性の社会進出

日本では団塊世代が一挙に引退しつつあり、この労働人口の大穴を埋める必要があります。欧州のように移民受け入れで対応する選択肢もありますが、大規模な移民受け入れには社会不安を増幅する副作用もあります。そもそも移民に頼らなくとも、日本には女性という今まで積極活用されてこなかった労働資源があるのです。

女性の方が男性より優れた能力を発揮する領域は多々あります。例えば、マンションに関する事業です。マンションを買うとき、意思決定は「妻の意見」を強く反映しているはずです。特にキッチンや水回りなどは、女性視点を取り入れないと「売れる、貸せる」マンションになりません。ここに女性活躍の好機があります。

近い将来は女性の活躍がさらに進み、日本の大企業でも、女性役員・女性社員が男性と同数程度に増えていくだろうと、私は楽観しています。ただし、現内閣が主張するように「女性の社会進出をスピードアップしたい」なら法規制を改革するか、あるいは経団連などが自主運営ルールを作り、女性登用を義務づけることが効果的でしょう。

AI革命について

ジェームズ・ワットの蒸気エンジン発明により、産業革命が起きたのは250年前でした。この発明は社会発展や人口拡大を急速に促しましたが、こうした革命は人類史上初でした。産業革命は人間の筋肉を「機械の力」が代替することで、人類の生産性を飛躍的に向上させました。一方、今姿を現しつつあるAI革命は人間の「頭脳」の置き換えがターゲットであり、本格化すれば産業革命同様の大きな変革をもたらすでしょう。

先般、グーグルが開発した囲碁AIの「AlphaGo」が韓国の天才棋士に圧勝、世界中が驚きました。IBMの「ワトソン」は既に日本の金融機関にも導入され、顧客からの問い合わせの振り分けに使われています。こうしたAI革命は労働現場も変えていきます。オランダのロッテルダム港は世界貿易の要ですが、同港の一部は完全ロボット化され、港湾荷役に人間が関与していません。その結果、失業を恐れた港湾労働者がストライキを打ちました。

AI革命は裾野の広い産業から影響力を行使するはずです。典型例は自動車産業で、グーグルの自動運転システムにより、やがてコンピューターが無人自動車をコントロールする全く新しい「クルマ社会」が出現するでしょう。愛車を高速疾走させる楽しみはなくなるでしょうが、渋滞・事故は激減します。そうなると、まず自動車保険が不要になります。事故が起きないなら、クルマの強度は最低限で良いはずなので、高級車用の鋼板も売れなくなります。このようにして世の中が全体的に変わっていきます。今はUber(ウーバー)のタクシー配車サービスが話題ですが、タクシーも将来は無人化されるでしょうから、世界のタクシー産業の構造も一変します。

良いことばかりとは限らない

こうしたAI革命がどんな未来をもたらすのか、正確に占うことは困難ですが、革命後の総雇用数は大幅に減少するはずです。経済産業省は日本企業がAIやロボットなどの技術革新をうまく取り込まなければ、2030年度の労働者数は15年度に比べ735万人減るという試算を発表しています。就労人口がどんどん減っていくならば、中国・インドなど、現在「人口ボーナス」という視点で注目されている人口大国は苦しい立場に陥ります。

一方でAI革命を担う新しい産業が多く出現するはずですが、前述の通り、これらの新産業の雇用創出能力は非常に低くなる可能性があります。最悪、ロボットが人間からどんどん職を奪い取り、行き着く先は「人間疎外」かもしれません。その結果「ロボット化失業保険」ができるかもしれませんし、年金制度や税制も抜本修正を余儀なくされ、国家と国民との契約関係も根底から見直されることになりそうです。

「格差拡大リスク」も看過できません。一握りの「ロボットを駆使してビジネスを少人数で展開し、富豪になった層」と、大多数の「ロボット失業を余儀なくされた貧困層」に分化することもありえます。となると年金制度・徴税制度は、「一握りの勝者」が「大多数の同年配敗者」の面倒を見る形態に着地する可能性もあります。功なり名を遂げた金持ちが同年配の貧困群を支えるのであれば、人口構成が逆ピラミッド型でも、大した問題にはならないでしょう。

いずれにせよ、AI革命が地球上を覆い尽くす30~40年先には、この革命に適合できた人だけが生き残れ、メリットを得ることができるでしょう。従って日本の若者たちはAI革命を念頭に置きながら自らの専門性や実力を磨き、自分の身や職を自分で守ることが大切になります。投資や資産運用でも、このAI革命の影響度を意識しているのとしていないのとでは、大きな差ができるに違いありません。

青木健太郎(あおき・けんたろう) 1980年一橋大学商学部卒。新日本製鉄(現・新日鉄住金)、山一証券英現地法人投資銀行部門長、JT英ロンドン社長などを経て、2005年に投資・M&Aファンドのエピキュール・グループ設立。代表に就任。ロンドン在住歴18年。山梨県出身。
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