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転ばぬ先の不動産学

投資用マンション売却益にも控除 意外な優遇税制 不動産コンサルタント 田中歩

2016/5/11

不動産関連の税制の中には、「知る人ぞ知る」というものがいくつかあります。その一つをご紹介しましょう。2009年と10年に不動産を購入した人に限り、その不動産を売った場合に税制上の特典があることをご存じでしょうか。

09年に不動産を購入した個人は15年1月1日以降、10年に購入した人は16年の1月1日以降に売却した場合、売却益(売れた価格から買った価格や仲介手数料などの譲渡費用を差し引いた額)から最大1000万円を控除できる、つまり引き算できるという特典があるのです。

なぜ09年と10年に不動産を購入した人に限定されているのかというと、08年のリーマン・ショックが日本の不動産市場の動向に大きな影響を与え、地価下落を招いたからだと思います。不動産の流通促進のために景気刺激策として導入されたのでしょう。

本来、不動産の売却益(譲渡所得)には20.315%の所得税がかかりますが、09年と10年に不動産を取得した人に限り、1000万円までの売却益はなかったことにしてもらえるわけです。

自らが居住していた不動産を売却する場合は3000万円の特別控除が利用できますが、この「1000万円控除」は居住用でない物件でも利用できます。つまり、投資用として取得した不動産でも利用できるのです。

ここ数年、東京23区内の中古マンション市場は活況で価格は13年以降上昇トレンドにあります(グラフA)。

仮に09年に60平方メートルの投資用中古マンションを1平方メートル当たり55万円で取得した場合、取得金額は3300万円になります。現時点だと1平方メートル当たり約70万円で売却できるわけですから売却価格は4200万円となります。

通常だと売却益は900万円(=4200万円-3300万円)となり、約180万円(売却益900万円×税率20.315%)の税金が課税されます。しかし、最大1000万円までの控除が利用できますので約180万円の税金がかからないことになるわけです。

どのタイミングで売るにしても売却益が出なければこの特典は使えません。このまま価格がまだ上がる、当面は下がらないと思う方はしばらく持ち続けるのもよいでしょう。ただし、相場が下がり、利益(譲渡益)が出なければこの特典の意味はなくなります。

東京23区内の中古マンションの価格が上昇を続けるのかどうか、筆者は今後の市況の推移を見極める必要があると考えています。

先ほどの東京23区における中古マンションの平均成約単価の推移に、在庫件数を重ねてみました(グラフB)。

一見して分かるように「在庫が増えると価格は下落する」「在庫が減ると価格が上昇する」という傾向が見て取れます。15年前半から在庫が急上昇していますので、今後もこれまでと同じトレンドで価格が上昇するかどうか様子を見る必要がありそうです。

次に、東京23区内の中古マンションの平均成約単価と日経平均株価の関係を見てみましょう(グラフC)。両者には強い相関性があることがわかります。これは東京23区内の中古マンションを買った人の中には、株価が上昇したために思い切って購入した、あるいは子供や孫のために住宅取得の支援をしたという方がそれなりに存在したからなのではないかと推測します。いわゆる、株価上昇に伴う資産効果によって中古マンションの相場が上昇したということです。

しかし15年夏ごろから日経平均は下落傾向に変化しました。もし、株価上昇に伴う資産効果が中古マンションの価格に一定の影響を及ぼしているとすれば、そろそろトレンドに変化が表れる可能性もありそうです。

4月29日に米財務省が為替報告書において、日本を通貨政策の「監視リスト」に指定したことなどから、今後、より大型の金融緩和をしにくい状況になったともいわれています。「円高・株価下落」が今後のトレンドになるとしたら、23区内の中古マンション価格にさらに大きな影響を及ぼす可能性もありそうです。

ところで、不動産投資の目線で今後の中古マンション価格を予想する場合、賃料がどのように推移しているかを見る必要があります。賃料が上昇すると考えられているなら中古マンション価格は上昇、逆ならば価格は下落するからです。

23区内の中古マンション平均成約単価と23区内のマンション平均賃料単価の推移を見てみましょう(グラフD)。中古マンション平均成約単価は13年以降、上昇していますが、マンションの平均賃料単価は08年のリーマン・ショック以降は下落を続け、14年以降はほぼ横ばいとなっています。投資という側面から見ると、賃料収入が上昇しないのに物件価格だけが上昇するという妙な状況になっているといえます。

こうした現象が発生しているのは、金利の低下が原因だと考えられます。賃料が上がらないのに価格が上昇するということは、「年間賃料(横ばい→)÷価格(上昇↑)=表面利回り(下落→)」という算式を見て分かる通り、利回りが下がるということになります。

利回りが下がるなら投資をしようという気にならないと思うでしょうが、投資をする場合に重要なポイントは「表面利回りと金利の差」すなわち「利ザヤ」が稼げているかどうかです。

表面利回りの低下と同じ程度に金利が低下するなら「利ザヤ」は維持されますので、表面利回りが下がっても(マンション価格が上がっても)投資する妙味はあるということになります。つまり、ここ数年は、金利低下と同じようなペースで表面利回りが低下(価格は上昇)したことによって、グラフDのような現象が起こったというわけです。

筆者が分析したところ、東京23区内の中古マンションにおける「利ザヤ」はリーマン・ショック前に4.3%まで下落しましたが、その後5%前後まで上昇。現在は4%を切る水準でほぼ横ばいです。これが意味することは、東京23区の中古マンションに投資をする方にとっては利ザヤは4%前後が最低ラインである可能性があるということです。

利ザヤが拡大するためには、表面利回りが上昇(賃料が上昇)するか、金利が下がることが必要ですが、現在の経済環境に鑑みると、簡単に賃料は上昇しそうにありません。

今年2月からマイナス金利政策がスタートしていますが、民間金融機関が融資する際の金利は、その収益構造からしてマイナスとなることはまずないでしょう。しかも、ここまでの低金利になるとこれ以上の金利低下はそう簡単ではないと思います。つまり、金利面からみても中古マンション価格が引き続き上昇する要素はなさそうです。

このようにさまざまな指標を見ると、これまで通り中古マンション価格が上昇トレンドを継続するかどうかについては、かなり微妙な状況になっているように思えます。

09年、10年に投資用中古マンションを買われた方は、せっかく与えられた税制メリットを享受するためにも、中古マンションの足元の市況だけではなく、今回挙げたいくつかの指標をにらみながら、売却のタイミングを狙う必要がありそうです。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。5月14日(土)「円高・株安で不動産市況はこうなる! 収益物件の売却戦術を考えるセミナー」を開催。詳細はhttp://www.sakurajimusyo.com/semina_160514へ。

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