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茅乃舎に頼らない ブランド戦略で地方企業は生き残る

久原本家の挑戦(3)

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だしを中心に保存料などが無添加の商品をそろえた「茅乃舎(かやのや)」は食通にとどまらず主婦や料理好きの支持を集める人気ブランドとなった。ブランドの原点は福岡県の里山にあるレストラン。そこのメニューをアレンジして家庭で使えるようにした商品が、人気を集める調味料やドレッシングだ。同ブランドを運営する久原本家グループ(福岡県久山町、河辺哲司社長)としてはその人気に乗じて、多方面に商品を展開し、売り上げを伸ばそうとするのが一般的な見方だろう。大手広告代理店も将来の有力クライアントとして一層の規模拡大を期待しているという。しかし同社は茅乃舎に頼らないブランド戦略を進める。そこにも顧客第一主義の視点が見て取れる。

前回、久原本家の黎明(れいめい)期を支え、「おもてなしの匠(たくみ)」と評される寺沢美代子さんを紹介した。実はもう1人、久原本家の成長に貢献した女性がいる。寺沢さんが販売現場から支えた1人なら、もう1人はブランド戦略の確立に力を注いだマーケティング本部の嘉村里美次長(58)だ。2人はほぼ同時期に入社。嘉村さんは福岡市の老舗百貨店である岩田屋(現岩田屋三越)の販売現場に立つ傍ら、茅乃舎のブランドポリシーが明確になる過程をともに歩んだ人物。寺沢さん同様に自社商品と顧客を愛するがゆえに河辺社長に物おじせず意見をぶつける。今や2人を「風神と雷神」と呼ぶ社員もいる。

かつて嘉村さんは、前回取り上げた椒房庵(しょぼうあん)のめんたいこを販売するため、全国の百貨店の催事会場を回る日々を過ごしていた。各地で自社商品を売り込み、知名度の高めようと購入者に礼状を書き、ファンを増やしていった。2004年秋、東京・新宿の百貨店で催事の準備を終えたとき、河辺社長から1本の電話がかかってきた。「これから銀座に行って人と会ってくれ」

銀座で待っていたのは、レストラン運営のコンサルタント。河辺社長が構想していた「レストラン茅乃舎」の展開に向けた相談だった。店舗用地も料理人にもメドはついていたが、接客など運営ノウハウは社内にない。「久原本家の考えをレストランで具現化する人材が必要」「どんなコンセプトで運営するのか?」。コンサルタントと打ち合わせをしながら嘉村さんは「当時は何でも兼務していたから、また何かあるのかな、くらいの感覚だった」と振り返る。

そもそも茅乃舎の発端は、2000年代はじめにイタリア視察から戻った河辺社長が「これからはスローフードだ」と宣言したことから。椒房庵のめんたいこでも塩分を控えめにするなど健康に配慮した商品作りをしており、伝統的な調理法や食材を守る考え方を取り入れるのは久原本家では自然な流れだった。河辺社長はまず野菜作りから始め、福岡県久山町にある本社工場より少し山に入った土地に茅葺き屋根の建物を作り、レストランを開こうと準備を進めていた。久原本家の考えるスローフードの実践の場としてのレストランだ。その頃、嘉村さんはめんたいこ販売の現場で「新たな商品展開が必要だ」と考えていた。原料である北海道産の良質なたらこの確保が難しくなっていたからだ。量を確保するため産地を変えるような妥協はしたくないとの思いがあった。「野菜を使った新たな加工食品」につながる河辺社長のレストラン構想は嘉村さんの思いとも一致していた。

そんな折の銀座での打ち合わせ。それでも嘉村さんは「自分は窓口役」と思っていた。しかし、レストラン開業まで半年に迫った05年3月、「レストランの立ち上げには嘉村さんが適任」とコンサルタントのひと声で支配人への起用が決まった。物販の経験はあっても飲食業の経験はない。「突然のことだった。メニュー開発を手伝いながら、販売する商品は何がいいのかと、考えつく限り何でもやった」と嘉村さんは笑う。「何が無添加なのか、どんな素材がいいのか」。各地から集めた食材を吟味し、料理長が考えたメニューを生かして店舗で販売できる商品作りを進めた。その中の1つが、後に茅乃舎の代名詞となるアゴ(トビウオ)を使っただしパック。5~6人のプロジェクトで「開発から販売までみんな兼務だった」という。

「会社にマーケティングという名前がついた部署ができたのは3年位前なの」と嘉村さん。10年に茅乃舎の東京ミッドタウン店(港区六本木)ができるまでは「マーケッターなんていなかった」。ブランドのコンセプトが決まったらそれを愚直に進めていく根気強さが原動力だった。レストランの運営も同じだった。「経験と勘で動いていた。いうなれば、動物的なカンかしら」。すべての社員がいい物を作って売ることに集中していた。河辺社長ら経営層が夢を語り、社員が夢に実現に一丸となっていたという。商品開発も「これはどうしたらおいしくなるか?」「こんな商品が喜ばれるんじゃないか?」と膝詰めで話し合う日々が続いた。

茅乃舎は東京ミッドタウン店ができる以前、商品数は50~60アイテムだった。開店に向け、1年で50アイテムを追加すべく、開発を進めた。企画から開発、販売までをみんなが兼務していたため「商品に対する愛着がありすぎる」(嘉村さん)。商品のスクラップ・アンド・ビルドはなかなかできない。

レストラン事業と店頭での商品販売を組み合わせたブランド展開の全てが成功したわけではない。失敗の代表例が「HiBiNa(ひびな)」というブランドだ。「日々食べる野菜」をコンセプトに洋風ドレッシングやスープのもとで商品構成した。「茅乃舎」と同様の展開を目指したが、東京都中央区日本橋の店舗は1年ほどで閉店。商品にファンはついてくれたので「今後の立て直しが必要」と嘉村さんは素直に認める。

その一方で、スーパーなど小売店向けブランドの「くばら」は順調に成長している。福岡では焼鳥店などで出るタレつきキャベツを家庭で楽しめる「キャベツのうまたれ」が1999年にヒットし親しまれている。得意のアゴだしを使った商品展開も進む。昨冬シーズンに向けて発売した「あごだし鍋シリーズ」は九州全域でテレビCMを放映したほか、全国チェーン店でも一部取り扱われた。店頭価格はミツカンなど大手メーカーに比べ数十円高かったが、人気を集め品薄になったという。今夏シーズンではめんつゆの「あごだしつゆ」を発売、商品展示会でも注目を集めている。

現在の久原本家グループから送り出しているブランドは「茅乃舎」のほか、めんたいこを中心とした「椒房庵(しょぼうあん)」、小売業向けの「くばら」の3種類だ。それぞれ価格や利用する素材の違いがある。どれもが久原本家の商品ブランドであることについて河辺社長は「福岡のお客さんは知ってると思う。全国のお客さんには、結果的に知られるのは構わないが、自分たちから『同じメーカーです』とは言わない。独立したブランドとして展開していきたい」という。保存料などを使わないことに価値を置く「茅乃舎」と、使う場合もある他のブランドが一緒になってしまうと、「お客さんが迷ってしまう」からだ。会社の方針がぶれて見えてしまうことを河辺社長は好まない。しばしば、大手スーパーなどから「茅乃舎」ブランドを冠した小売業向け商品の開発を打診されるが、全て断っているという。「くばら」ブランドの商品に「あの茅乃舎の久原本家の商品です!」という店頭販促(POP)も掲示しないように依頼している徹底ぶりだ。

もちろん、流通業のバイヤーには周知の事実であり、SNS(交流サイト)が盛んなご時世で一般消費者にも知られるようになった。今後の企業としての成長には主力3ブランドの推進と、他ブランドにより顧客層の幅を広げることが必要になる。

久原本家グループは規模も大きくなり、社員数は河辺社長が家業を継いだときの社員6人の家族経営から、850人になった。外部からの人材登用も進んでおり、嘉村さんは「マーケティングの専門家も入ってきた。古参社員の情熱と組み合わればよりよくなる」と期待する。新旧の融合が進む中で今後のブランド戦略がどう展開されていくのか。河辺社長は九州で食品企業がつぶれていったのを目にしてきただけに、「地方企業でも大手流通企業と連携し生き残れる姿を目指す」と意気込む。規模が大きくなり企業としては成長が続くが、社長が夢を語り、それを目指してまい進してきた社内の一体感を維持できるのか。久原本家グループの続く挑戦に、消費者として期待が膨らむ。

(西部支社編集部 川名如広)

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