オスもおだてりゃ……(下) 繁殖戦略をめぐる話
女性に「あなたすごいわ!もっと頑張って!」と言われると、天にも昇る気になり死ぬほど頑張るあなたは、悲しいかなオスなのです。女性に反応せず女性にもてたいと感じない草食系男子が増え、女性の方が頑張り女性が自立して生活できる社会になると確実に男性の居場所はなくなります。
男性としてではなく優秀な精子だけあればいい社会になってしまうかもしれません。日本はまだまだ男性中心の社会構造で、女性が自立しにくい仕組みや習慣、モラルを引きずっていますが、女性のリーダーが多くなれば幸せの基準も変わっていくはずです。
■したたかなメス
いずれにせよメスの方がしたたかなのは間違いありません。ブタもおだてりゃ木に登る、ではないですが「オスもおだてりゃ木に登る」が、ほ乳類の生き方なのかもしれません。
オスにとって衝撃的な話になります。ここから先は覚悟して読んでください。
ニホンザルは一般的に複数のオス複数のメスが数十頭で一つの群れを形成します。その中でオスにもメスにも順位があります。オスが群れを出る母系集団が群れの基本で、他の群れから出てきたオスが群れの周辺をうろついていたり、群れに認められて群れの構成メンバーになったりします。
リーダーになるオスの条件は、肉体的に強靱(きょうじん)なこと、群れの和をとること、そして何よりメスにモテることです。順位の高いオス同士は他の群れからメスや子を守るのはもちろんですが、一方で覇権争いで牽制し合う場面も多くあります。この時にメスが加勢してくれるかどうかが最終的には勝負を決します。
オスは基本的に闘争心が強く、より順位の高いオスはメスと交尾できる可能性が高くなり、より多くの子を残すと考えられてきました。確かにオスの努力が報われるのはそこしかないように見えます。
昔は、母系は追えるのですが、父系は追えませんでした。どのメスが生んだかは客観的に分かりますがどのオスが父親かは推定しかできません。ヒトも同じですよね。あなたの子よと言われれば、信じるしかありません。
ニホンザルの繁殖期は実りの秋です。栄養状態が良いメスは一斉に発情をむかえます。動物園で観察していると、メスは機会があるとオスの順位に関係なく交尾をします。
オスはより順位の高いオスの目を盗み、順位の高いオスは「お前何やってるんだ」と言わんばかりに止めに入っています。乱婚型です。
ところがメスは順位の高いオスとも必ず交尾をします。グルーミングなどのコミュニケーションもより頻繁に行います。あたかも「あなたの子を宿したのよ」と言わんばかりです。
近年遺伝子の解析で父系が追えるようになりました。父親が特定できるようになったのです。
■巧みな繁殖戦略
春になるとベビーラッシュです。群れを率いる順位の高いオスは群れの子を守ります。動物園でも子供を治療のために捕まえようとすると、順位の高いオスたちが一斉に集まりこちらを威嚇してきます。それは時にこちらの身が危険になるかもしれないと感じるレベルです。我が子を守る強い意志を感じます。
遺伝子解析の結果ですが、実は順位の高いオスの子よりも順位の低いあるいはまだ順位もつかない若者の子の方が多いという結果が出ています。
考えてみると、ある特定のオスの子ばかりが生まれると、血統的な偏りが生まれます。遺伝子の多様性が失われていきます。近親交配の危険も生じてきます。
強いオスに率いられることで、メスは安心できる育児環境を得られます。我が子には遺伝子の多様性(=個性の豊かさ)を手に入れることができます。
繁殖戦略は実に巧みです。その点ではオスはメスの足元にも及ばないことが多いのです。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。