窮地脱出に大成功! 深夜の逃走劇立川談笑

2016/5/4

立川談笑、らくご「虎の穴」

立川談笑一門会で高座に上がる落語家の立川談笑さん
立川談笑一門会で高座に上がる落語家の立川談笑さん

今回は産業廃棄物処分場を取材したときの話をします。もう10年以上も前のことなので、テレビ取材の手順や方法は当時のものです。

山奥にあるその処分場は、掘削した山土を売却した後にぽっかりと空いた穴でした。穴といっても、東京ドーム3個分もの広さ。ほぼ垂直に深さ50メートルは掘り下げられていました。当時の作業は、ダンプカーが穴の底に下りて産業廃棄物を投棄して、パワーショベルでその上に土をかける。ひたすらこれを繰り返していました。その後の計画としては、穴がいっぱいになったらさらに廃棄物を積み上げていって高さ50メートルの山にするのだとか。下から上まで100メートルの巨大な廃棄物の山ができあがる寸法です。

ここは正式な届け出を済ませた廃棄物処分場で、「安定5品目」といわれる一般廃棄物を受け入れています。しかし一方で、医療廃棄物だとか、水質や土壌の汚染につながる廃棄物をこっそり処分しているらしいという不法投棄疑惑があったのです。

明るいうちはダンプカーがひっきりなしに出入りしています。ところが日が暮れて営業を終えると、昼間は見かけなかった一般乗用車が周辺を行き交い始めるのです。辺りに民家はないし、抜け道でもないのに。聞けばこれはすべて不法投棄に目を光らせる地元の自警団のみなさんなのでした。警察のパトカーも加わって、ものものしい。厳重な警戒態勢です。

夜更けになると今度は奇妙な雰囲気の乗用車が登場します。乗っているのはパンチパーマや丸刈りの、一目でそれと分かる風貌の人たちです。しきりに携帯で電話しているのは、パトロールの情報を仲間と確認しているのか。警戒網をかいくぐるように、ダンプカー数台が連なって真っ暗い処分場に滑り込んでいきます。

そんな中、我々取材班は処分場を見下ろせる位置に陣取って、毎夜行われる「真夜中の投棄」を撮影することに成功しました。

その最終日。取材の仕上げです。いよいよ姿を現して、彼らに直撃します。

処分場の前の暗がりで待つこと数十分。ゲートが開いて1台のダンプカーが出てきました。照明をつけると、運転手の驚く顔がありました。ハンドマイクを突き出して、取材趣旨を説明して質問を投げかけます。もちろん答えてくれるはずもなく、走り去るダンプカー。これも想定の範囲内です。用意した車に駆け込むと、ダンプカーの後を追います。どこから来て、どこに帰るのか。間近から見るナンバープレートは、不自然なほどに汚れていて全く判読できません。

そのうちダンプの運転手は追跡に気づいたらしく、我々を振り切ろうとしているように見て取れました。追うロケ車。逃げるダンプカー。

「無理はしないでください。道交法の範囲内で追いましょう。事故になってもいけないから、深追いはしません。ここからは状況次第で考えますんで」

冷静なディレクターで頼もしい。その時、ふいにドライバーのKさんがバックミラーを見てつぶやきました。

「あー、後ろ。なんか、ヤバくないっすか」

振り返ると、すぐ背後に1台の車が迫っていました。逆光の中に垣間見えるシルエットは、パンチ&丸刈りのペア。怖い風貌の人たちです。トラブルが迫ってくる~!

「追跡はここまでにしましょう。ロケアップです。撤収で!」

ディレクターが決断を下して、車は大きく脇道にそれました。

ところが後ろの車はなおもついてきます。道を曲がっても、やはりついてくる。いかんいかん、いかーん! 今度はこっちが追われてる!

考えてみれば、広大な処分場での不法投棄によって何億、何十億もの利益になる。それをたかだかTVクルーのために反故(ほご)にされるのは何が何でも阻止したいはず。もしも捕まって、撮影したVTR素材を強奪されることになったら、とんでもない一大事だ。それどころか、あの処分場に車ごと埋められたが最後、100メートルの廃棄物の底に……。うわあー、逃げろや、逃げろ!

田んぼのあぜ道を走って、曲がる。曲がってまた走る。どこまでも彼らは追ってきます。とっさにドライバーKさんが機転を利かせました。曲がってすぐに稲荷神社を見つけるとわずかな暗がりに車を突っ込んで、即、エンジンオフ。

「頭、下げて!」

直後に、目の前を追っ手の車が猛然と駆け抜けていきました。かくれんぼ作戦、成功!

「ふう。あぶなかったなあ」

「よく逃げたよ」

「あいつら気づかないで行っちゃった」

「あはは」

ひとしきり笑っていると、またもKさんが、

「シッ! 何か聞こえる」

ピタっと口を閉ざす一同。ルルル、ルルと低いエンジン音が確かに聞こえます。身を伏せつつそっと覗くと、ヘッドライトを消した車がゆっくりと目の前を横切っていました。あの2人が鋭い目つきで左右をうかがっている。うわ、わ。全身硬直。まさに、口から心臓が飛び出しそうな瞬間です。

車が通り過ぎた途端、Kさんは逆方向に発進! やった。完全に裏をかいた。逃げきった!

駅前のホテルに到着して、午前3時。みんなで乾杯した生ビールのうまかったこと。後日、ばっちりオンエアも果たしましたよ。

深夜の逃走劇は大成功というお話でした。

☆      ☆     ☆

次回のテーマはまたまた角度を変えて、「カレー」。スパイシーで楽しいマクラをぶつけておくれッ!

(次回5月11日は立川笑二さんの予定です)

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>独演会は5月12日、6月14日、7月13日の予定。吉笑(二ツ目)、笑二(同)、笑坊(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は5月27日、6月24日、7月28日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/
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