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サントリーホール開館30周年、「惑星」の響き

2016/4/30

サントリーホールが今年10月、開館30周年を迎える。日本を代表するクラシック音楽のコンサートホールとして、国内外の著名オーケストラが名演を繰り広げてきた。ピエタリ・インキネン指揮の日本フィルハーモニー交響楽団によるホルストの組曲「惑星」の演奏風景を交え、サントリーホール館長でチェリストの堤剛氏とホール内を巡った様子を伝える。

弦楽器が5拍子の不穏なリズムを刻む。不安定な響きが徐々に大きくなり、ティンパニが強烈な連打を始める。英国の作曲家グスターヴ・ホルスト(1874~1934年)の組曲「惑星」の1曲目「火星、戦争をもたらす者」。ホルストがこの曲を書き始めた第1次世界大戦前夜の社会状況を映しているといわれるが、現代ではむしろ「スター・ウォーズ」を連想させるかもしれない。

4月22日、サントリーホール(東京・港)での日本フィル定期演奏会。火金水木土の曜日名の惑星群に天王星と海王星が続く計7曲から成る組曲が、大編成のオーケストラによって鳴り響いた。「私はあまり取り上げてこなかったが、演奏効果が高い作品」と日本フィルを指揮したインキネン氏は言う。「優れた作品なのに全7曲を通して聴けるコンサートはめったにない。もっと演奏されるべきです」と同公演を聴いた音楽評論家の萩谷由喜子さんも話す。

パイプオルガンや舞台裏の女声合唱も入るなど大編成を要するホルスト作曲の組曲「惑星」。ピエタリ・インキネン指揮日本フィルハーモニー交響楽団の演奏風景(4月22日、サントリーホール)

最も人気があるのは4曲目の「木星(ジュピター)」だ。「快楽をもたらす者」との副題の通り、心地よいリズムとポップなメロディー、色彩感にあふれている。Jポップのヒット曲、平原綾香さんの「ジュピター」は「木星」の美しい旋律を使っている。この曲だけ抜粋して演奏する例も多い。ホルストは全7曲を完奏して初めて作品になると考えていた。しかし「木星」のような突出してポピュラーな曲があるため、クラシックの公演では全曲演奏が敬遠されがちな面もある。

演奏の機会が少ないのは、大掛かりな編成を要するためでもありそうだ。1曲目の「火星」から早くも、宇宙空間を思わせる持続性の高い音色が、大音響にブレンドされて登場する。これを鳴らすのが、サントリーホールの舞台に向かって正面高台にあるパイプオルガンだ。「惑星」の演奏には巨大なパイプオルガンが欠かせない。管弦楽の重低音を増幅させ、高音域を艶やかに伸ばすオルガンの効果は大きい。

ここでオルガン設置型のサントリーホールの音響特性が生きてくる。「惑星」にぴったりのホールなのだ。堤氏に案内されてホールを巡った様子の詳細は映像をご覧いただきたい。堤氏はホール内に足を踏み込んだ途端、まず「パイプオルガンを設置するのが建設の必須条件だった」と語った。「どの席でも同じ音質で聴ける」「温かみのある音」など音響性能も強調した。

指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤン氏(左)と面会したサントリー社長の佐治敬三氏(当時)=提供 サントリーホール

ホール建設の構想を練る中で、当時サントリー社長だった義父の佐治敬三氏とともに堤氏はドイツを視察した。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督として君臨していた指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤン氏と面会し、巨匠の提案を受け入れた。それがパイプオルガンの設置であり、客席がステージを取り囲み、ぶどう畑のようになだらかに上っていく「ヴィンヤード型」と呼ぶホール内の形状だった。

開館30年の今年、カラヤン氏と縁が深いサントリーホールで「惑星」が鳴り響くことに感慨を抱くファンもいるはずだ。「惑星」はホルストの死とともに忘れ去られつつあった。この作品をウィーン・フィルハーモニー管弦楽団やベルリン・フィルを指揮して現代によみがえらせたのがカラヤン氏だった。1961年ステレオ録音のカラヤン指揮ウィーン・フィルによる「惑星」のレコードは長年、名盤として聴き継がれている。最新のオーディオ技術に関心を寄せたカラヤン氏が「惑星」をメジャーな楽曲に引き上げた、歴史的録音である。

サントリーホールの正面玄関前は「カラヤン広場」と呼ばれる。ホール内を巡るあいだ、堤氏は「カラヤン先生」を何度も口にした。カラヤン氏のお墨付き、音響性能の良さ、舞台と客席との近さによる親密な雰囲気などが評判を呼び、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルをはじめ世界の名門オーケストラの来日公演は引きも切らない。日本フィルやNHK交響楽団をはじめ今では在京オーケストラのほとんどが同ホールで定期公演を開く。

東京を世界有数の音楽都市に引き上げたサントリーホールの功績は大きい。ただ、今では日本にも高性能のコンサートホールが多くある。クラシック演奏会の聴衆の高齢化も進んでおり、若い聴き手の育成も急務だ。インターネットによるライブ配信も普及し始めている中で、海外の主要ホールとの連携による新サービスの提案も課題になりそうだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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